鉄に噛みついておる (40階 試練の間)
……
順調に40階までやって来た一行
昨日はボス戦を控え早めに休憩にし、心身の回復にあてた。
「う……わわぁ……。こ、ここが40階の試練の間……かぁ」
30階の試練の間同様、入口となる門を見上げ、感激の声をあげるイザーク。
「すげ……本当にここまで来たよ……」
と、こちらはこのダンジョンで活躍していたサディカ。イザーク同様、そそり立つ門を見上げる
「ふぅ……。30階の門と大して変わらんじゃろうに。それに試練じゃと? 何様のつもりじゃ。”お宝”も禄にださずにのぉ!」
こちらも門を見上げ、溜息こきこきのカンイチ爺さん。お宝をよこせと文句がダダ漏れだ
「いや、カンイチよ。ダンジョン攻略してるのだからもう少し気合い入れろ! くぅ~~! 楽しみだな! この門の向こうに何がいるのだか! だろう、カンイチ!」
ぐぃと、腕まくりをするガハルト。
「フン! ワシはどうでもええがのぉ、そんなもんは。わんさか宝箱が出るとええがのぉ」
「カンイチよ……」
「ま、師匠だし?」
……
「でじゃ。ここのボスは、そこの彫像のようにゴーレム……地図にゃ”鉄”とある」
と、ダイインドゥが口を開く
「ん? 皆でいっぺんに入るに決まってるだろう親方」
「ガハルト殿ならそうじゃろうの。ワシもその辺りの話がしたくての。伝説のミスリル・ゴーレムもいいがな」
「そうじゃのぉ。ワシもそれでええと思うわ。分けるよりものぉ。最悪、ウチの魔獣様がどうにかしてくれよう?」
『うむ。任せておけ。編成、数にもよるが、”鉄”まではこっちでいただくぞ』
「む……」
と、ダイインドゥ。クマたちが”喰う”とドロップは無しだ。
「そ、それは……」
こちらは言わずもがなガハルト。単純に敵が減る
『それ以上の”銀”、初見のものは貴様らに回すのだ。文句はあるまい』
「「はい……」」
「方針は決まったようじゃの。それじゃぁ行こうかの」
「ちょ、ちょっと、トイレにぃ」
と、フロアの角に駆けていくイザーク君
「しょうがないのぉ……」
「早くしないと置いてくぞ! イザークよ! はっはっはっはっは!」
……
試練の門を潜る一行。
毎度のごとく石柱が輝き、試練の審査官なる怪物を吐き出す。
黒光りする鉄の塊。”鉄”ゴーレムだ。その数、3体
『ふむ。3体か……。数もちょうどよい。こちらでもらおう!』
「な! こ、これで終わり……ってことはありませんよね? フジ様?」
恐る恐るフジに尋ねるガハルト。
『さてな。それこそダンジョンの都合だ。我の知ったことではなし! 再び湧くのを願うのだな。ガハルトよ! クマ!』
”ぅおおん!” ”ぅわん!” ”ぅをん!”
一斉に駆け出すクマ、ハナ、シロ。肩を落とすガハルトを残して
基本戦略は”土”と同じ。牽制しながらも、三頭共同で相手にするようだ。
後方で眺めているカンイチたちに注意が向きそうになれば、ちょっかいを出し、再び自分たちに注意を引き付ける。
ゴーレムの対処は”土”ゴーレムと同じ。が、”硬度”がまるで違う。倒せるのかと心配そうに戦況を伺うカンイチ。チラと隣に控える司令官のフジを見る。
『ん? 何ら問題ない』
その言葉と同時に
”ずんがらがらん”
ダンジョン故、床が抜けたり、地響きこそなかったが、盛大にたおれた”鉄”ゴーレム。その両足の脛にはハナとシロ。”鉄”の足にがっぷりと噛みついている
「鉄に噛みついておる……」
「どらどら! さすがにクマでも中空じゃないのだし無理だろ? 僕にもよく見せてくれたまい!」
「ア、アール様! 危険ですよ!」
「問題なし! イザーク君! ふむふむ。実に面白い! (ゴーレムが)魔素でできているからか? 疑似鉄? が、ドロップは丸々落ちるな。では、スキルなのか? ふぅむ~~」
と、腕を組み、考え込むアールカエフ
「どうしたんじゃ、アール?」
「うん? なぜ、クマたちが噛みつけるのかと思ってね。そりゃぁ、魔獣だ。物理的にガブリ! というのもあるさ? が、ほら、徐々にうすれて、食われる。鉄としてよりも魔素と見ているのか。鉄の硬度がないようにみえるし?」
引き倒した”鉄”ゴーレムに一斉に群がるクマたち。あれだけ硬い”鉄”ゴーレムの腕を楽々と引き抜く。
本体からもがれた腕はモヤのようになり喰われる。
「おぅん? ドロップのゴーレムは”鉄”じゃったぞ。のぉ、親方?」
「うむ。間違いない」
「だよねぇ。そこが問題なのよ? ダンジョンの関与がなくなるドロップ。そこで初めて”物”になるのだろうか? う~~~~ん。……。……。ま! ダンジョンのやることだし? どっちでもいいか!」
「アール……よ。どっちでもええのか?」
「そもそも、どうにもならんでしょうよ? カンイチ君! ”魔素喰い”のクマたちだからとも言えるし? カンイチたちだと硬い鉄には変わらんよ? で、結果はクマたちが喰えばドロップはなし。何も残らないってね」
「ま、そうじゃな。結果はかわらん」
「だろう? カンイチのアーティファクトや、あのでたらめな”農業”のスキルはわからんけどね。鶴嘴で穴だらけにできそうじゃん?」
「……ふむ」
「試す価値ありますねカンイチさん」
……




