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二(かんいち)爺ちゃん、異世界へ!(仮)  作者: ぷりぷり星人
冒険者カンイチ フィヤマ編 前
43/520

初日

 ……


 「今日こそは冒険者稼業、デビューの日じゃ! 気合い入れんとの!」

 ”ぅおふ!” ”ぅわおん!”

 クマ達も気合十分だ。

 

 朝一番。井戸で褌を洗う手にも力が入る。

 ”ごしごしごしごし!”……

 ”ぱんぱん!”

 と褌を広げ、裏庭に干す。

 

 ――うむ! なかなかに良い風景だ。昔良き時代じゃぁの!

 冒険者の初日にふさわしい青空に翻る純白の褌。その姿は日本国男子の心根を表してるようだ。

 その勇壮? な様を腕を組み納得顔で眺めていると、

 

 「うん? 何だい? 洗濯はこっちでやるよぉ?」

 と、洗濯籠を抱えた女将さん。

 「いえ、下着くらいは自分でと」

 「ふ~~ん。これが下着? かね。混ざるとタオルになっちゃうわねぇ。はっはっは!」

 「む……」

 自分なら良いが、受付嬢の所にタオルとして行ってしまってはあまりにも不憫だ。ちゃんと一枚一枚に名前を書いておこう……そう心に決めるカンイチであった。

 ……

 

 「う~~ん。どれがいいかのぉ……っと」

 依頼票が張られた掲示板を物色中のカンイチ。

 できれば日帰りで、ついでにクマたちの散歩にもなり、餌が獲れる依頼……。もちろん、身入りが良いに越したことはない。が、そんな都合のいい依頼はあるはずもなく……

 先ほどからうんうんと、悩んでいるカンイチ。

 

 「うん? 新入り! 先ずは、薬草採取だろうよ!」

 朝っぱらから昨日、講習が一緒だった『ゼイゴの勇気』のカイに絡まれる。

 

 ――ふむ。まぁ、若いしの。優位に立ちたい気持ちはわかる……がのぉ。五月蠅いの。こちらから何か言えばまたぞろ、長くなるだろう

 と、だんまりを決め込むカンイチ。

 一瞥することなく完全に無視だ。

 

 「ああぁん? 聞いてるかよぉ。ド新人!」

 完全に無視され、声が大きくなるカイ。

 「止めなさいよ! 絡むの! おはよう、カンイチ。朝からごめんね!」

 意味も無くカンイチに絡むカイ。それを止めるのはエルザ。その後ろに呆れ顔のレイラとタイルと続く。

 「すまない。カンイチ。おい。いい加減にしろ! カイ!」

 「はぁ……。カイ、アンタねぇ。ほんとに小物だな。や~~い! 小物、小物ぉ、小モノぉ~~!」

 「う、うるさい」

 同期である【ゼイゴの勇気】の面々だ。ゼイゴとは彼らの出身の村の名だという。

 

 「おはよう。タイルたちも依頼か?」

 カイには話は通じぬが、他のメンバーとは話をする。少しでも情報が得られればと。

 

 「ああ。俺達も今日から正式な冒険者のチームとしての活動が始まるからね。気合入ってるよ!」

 「けっ、新人君は、薬草取りからだろうが! 先輩のアドバイスだ! 有難いだろうがぁ!」

 まだカンイチを目の敵にするカイ。

 「ほんと……やめろよ。カイ。引くわぁ。なぁ、エルザ」

 あまりのしつこさに揶揄っていたレイラも、もううんざりといった体だ。

 「ええ……。いい加減にしなよ。カンイチは優しいから。そうじゃなければ喧嘩案件だよ? カイ。これだけしつこいと斬られたって文句言えないよ?」

 と、エルザも顔をしかめる。

 「ああ。”虻二号”って二つ名つくぞ。いや、パドックさんは頭いいもんなぁ。お前はバカだろが! 直ぐに斬られて仕舞だな!」

 とレイラも苦言を呈する

 

