只、攫われるぞ…… (恩恵持ち)
……
32日目 地下31階
30階の試練の間を抜け、休憩場を目指し急ぐ一行。ここまで降りてくれば周りにはもはや他の冒険者の姿はない。
「んむ。ここらまで来ると誰もいないのぉ。採掘の音すらしなわ」
と、耳を澄ますカンイチ
「まぁ、こんなところまで潜るチームもこの町でも数えるほどだし。ま、29階までだな~~」
と、サディカ。この町の上位冒険者だ。このチームの中では誰よりもダンジョンに詳しい
「ほ~~ん」
「どうしても物資がね。大きなマジックバッグだって採取品と帰りの分の物資も考えないと。試練の”石”ゴーレム越えるのも面倒だし、それに、この辺り”土”ゴーレムが多いから、あまり割に合わないんだよね」
と、続ける。
「そうよな。ウチは”収納”持ちがいるから、その点はまったく考えないでいいからな」
「うん。それ! なにせダンジョンで風呂はいってるんだもんなぁ。ホント信じらんないよ。ダンジョン内じゃ水はどれだけ貴重なものか……」
と、カンイチ、イザークにチラりと目を向けるサディカ
「ま、カンイチさんだしぃ?」
と、当の本人のイザークもカンイチをチラり
「イザーク君もしっかり風呂さ入っとるじゃろうが。そうなぁ、利益さ考えるならば、只潜ればいいってものでもなしか。が、他の連中を出し抜くには深い階層、危険な場所か」
「そうそう。それに下層のほうが良いもの出るしね。食うものも食わずに頑張った報酬? 取り放題! いくらでも地上に持って帰れる”収納”の恩恵持ちのカンイチさんに言っても意味ないですけどぉ」
と、肩を竦めるサディカ
「だな! はっはっはっはっは! まぁ、俺たちもその恩恵をしっかり受けているがな!」
「まぁ、ありがたいがの。只、攫われるぞ……」
と、ボソリ
「そ、そうですね……。カンイチさんってばもう二回攫われてますものね」
「ああ、抗う術がなけりゃ一生奴隷だわなぁ」
その”土”ゴーレムに会敵することなく、ダイインドゥが地図で決めた行き止まり、野営地候補に到着。
危険がないかの確認後、入口に”偽装壁”を取り付ける。
『ふむ。飯には少し早いな。狩りに行くか。イザーク付き合え』
”ぅおん!” ”ぅわん!” ”ぅをん!”
「え? ええ。じゃ、行ってきますね、ディアンさん」
「ああ、行ってきな。飯の準備はやっておくよ」
と、ディアンに送り出され、フジにおぶさりダンジョンの闇に消える。
「じゃ、サディカ、俺たちで周辺の見張りだ! 行くぞ!」
「おう! 父ちゃん! トンファーの鍛錬しようぜ!」
「よし! かかってこい!」
と、駆け出す二人。すぐさま木製のトンファーを打ち鳴らす音が響く。
方や、金属製のゴーレムの腕を並べうんうんやっている親子
「この銀、組成が違うのか、ずいぶんと軽いね親父」 (ミスリール)
「うんむ……。銀貨の銀と比べてものぉ。魔力的なものはないがの」 (ダイインドゥ)
「磨くと”輝き”が違うな。酸化もないようだねぇ」 (ディアン)
「じゃぁ、ゴーレム”銀”は宝飾品かね。母ちゃん」
「そうだねぇ、硬度もあるし、宝飾品にもってこいだねぇ。細かく割って売るか……」
「おぅん? カンイチが居間に飾るといってもったが?」
「本気かなぁ。まぁ、師匠だし?」
……
「しっかし、どいつもこいつも……。せっかくの休憩場だろうに。ゆっくり休めばよかろうに」
「そうそう! 僕を見習いたまい? ねぇ、カンイチ」
「アールはちと、寝過ぎじゃ。腰、痛くならないのかの?」
「ぜんぜん! 元気よ?」
「なら、ええがの」
……
33日目 地下31階
前日は”試練の間”を越えたと早めに休みをとり英気を養った一行。
ドワーフ一家には少しだ酒も振舞われ、ご機嫌だ
「それじゃぁ、行くかのぉ、皆の衆」
{おう!}
カンイチの合図で今日の攻略が始まる。敵を警戒しながらダンジョンを進み、採取、採掘を行う。
最初に見つけたのはイザーク。
「お! ヨイマチクサに続いて、アサヒクサ発見!」
と、無機質のダンジョン床から生える草体を摘む。例に漏れず一本抜く度に乾燥済みの草体の束が現れる。その草体の束に鼻を近づけて品質を確かめるイザーク。丁寧にバッグに仕舞っていく
「おお! アサヒクサは”霊薬”のよい材料になるね。沢山とるのだぁ! イザーク君!」
「はい! これはいい品質ですよぉ! アールカエフ様、沢山摘んでいきましょう!」
「うんむ! 任せた! イザーク君!」
「うん? アールも使うのじゃったら、遊んでないで手伝え……」
モフモフとハナの首を楽しんでいたアールカエフ
「ええぇ~~めんどーーぉーー!」
久々のいやいや、じたばたを披露するアールカエフ
「大丈夫ですよ、カンイチさん。ダンジョンでの採取は楽ですし? 見つけてしまえばね」
「いや、駄目じゃ。ほれ、こっち来て手伝え、アール」
「うん? ……そうかぁ! 僕と一緒にいたいのかい? んもぉぅ! しょがないな~~。カンイチぃ♡ そう言ってよ!」
「お、おう……。?」
「そうだろう! 旦那様♡ あっはっはっはっは」
と、カンイチの隣にぴったりとひっつくアールカエフ。
そんな二人のやり取りをジト目で窺うイザーク
「ふーーんだ! あっちいってください、二人とも! 採取の邪魔です! しっ! しっ! ふんだ!」
「ほ、ほれ……」
「おおぅ? イザーク君、お怒り?」
……




