オレが一番遅かった? (30階、試練の間)
……
32日目 地下30階
30階へと到達した一行。その眼前にはボス部屋、”試練の間”。そして緻密な彫刻が施された門。見た目は10階、20階とそう違わないが
「わぁーー。ここが30階の試練の間……かぁ」
その入口となる門を見上げ、感激の声をあげるイザーク。
「ふぅ……。ここまでで、もう一月……かのぉ」
こちらも門を見上げ、溜息こきこきのカンイチ爺さん。
「いや、カンイチよ。攻略してるのだからもう少し気合い入れろ……」
と、ガハルト。
「そうはいうがな、『黄金の洞窟』 なんぞと言う割にさっぱし金目のものが貰えんではないか。”餌”も大したものでないしの!」
と、少々、お怒りのカンイチ爺さん
「い、いや、カンイチさん。貰うって……」
と、イザーク
「いや、”餌”て……。それで食ってるんですけどぉ、オレたちは……」
と、サディカ
「はっはっは。まぁ、カンイチの思うちょるくらいの”財宝”はでてはおらんようじゃがの。が、たまの金貨やら、ドロップ品の武具なんぞはそこそこの値段で取引されてるぞ。ワシらは鋳潰しちまうがの。買ってまではすまいよ」
「ふぅむ」
「まだまだ潜るんだ。期待しようじゃないか。カンイチ」
と、ディアン
「そうじゃな。ディアンさんも酒、我慢して潜ってるのだし? 頑張るかの」
「そうだ! カンイチ! 帰ったら宴に誘ってやるからな! 溺れるまで飲もう!」
「……遠慮させてもらうわ」
「でじゃ、この彫刻、門衛の意匠がゴブリンからゴーレムに変わっているが?」
「ええ、親方。土と、偶に石のゴーレムがでる。石は粉々にしないとだめだから面倒くさい。下手すると剣一本おじゃんに。ドロップで偶に鉱石? がでるよ」
と、サディカ
「ふむ。今までの傾向じゃぁ”数”が、増えるのじゃろう。あの広さでゴーレムが増えたら混戦になるじゃろう。ここはチームを2つに分けたほうが良いか?」
と、核心をついたダイインドゥ提案に頷くカンイチ。が、
「混戦けっこう! 別のが混ざるかもしれぬだろう! このまま行こう!」
『ふふん! あのとろいデカブツであろう? クマらにかかればどうということもない』
”ぅおおん!” ”ぅわん!” ”ぅをん!”
と、ガハルトと、従魔チームはヤル気満々だ。
「ふぅむ。たしかにの。指揮個体やら盾持ちのようなのも混ざったの……ふぅむ」
と、考え込むダイインドゥ
「親父! 銀やら金が混ざったら?」
「ぅんむ! ……。よぉし! いくぞい!」
とても珍しい”金”、”銀”ゴーレム出現の可能性を受け、握りこぶしで天を突くダイインドゥ。期待で彼の魂にも火が灯ったようだ。
「……親方、決断、早いのぉ……」
けっきょく、皆で入ることにした一行。
「フジ様、金属系のゴーレムがおったら是非とも回してくだされ」
『わかった。ダイインドゥ、ヌシにも世話になってるからな! それに、お爺の野望に近づくのであろう』
「ええ、それはもう」
「ま、取らぬ狸のなんとやらじゃ。入るかの」
{おう!}
試練の間。作りや広さはほぼ同じ。石柱は太く、その数、3本。同様に光り、試練の壁となるモンスターを吐き出す。
「げ……。全部”石”かよ。あれ、硬いんだよなぁ……」
と、サディカ。
石柱が吐き出したのは石で形取られたゴーレム。所謂、ストーン・ゴーレム。その数、6体。試練の間も窮屈だ。
「ふふん! サディカよ! こんなときこそ、金属製のトンファーだ! ぐるるるるぅぅ……」
「おう! 父ちゃん!」
腰のトンファーを引き抜き構えるガハルト親子。似ていないと言われていたが、その牙を剥いた横顔はそっくりだ。
『ふむ? では一人、一体でいいのか? 残りは誰がいく?』
クマ、ハナ、シロはすでにスタンバイ済みだ
「ワシが」
と、バトルハンマを握るダイインドゥが前に出る。
『うむ』
”ぐかかか……”
重い石をすり合わせる音を響かせながら動き出す石ゴーレム。床を歩く音、関節のあげる音がその重量をいやがおうにも知らしめる
「よし! いくぞ!」
……
「くっ! いつもの石よりも動きがいいぞ! そして重い!」
”ずん!”
と、サディカが避けねばペチャンコになっていた場所に叩きつけられる”石”ゴーレムの石拳
「ふふん! 無理であれば引っ込んでおればよかろう! サディカ!」
と、父、ガハルトの発破! 同時に、トンファーでゴーレムの左腕を粉砕するガハルト。
「誰が無理だといった! ぐぉーー!」
”が、がががが!”
的確に、右腕の肘関節に叩き込まれる金属製トンファーの連撃。打撃音とともに小さな石の欠片が周囲に飛び散る。
”ぐごん!”
ポロリと肘から先が落ちる
「うん? 剣よりもずっと楽だなこれ。げ……」
サディカの視界の境目にダイインドゥが大きく振りかぶったハンマの一撃で、ゴーレムの頭部から胸部までを一撃で砕いたところが目に入る
「お、親方、強いなぁ。おっと!」
突き出された左腕を躱し、ちょうど眼の前にある肘関節部に棍の用法で連撃を叩き込む。
”ごとん!”
と、左腕も落ちる。
「うぉおおおーーーー!」
両腕を失った石ゴーレムの頭部、胸部に連撃を叩き込む!
”ごがごがががが……”
頭部がこぶし大の石になり、徐々に崩れていく。それが胸部に到達すると、そのまま崩れるように消える。
「うんうん。トンファー最高だな! お! ドロップ! 鉱石が出たな。こころなしかいつもより大きいな」
”ごとん!”
「ふ~~ん。どれどれ……ふむふむ……」
ドロップ品を回収して回るミスリール。そう、戦闘はすでに終わっていた。クマたちも満足そうに毛繕いをしている
「……うう。ひょっとしなくともオレが一番遅かった? 自信なくすなぁ」
と、サディカ
「まぁまぁ。あの連中だしね。気を落とすこともなし!」
「そ、そうね……ミスリールさん」
と、そこに、
「ミスリール! サディカ! 下がれ!」
「え?」




