ほへぇぃ。本当に硬いの (エメラルド・ゴーレム)
……
40階の”試練の間”……
こちらはディアン、ミスリールのペア。
”ガン! ガン! カン! ガン! カン! ガン!”
よく似た小柄の女性二人が両手に持った鍛冶用のハンマで”銀”ゴーレムをめった打ち。乱打の音が試練の間に響く
「随分と硬いね! こいつは!」
「鉄に比べ、銀のが柔らかいはずなんだがねぇ。魔力のせいか? どらぁ!」
”ガン! カン!” ガン!” ガン!”
背は小さく、細腕に見えてもそこはドワーフ族。筋繊維がみっしり詰まった腕、発射台となる広背筋によって強烈な一撃を見舞う。
種族特性、職業特性か、槌を振り下ろす場所も数カ所決まっており、隙をついてはその”点”に正確に槌を打ち下ろしていく。
”ガン! ガン! カン! ガン! カン! ガン!”
”カン! ガン! カン! ガン! カン! ガン!”
”銀”ゴーレムもただ突っ立っているではなく、剣を握った右腕、拳を握った左腕を羽虫を払うように振る。
が、的確に手の甲をハンマで叩かれ、軌道を逸らされてしまう
”カン! ガン! カン! ガン! カン! ガン!”
「親方にしてもディアンさんやミスリールにしても凄いスタミナじゃな」
と、感心しながら戦況を伺うカンイチ。
「え、ええ。俺だったらもうとっくにスタミナ切れてへばって転がっていますよぉ」
と、イザークも同意の声を上げる。
「鋳造の剣を打つときなんか、ず~~と鍛冶場に籠もってるものなぁ」
と、サディカも驚きの表情で見守る
”ガン! ガン! カン! ガン! カン! ガン!”
敵の攻撃をいなし、二方向から打撃を加えていくディアンとミスリール。重鈍と思われがちなドワーフ族だが、女性故かそれは感じない
槌の打撃を食らいゴーレムの手指がひしゃげ、落ちる。
”ガラン!”
白銀の剣もまた。指が落ちれば次は手首、次は二の腕と。削るように解体されていく。
”ガン! ガン! カン! ガン! カン! ガン!”
”ガン! ガン! カン! ガン! カン! ガン!”……
こちらも全身鎧の胸部が落ちると動きが止まる。バラバラだ。
「す、すげぇ……」
「うむ。小柄じゃが……。手ぇだすなよ。イザーク君。あの槌で一発じゃぞ」
「だ、だしませんよぉ」
……
『緑柱石の騎士』と向かい合うはダイインドゥ。その手には先が狭まった長柄の鍛冶用のハンマを握る。柄を両手で握りずいと前に。
「ほう。お前さんもハンマ使いか。どれ。ワシがどれほどのものかみてやろう」
”キシィィ……”
軋み音とともに前に出るエメラルド・ゴーレム。
その踏み出しの速さは”銀”ゴーレムよりも速く、ハンマを振りかぶるのも速い。
打ち落とされる綺羅びやかなエメラルドのハンマ
”ズガン!”
「”銀”よりは動きは速いか。初動の動きも及第点じゃな」
再び頭上にハンマを振り上げる。
まっすぐダイインドゥ頭部めがけて振り下ろされる
楽々とかわすダイインドゥ
「が、随分と見掛け倒しじゃの。狙うのは頭だけかいな。ワシはそんなに遅くないぞ。盾もただ持ってるだけか。ふん!」
無防備になった右手の甲にハンマを叩きつける。
「ふむ。硬いは硬い……わな」
更に踏み込み、胴に一発。
”ガギン!”
そんなに大きく振りかぶっていないのだが、のけぞるE・ゴーレム。
さらに追うように詰めるダイインドゥ
E・ゴーレムも払うようにハンマを横に振り牽制。
そのハンマを後方に飛び躱し、
そのハンマを追いかけるように横に振られたダイインドゥのハンマ。寸分たがわず相手のハンマの後方、打撃面を捕らえる。
”ガガァイン!”
通過したハンマの尻を叩かれ勢いを増すE・ゴーレムのハンマ。その勢いを殺せず、弾かれたハンマがその勢いのまま、ぐるりと回ったハンマの一撃を己の背で受けるE・ゴーレム。
「無闇に振るからじゃ。ん?」
ニヤリと笑うダイインドゥ
そんな声も届かないのか機械的にハンマを振り上げるE・ゴーレム
”ガイン”
と、床を叩く。
「本当に……見掛け倒しじゃの。こやつは」
”ざん!”大きくハンマを右に振りかぶり、体を預けるように叩きつけるダイインドゥ。
さしものE・ゴーレムの巨体が浮き、尻を突く
好機と、真正面からE・ゴーレムの頭に槌を落とす
”ガイン!” ”ガゴォン!”
「ほへぇぃ。本当に硬いの」
これ以上の接近、攻撃を許さぬよう、ぶん! ぶぅん! と払うように振られるE・ゴーレムのハンマ。
「ふん。随分と腑抜けな、気の入っていない攻撃なぞ!」
かわすことなく足を開き、どしりと腰を落とし踏ん張るダイインドゥ。横に構えたハンマで、
”ズガン!”
相手のハンマを向かい打つ。質量では勝ってるはずのE・ゴーレムのハンマが打ち負け、跳ね上がる
「人じゃと今のカウンターで手首が砕けるのじゃがの。んん?」
手首だけでクルクルと長柄のハンマを回すダイインドゥ。挑発するように。
が、相手は感情などまるで感じられない”鉱石人形”。その、宝飾のように彫られ、磨かれた溝のような目には挑発など映るのだろうか
「ううん? まるきり無傷でもないようじゃな」
ダイインドゥのいうように手首でも砕けたのか、キシキシと手首が自由に回り、武器を構えられない状態だ。
ゆっくりと右腕、左腕と見るように顔を左右に動かすEゴーレム。盾を置きハンマに持ち換える。
「……ふぅ。盾を捨てるか」
砕けた右手を盾のようにかざし、左手でハンマを振るE・ゴーレム
「確かに一撃の威力はあるがの。ま、この硬さで本当の騎士のように動かれちゃ勝てんがな。ふん! ふん!」
E・ゴーレムの大きな隙、右手側に陣取り、ハンマの連撃を加えていくダイインドゥ。
”バガン!”
「おぅん?」
何打目だろうか、E・ゴーレムの右脇腹が砕ける。そこを起点に胸部、腰部に亀裂が入り、”ガラリ”。
崩れて動かなくなった。
「し、しもうた……。なるべく割らぬように当てていたんじゃが……」
欠片と化したE・ゴーレムを見下ろすダイインドゥ。カンイチの居間に飾るという野望も同時に崩れ落ちた。
「ぬ!」
その欠片も徐々に消えていく……
「割ってしもうたら、ドロップは無しかの。ふむ。む、む?」
消えずに残ったのは拳大の大きなエメラルドが三つ。
……