 ――ほう。ある意味侮辱ではあるな。これくらいでは剣は抜かぬが。なるほど……十分喧嘩案件だな。パドック? はて、どこかで聞いたような……

 と、どこか他人事のカンイチ。

 

 「な! う、うるせぇ! お前のせいだぞ! ド新人がぁ!」

 

 ――ふむ。なぜにこの青年はワシに絡むのだろうか。同期の中で上位に立ちたいという気持ちもわからんではないがのぉ……。ここは実績が全てじゃろに? 己で己を高めていくしかないのじゃがのぉ。それに、死んじまっては終いだろうに。

 流石100歳。達観している。が、実際の所は、カイが想いを寄せてる、エルザが、カンイチに関心を持ったという、所謂、ヤキモチなのだが。

 

 機微を心得ているカンイチだが、未だジジィ気質のカンイチ。色恋沙汰へのブランクは相当なものだ。そのうちに気が付くだろう……か?


 「そうか……。なら、この 『薬草採取』 を受けようか。良い散歩にもなろう。初日だし」

 

 ――西門か。初めてじゃのぉ。うん? 南から出て走った方が早いな。これにしようか。

 などと、すでにカンイチの心は新しい世界? 薬草摘みへと。カイの事なぞすっかり脳から忘却の彼方に

 

 「ではお先に。お互い気を付けましょう」

 「けっ!」

 そんなカンイチの態度に納得のいかないカイ。相手も言い返して来れば張り合いもあろうが、完全に無視されている。

 もちろん相手の力を見る目があればこんなことは最初からしないのだろうが。

 カンイチにしろ、武器を抜くまでは”若気の至り”で済ます気だ。覇気があって結構結構。そんな調子だ。

 「カイ!」

 連中は放置。依頼票を取り、受付の方に向かう。

 

 「おう! カンイチぃ! うちに入る気になったかぁ!」

 「まだ酔っぱらってるんです?リーダー?」

 わいわいがやがや。賑やかしく入って来たのは、大剣を背負ったこのギルドの稼ぎ頭、【稲妻の剣】の”金”ランク冒険者、ジップと楽しい仲間たち。アトス、ガルウィン、そして細身の魔法使いの美女。

 

 「おはようございます。ジップさん」

 と、頭を下げるカンイチ

 「堅苦しいなぁ。ジップでいいぞジップで。で、この前いなかったろ。魔法使いのアイリーンだ」

 ばんばんとカンイチの肩を叩きながら、メンバーの女性を紹介するジップ。結構酒が残っているようだ。かなり酒臭い。が、さすが”金”。たたらを踏むことは無い。

 「初めまして。アイリーンさん。ジップさんには世話になりました。カンイチです」

 じっとカンイチの目を見るアイリーン。美女にこれだけ見つめられると少々照れる。

 が、カンイチもまた。話にでてきた”魔法使い”だ。興味はある。仮令、魔法が何やらわからずとも。

 「よろしく。……なるほど。ジップの事だから半信半疑だったけど…… 「おい!」 やばいわね。……加護持ちかしら…」

 「だろう! ほぅれ! 見ろ! ガルウィン! 俺の眼に狂いは無かろうが!」

 盛り上がるジップ。

 「ちっ! 本当です? アイリーン?」

 疑り深く、アイリーンに聞くガルウィン。

 真意がどうのより、ジップ自体が信じられないらしい。

 再びアイリーンに確認をする。

 「ええ。優良物件ね。どう? カンイチ、本気でうち来ない?」

 「お誘いはありがたいのですが……」

 「だろう? 断るんだわ! ま、いつでも歓迎だぞ! カンイチぃ! で、依頼何受けるんだ? 見せてみろ! うん? ……『薬草採取』 ? まぁ、基本中の基本だわな」

 バッとカンイチの手から依頼票を取り上げるジップ。

 彼にしたらどんな依頼を受けるのか楽しみでもあったが『薬草採取』

 そっと、カンイチに返す。

 「ええ。本日、”冒険者”初日ですから」

 「ふぅん。じゃ、西の原の川辺り行ってみろよ。薬草も結構あるし、ドクオオサンショウウオがわんさか居るぞ。毒っていってもギルドで毒抜きできる。結構高価だぞ。偶にデカいのが居るが……そいつは無視だ。毒がキツイ」

