詰まってる……ね (指導種)
……
「ふぅ……。デカい奴(茶色個体)の間合いもだいぶ測れてきたな!」
茶蝙蝠男を袈裟に切り捨ててきたサディカ。
所々、露出しているサディカの腕には蝙蝠男の爪がかすめたような赤い筋が幾筋も。
「お疲れ様、サディカさん。はい、タオル。ここに傷薬も置いていきますね」
「サンキュ、イザーク。しかし、いつまで続くのだか……」
汗を拭い、傷薬を傷口にすり込む。相手の爪に毒などは無いと確認しているが、感染症や炎症予防のために塗っている。
「そうですね。人数の多いパーティで良かったですよ。相手は物量で押してきますからね」
「そうだよなぁ。が、このチーム、よく出来てるよなぁ。親方たちが武器も直しちまうし。ミスリールさんなんか、戦いながら改良してるものな。なんだ、あの小さい要塞は……。あ、イザークの飯にも助かってるぞ! 干し肉だけじゃ戦えないもの」
「い、いえ。武器も思った以上に持ち込んでますものね……」
「そうだよなぁ。武器屋一軒分か? はっはっは。……まだフジ様が動いていないから余裕はあるのだろうが……」
「ええ、向こうはどれほど狩ってるのでしょうか。戻るたびにクマたちの毛艶が良くなってきますから」
「だよなぁ~~。背に乗せてもらってついていくか!」
「……死んじゃいますって」
”ぅおん!” ”ぅわん!” ”ぅをん!” ……
「お! 丁度、帰ってきたみたいですよ」
……
……
「ここに足止め食らって6日目か……」
と、カンイチ。
蝙蝠男の波状攻撃でここから一歩も出ることはできず。
「飯もあるし、資材もある。人もいるから休憩もとれる。まだまだいけるだろうよ」
「そうはいうがの。疲れは蓄積していくものじゃろうよ、気ぃ抜くなよ」
「まぁ、そうだが。俺はたいしたことないがな。物足りんくらいだ!」
ふふん! と鼻で笑うガハルト。
「うんむ。ヌシに聞いたワシが間違いじゃったわい。のぉ親方?」
ガハルトの剣を研いでいるダイインドゥに振るも、
「おぅん? ワシもどうということはないぞ。カンイチよ」
以前、ミスリールから聞いた話を思い出す。放っておけば一週間くらい不眠不休で鶴嘴をふっていると……
「……うむ。また聞く相手を間違えたようじゃ……」
起きて食事や雑談をしている仲間の顔を見回す……
「うんむ……」
ドワーフ族と虎人。イザークは仮眠中だ。アールカエフは自由だ。
「相談する相手がいないのぉ」
そういうカンイチ自身。魔改造によってそんなに休憩や睡眠も必要としないのだが
「え、ええ! オレ、父ちゃんみたいに脳筋じゃないから!」
即座に否定するサディカ
「ほ……そうかの。じゃ、風呂でも沸かすかのぉ」
「聞いてないでしょ! カンイチさん!」
「サディカさんも入るとええ。ゆっくり眠れるぞぉ」
「カンイチさーーん! オレ、脳筋じゃないしぃーー」
サディカの悲痛な? 叫びがダンジョンに響く?
……
そんなとき
「並個体6! うん? ……。新顔だ! 赤! 大きさは茶よりもおおきい! てか……身動きとれてるのか? あれ? 詰まってるんじゃない?」
ミスリールの緊迫した声。が、途中からなんとも気の抜けた声に
新顔と聞いて仮眠の寝床からガバリと起き上がるガハルト。すぐに得物をもって前線へと駆けつける
「む! ……たしがに、通路ギリギリだな……。何を考えてんだ。あれ……」
と、呆れているガハルト
「あれがボス個体……かのぉ」
カンイチも絶句だ。
「ちょいと間抜けだが、地上にでたらと考えるとゾッとするの」
「ああやって護衛が囲って上まで行くのかね? 師匠?」
「そうじゃな……」
「じゃぁ、何するかわからないし? オレと師匠で仕留めちゃうよ?」
「あれじゃぁ満足に動けんだろうし、脳筋のガハルトさんじゃとんと物足りぬだろうよ。いくかの」
””ぅおおん!” ”ぅわん!” ”ぅをん!””
「あ! クマたちも反対側、足の方にいるようですよ! カンイチさん!」
「んお!? 尻でも齧られて追い立てられてるのかの?」
「いやはやなんとも……」
”ずどぉーーん!” ”がごぉーーん!” ”ばごぉーーん!”
”どごぉーーん!” ”ばぁーーん!” ……
散弾銃で並個体を薙ぎ払うカンイチ。
先のミスリールの警報、そしてカンイチの散弾銃の轟音。さすがに仮眠をとっていた連中も目を覚まし、前線に。あのアールカエフさえも
「おぅん? なんだね? あれは。詰まってる……ね」
と、眠気眼のアールカエフ
「ええ、アール様。アレがボスと思うんですけど」
「……ボスとしたら随分と間抜けだな。ああやってズルズルと這って地上までいくのかね? ご苦労さま? うんうんいい的だわね」
”どっしゅ” ”ぎしぃ!” ”どっしゅ!” ”ぎぃ!” ”どっしゅ!” ”ぎぃ!”……
サディカが『ミニ要塞』と称した、ミスリールの『潟スキー要塞』から続けざまに大きな銛が射出される。この銛にはロープは接続されてはなく、まさに殺傷のみ目的の巨大矢だ。その矢を撃ち出す大きなアーバレスト。その強弦を引くのもいくつもの歯車が組み込まれた巻き上げ機。その機能が強弓の連射を可能にしている。
ヌゥと伸ばした手のひら。その手のひらをカンイチが複数発のスラッグ弾で吹き飛ばし、がら空きの顔面めがけ、銛が次々と打ち込まれる
”ずどぉーーん!” ”がごぉーーん!” ”ばごぉーーん!”
”どごぉーーん!” ”ばぁーーん!” ……
”どっしゅ” ”ぎしぃ!” ”どっしゅ!” ”ぎぃ!” ”どっしゅ!” ”ぎぃ!”……
「ギビィ……」
顔面に20本以上の銛を生やした赤コウモリ男。所々、スラッグ弾で吹き飛ばされ、醜さもさらに
そして、ゆっくりと消えていった
「なんだったのだ? あれは……?」
……つづく




