詰まる? ふんづまりかい?
……
「ピタリとでなくなったの……」
「ああ、師匠。逆に静かすぎて気持ちが悪いね……」
この階層に閉じ込められること15日。
敵の攻撃を弾き、しのぎ、次の波へと備えていたが、小一時間たってもあれだけ押し寄せてきた新たな敵の襲来がない
「終わった……のかも?」
「ふむ、フジらが戻るまで警戒じゃ」
「了解!」
それから更に一時間。コウモリ男の襲来はなく時間だけが過ぎる。その間も警戒態勢は維持され襲来に備えていた。
「……これで終わればええな」
「ああ。だといいがの」
武器を構え、ダンジョンの通路の暗がりに目を凝らすダイインドゥとカンイチ
「終わったのであれば、ワシらは最前線で”溢れ”を耐え抜いたチームということになるのぉ」
「おうん? 何か景品もらえるのかの、親方」
「はっはっは。町の偉いさんやお貴族様、各ギルドに申請すりゃ金一封くらいは出るじゃろさ」
「……お貴族様かよ」
貴族と聞いて顔をしかめるカンイチ。それを見て、ダイインドゥは笑う
「がっはっはっはっは! カンイチのお貴族様嫌いは筋金入りじゃな。が、この世はお貴族様が回してるで仕方なしじゃな。ま、申請にしろ手間も面倒くさいし、どうせ端金じゃ。(申請など)せんでよかろうよ。『鍛冶師ギルド』の方には報告しとくがな。なぁに、大っぴらに騒ぎにはすまい。宴のいい酒の肴じゃ」
「うむ。鍛冶師ギルドには地図も借りてるしの。普段から世話にもなってるでな」
「それと、ギルドの連中にあのコウモリ男についても調べてもらわねばな。過去に出てれば記録もあろうさ。大量に得た爪の価値もわかろう。……これで終わりなら、誰ひとり、欠けることなく乗り切れて本当によかったわい」
「そうじゃな」
再び、ダンジョンの通路の暗がりに目を凝らすカンイチだった
その暗がりの先、遠くから
”ぅおおん!” ”ぅわん!” ”ぅをん!”
犬たちの鳴き声が、
「お! フジたちが帰ってきたようじゃ」
……
「それでフジよ。(ダンジョンの様子は)どうだった? ここへの襲来はピタリと止まっての」
フジの首に手を回し、ぐいと自分の膝の上に乗せる。
ゆっくりと顔を上げるフジ、カンイチの目をチラリ。
『うむ。連中の影はないな。狩り尽くしたのだろう。階段のところにもいなかった。下のどこぞの階の通路で赤いやつが詰まってる可能性もあるがな』
若い日本人がいたら『それフラグ!』と叫ぶところだろう。爺さんのカンイチには知るよしはないが
「通路に詰まってるかの?」
『可能性の一つだな。ひとつ下に覗きに行くか?』
「そうさなぁ……」
そこにふらりとアールカエフが通りかかる。
「うん? 詰まる? ふんづまりかい? カンイチ君? お便秘かね? ひょっとして親方?」
「わしは毎日出るぞい」
「い、いや、お便秘の話じゃないがの、アールよ……。因みにわしもちゃんとでとるぞ」
「僕も絶好調さ! 絶好腸? なぁ~~んだ。お便秘の話じゃないの?」
「特段、面白くあるまいよ。お便秘の話なぞ」
「お便秘は女性の深刻な問題よ? お便秘になったら言ってくれたまい? スッキリ爽やか『ヌルスル君』あるからね!」
「お、おう?」
『我には用はないな……』
「わしも世話になることはなかろうよ……そんないかがわしい薬は」
「聞こえているが! カンイチ君!」
……
「ふぅ……。ぜんぜんこないねぇ」
と、ミニ要塞にすっぽりハマってるミスリール。そのミニ要塞。二丁のアーバレスト、防楯もついて大戦中の高射砲のようだ。
じっと、その夜目が効く瞳をダンジョンの暗がりに凝らす
「見張りごくろうさま。代わろうミスリールさん」
と、お茶の入ったジョッキを渡すサディカ。
そのお茶を一息に飲み干すミスリール。
「ありがとうサディカ。大丈夫だよ。やっと”溢れ”も終わりかねぇ」
「だといいですね。それにしても相変わらずいい飲みっぷりですね」
「ん? 酒だったらいうこと無いけどぉ。ま、浅いところまでは我慢だな!」
「い、いや、地上に出るまででしょ……。酒の我慢は……」
と、呆れるサディカ。
「ここに籠もって16日かぁ。本当にオレら”溢れ”乗り切ってたら、凄いな!」
「そ、そうですね。41階まで来て”溢れ”に巻き込まれて生き残って。『迷宮ギルド』とかに報告するのかな?」
「わざわざそんなことしないだろうさ。地図だせやら、採集品見せろ、証拠見せろ、で、貴重な品くれ! と、あれこれうるさいだけだしな」
「ははは。かも? 『いいものくれ!』 ってのが笑えるわ」
「だろう。はっはっはっはっは。お貴族様が言いそうだろう」
「アールカエフ様ががいなかったら確定でしょうね。財宝を前に歯ぎしりしてるところもみたいかも?」
「ふふふ。悪趣味だなぁ~~サディカは」
「ミスリールさんは?」
「私らドワーフは関心ないよ? どうせなら極上の宝飾品に加工してから? コウモリの男の爪とか使って?」
「もっと悪趣味ですよ~~」
”はっはっはっはっは”
……
「それでどうする? カンイチよ?」
「どぅ……とは? 下の階を覗くというやつか?」
「ああ」
と頷くガハルト
「う~~ん。キリがないぞ。地上に向かってるときに尻に追いつかれるのはいやじゃが……」
「だが、一階下に並個体がいなければ終りと思っていいのでは? なぁ、親方?」
「ふぅむ。そうなぁ」
「ふぅ。毒を喰らわば皿までともいうでな。チラ、と覗いていくかの」
「カンイチさん。どうせ今日一日、会敵するまでゆっくり休むだろう? その間にこのフロアにゴーレムが湧けば”溢れ”も終わりと思っていいのでは?」
と、サディカ
「うん? なるほどの……」
頷くカンイチ
「うんむ。逆に”レギュラー”の土ゴーレムが湧けば……か。この静かな時を逃すのももったいない。ゆっくり休んでからだな」
と、こちらも納得のダイインドゥ。その視線は発言者のサディカではなく、ガハルトに。
立ち上がり、腰のトンファーに手を添え、固まってる。彼はすぐにも行きたかったようだが
「……ガハルト殿。どのみち、今すぐは無いぞい」
「う、うむ……」
「では、ゆっくり休むことにせようか。見張りは二人、交代での」
……




