よし! ここは俺が…… (帰路へ)
……
「よぉし! 今日から地上へ帰還せようと思うが、何かあるかの?」
朝食後のミーティング。
待機中も一体も現れないコウモリ男。いよいよ今日から退却が始まる
「特にはないがな」
と、ガハルト
「地上が心配だから早く帰ろう」
と、サディカ
「うむ。採取、採掘も程々にな」
と、ダイインドゥ。ディアン、ミスリールも頷く。
「僕? 特になにもないよ? 早くお日様に会いたいね」
と、アールカエフ
「俺も特には。地上にでられない……っていうのはないですよね?」
と、イザーク
”溢れ”であれば、すぐさま地上の頑強な隔壁、鉄門は閉じられる。内側から開けることはほぼ不可能だ
「わしらでも今から昇れば地上まで20~30日かかろう。それくらいあれば封鎖されていたとて、もう開いてるじゃろ」
と、ダイインドゥが応える
『なぁに。その時は我がこじ開けてやるわ! イザークよ!』
「は、はいぃ?」
「フジよ……。そうならぬように祈るがの。それじゃ出発するかの。帰りとはいえ油断せんようにの」
{おう!}
……
帰路40階
「ほ~~ん。帰りは”試練の間”を通らずに……か。ただの通路かと思ったが、けっこう広いのぉ」
40階の帰路ルート。往路は”試練の間”を通り、力を示さねばならぬが。復路はただ通過するのみ。
広さもそこそこあり、魔物の影もない。
「うんむ。この広間には採集物も採掘場もなさそうじゃなぁ」
と、壁の所々に”採掘ポイント”や異常がないか見て回るドワーフ一家。
「ケチ臭いの」
と、すぐに悪態をつくカンイチ
「本当に”溢れ”で、予算が尽きたのじゃないか、カンイチよ?」
「知らん。が、何回か潜らねば畑は買えんなぁ。またぞろこの穴蔵に潜るのか……」
「おいおい……まだ地上にもでていないというのに。早すぎるだろう、肩落とすの」
ため息つきながら、もう次のダンジョン攻略にげっそりするカンイチ。それに呆れるガハルト。
「そうじゃな。畑、買わんとの!」
「そうそう、その意気だ!」
その様子を冷めた目で見てるイザーク。そんなに嫌なら帝国に貰えばいいだろうと。口に出さないのはガハルトに睨まれるからだ。余計なことをいうなと
「ま、放っておけばいいって! イザーク君!」
「そ、そうですね。アール様。それにしても帰り道は寂しいものですねぇ。門みたいな構造物もなし。彫刻のような装飾品もなし。扉も。ただの通路ですね」
「でも、ここなら野営もできそうじゃん? 魔物もいないし?」
「それ、いい考えですね」
「うん? アールよ。もう眠くなったのかの?」
「失敬だな! 出発したばかりだろうに! とっとと行くよ!」
と、少々お怒りのアールカエフ。
「どうしたんじゃ?」
「うん。今のはカンイチさんが悪い」
……
38階
「おう! ”土”ゴーレムか! これで、”溢れ”だかも終息。ダンジョンも平常化したとみていいかの! 親方!」
「かもしれんの。が、相手はダンジョンじゃ。油断はできんがの」
38階層に入り、暫し。
待望の魔物の姿を認める。イレギュラー、”溢れ”の主役だったコウモリ男(仮)ではなく、地図にも記載のあるレギュラーの魔物を
「よし! ここは俺が……」
『うむ! 行くぞ!』
「……」
剣を握り歩みだすガハルトにフジが待ったをかける
”ぅおおん!” ”ぅわん!” ”ぅをん!”
走り出すクマたち
「……」
そして、立ち尽くしクマたちを見送るガハルト、その背中に
「ざんねぇ~~ん! 父ちゃん”土”ゴーレムの順番から外れてるだろ! 忘れたか!」
「な!?」
「ま! オレたちがどんどん強くなるからな! 見ていろ、父ちゃん! なぁイザーク! はっはっは!」
「ぬぬぬぅ」
ぎろりと、イザークに睨みの視線を飛ばすガハルト
「ひ! あ、あんまり煽っちゃ駄目ですよ、サディカさん……」
そして今度はぐいん! と、カンイチに向き直るガハルト
「……カンイチよ」
低い声ながらも、すがるようにカンイチを見つめるガハルト
「知らん。自分で交渉すればよかろうよ」
「むむむ……」
毎度のことだと他のメンバーは笑っているが
……
このような調子で出遭う魔物をすべて駆逐しつつ、登り階段までの最短ルートを進んでいく一行。但し、地図上にある近場の採掘や採取ポイントにはしっかりと寄るが
ダンジョン内の魔物もカンイチらの憶測とおり”溢れ”は終息したか、地図にある魔物と同じ。件のコウモリ男(仮)の姿を見ることはない