 「情報ありがとうございます。ジップさん。では行ってみますね」

 「おう!」

 「……毒蛇も沢山いる。注意しろ」

 「はい。情報ありがとうございます。アトスさん」

 「お待たせしました。ジップさん。ギルド長がお会いになるそうです」

 そんな中、受付嬢がジップたちを呼びに来た。

 「応!。そんじゃ、気を付けてなぁ。何時でも歓迎だぞぉ! カンイチぃ! じゃぁな!」

 賑やかにカウンターの奥に消えるジップたち。カンイチも頭を下げ、見送る

 ……

 そしてその様子を見ていた【ゼイゴの勇気】の面々……

 「お、おい……。あれってジップさんだろ……なんで……」

 驚きの表情のカイ。

 憧れともいえる金ランクのジップ。声すらかけられない雲の上の人物だ。

 それが、ド新人のカンイチに親し気に。しかも、”金”ランクのチームメンバーに誘われるなんて。

 「……昨日一緒に新人講習受けた奴だぞ!」

 ここが野外であれば大声で叫んでいただろう。 

 カイの肩に手を置くタイル。

 「それだけ秘めたる力があるのだろうさ。”金”ランクパーティに誘われる程な……」

 「す、凄いわね」

 「ああ。本当に新人か? カンイチは……」 

 …… 

 

 「カンイチさん? 『薬草採取』 ですか?」

 初依頼、少々緊張していたが、受付嬢に”ですか?”と。ランクによって受ける依頼が決まってるのか? まだ教えてもらっていないこともあるのだろうか? 少々心配になって来た。

 「はい? なにか? ランクによってとか? 新人の初仕事はこれだと言われたのだが?」

 「い、いえ……。基本ですものね。ではギルド証をお願いします」

 「うむ」

 懐、”収納”からギルド証を出す。

 ”きらり!”

 そのギルド証は銀色に輝く。


 「は? な、なんで、”銀”? ぎ、”銀”ランクぅ? な、何でだよ!」

 ぎゅっと拳を握りしめるカイ。

 「……驚いたな。年もそんなに変わらないのに。何らかの実績があるんだろうなぁ」

 「す、すげぇなぁ」

 若い冒険者が驚いていると、ベテランの冒険者が近づいてきた。

 「うん。お前達、あの日、いなかったのか?」

 「あ、コーディさん?」

 顔見知りの先輩冒険者だ。彼らも何回か依頼に同行させてもらい、冒険者のイロハを教えてもらっている。

 「ああ、ギルド長と南門のハンスさん肝いりの特級新人だ。見事、ジーンを叩きのめした」

 「あ、あのジーンさんを……」

 カイ、いや、新人冒険者にとって最も身近な上位者。目標であり憧れだ。

 そのジーンを倒した? 若い冒険者たちにはにわかには信じられない。顔を見合わす。

 「ああ。見事なもんさ。すぐにでも”金”になるんじゃねぇか」

 「ギルド長も目かけてるからなぁ」

 他の冒険者も応じる。

 

 「ちっ……。もう差がついていたのかよ……」

 力なく俯くカイ。

 「そういうもんさ。 『魔剣使いのスクウィー』 にしたって、二つ名付きの剣士だ。おそらく”銅”からだろう」

 「なんだぁ、カイ! 空回りだったなぁ! けらけら」

 「言ってやるなレイラ。俺だって悔しいさ。が! これからバンバン上げていくぞ!」

 ギュッと拳を握るタイル。

 「そうね。”鉄”から、”銅”に、そして……いずれ」

 「ああ! じゃぁ、早速、依頼を受けよう!」

 そんな若人の決意にベテランたちも声を上げる。

 「その意気だ若いの! 特級組にまけるなよぉ!」

 「はっは! 万年”銅”のお前が言うか!」

 「うるせぇや!」

 ……


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