チューーが足りんぞ (お宝を求めて)
……
24階に新たに湧いたであろう”ダンジョン賊”を討伐。
カンイチたちがアジト内の探索をしているなか、ガハルトたちは死体を片付けていた。無造作に転がっていれば帰ってきた連中に気取られてしまうからだ。死角になる場所に装備を剥いだ死体を山と積んでいく。
「ガハルトさん。今度の死体は”彷徨う死体”になりそうですねぇ。皆、頭もちゃんと付いてるし。ぐちゃぐちゃだけど、外は割れてないしぃ……」
と、賊の死体を引きずりながらイザーク。
その躯はガハルト、サディカの操るトンファーにより頭蓋は粉々。脳も腫れ、もとの大きさよりも幾分大きく腫れ上がっている。
赤黒く変色しているが、表面の皮は一応は機能を果たしており中のものがこぼれてはいない。
「うん? 真っ裸に剥いてあるからだいじょうぶだろうよ? 大した脅威にはなるまいよ」
「い、いや、これだけの人数、腐って彷徨ったら大変だなぁって」
「じゃぁ、どうすりゃいいんだ? イザークよ。今から切り刻むか」
「い、いえ。どうしたらいいのでしょう?」
「放っておけ、放っておけ。賊共に力を使うのはもったいない」
ため息を付きつつ部屋の片隅に山になってる賊の躯に目を向けるイザーク
……
カンイチたちが賊を殲滅している中、気配を殺し、暗がりに潜む黒装束の3人の男。
「完全に我らに気づいているなぁ……撤退だ」
……
「私が未熟なばかりに……すいません、クロウ様」
と、中でも一番若い黒装束の男が頭を下げる。
「いや、私でも気づかれただろうよ。獣人のガハルト殿だけならともかく、あのドワーフたちも気づいてるな。それに要注意人物のカンイチ殿も。こりゃ、手を出さないほうがいいわ」
「ええ、完全に音を消すことは不可能。獣人やドワーフ族の聴力、侮れませぬ。それにフェンリル様か……もちろん気づいているでしょうね」
「それなぁ。アールカエフ様、フェンリル様を温存して尚、この戦闘力。ダンジョン内じゃ囲むことすらできないし。ま、これだけ見ればよかろう。我らも地上に引き返すぞ」
「そうですね。地上、ダンジョン内共に打つ手なし……でしょうか」
「あのアールカエフ様とフェンリル様だ。が、何かしら考えないとなぁ。はぁ、頭が痛いわ。陛下に陳情してファロフィアナ殿が余計なことをしないように監督してもらわないとなぁ。必ず、帝国、陛下に返ってくるわ。ふぅ……」
「ク、クロウ様?」
ため息を付きながらも振り返るクロウ。その目は冷たい氷のような目だった
……
野営の時間までに賊の仲間の合流等がなかったためその場を離れることに。
残党の今後? 備蓄もバッグも奪われたのだ、続けられるはずも。賊の鉄板装備の物資入れのバッグなど自前だったらいいが、上位の闇組織のものだったら? 貴族や大きな商会がスポンサーだったら? こんなところで愚図愚図せずに全てを捨て他国なりに逃げないと。弁済のために命を献上しなければならないだろう
「こんな短時間に湧くとは、本当にビックリですよ。大きい貴族のバックアップがあるのかな?」
と、サディカ
「ふん。虫みたいなもんだ。どこにでも湧く」
と、ガハルト。ガハルト親子は基本、ダンジョン内じゃ酒は飲まない。
「だが、あれだけの人数、よくもまぁ通したもんだ。悪人だろうに」
ダイインドゥも例の大盾を調べながら
「金だろ、金」
と、夕食後の一服。
「いなくなるのが一番じゃがな」
「本当か、カンイチ。財宝が減るぞ。くっくっく」
「本当じゃ。今日のは置いておいて、前の2つ以外いないのじゃろ、サディカさんや」
「うん。カンイチさん、低層階でタカリを働く程度の奴はいるけどねぇ。犯行が表に出ていないやつは知らないけど。昔、仲間のフリして冒険者を殺して楽しんでいたクソ野郎がいたって記録にのこってるよ」
「ほ~~ん。とんでもない殺人鬼じゃな。うむ。知らぬ奴と一緒に行動するのはゴメンじゃな」
「くっくっく。オーサガと一緒だっただろうが」
「ガハルトさん! 賊と王太子を一緒にしないでください!」
友人のオーサガが貶められてると憤慨するイザーク。本気でガハルトに食って掛かる
「お、おおぅ? そうだな。すまぬ、イザーク」
そうじゃ、そうじゃと囃し立てるカンイチ爺さん。
「それでよくもまぁ、サディカさんは助っ人、やってたのぉ」
「オレだって、すぐダンジョンはなかったよ。流石にね。知り合いやら酒場である程度、親交を深めてね。これでも、一応は女だし? 必要以上に用心もしたさ」
「そうじゃろなぁ」
「で、明日、一番でアジト覗いてみるか、カンイチよ?」
「ええぇ~~”彷徨う死体”がわんさかいたらどうします? ガハルトさん」
「そんなの無視でよかろうよ、イザーク。で?」
「要らんじゃろ。攻略を続けようさ」
「じゃ! 明日に備えて寝よう! 皆の衆!」
「そうじゃの。しかし、よく寝れるのぉアールよ」
「暗けりゃいくらでも。う~~ん。やっぱ、朝日がないと起きた気がせん!」
「そうか。次からは……」
ここでどうしても言葉が詰まる。あのファロフィアナがいるからだ。
「心配無用よ? カンイチ。ダンジョンも、……地上もね」
「ううむ」
……
23日目 地下24階
「ふぅ……」
目を開け、上体を起こす
周りを見わす。今日もこの薄暗い穴蔵を征くのだと、無意識にため息が漏れる。
「うん? 僕よりも早く音を上げそうだね。カンイチ?」
と、横に寝ていたアールカエフ。珍しく、早い時間に目をあける
「ん? かもしれんなぁ。無理しておらんか、アールよ」
そっと、その頬を撫でる
「ん、僕はカンイチがいれば全然余裕さ。でも、チューーが足りんぞ! チューーが! ね」
「そ、そうじゃな……」
……
「あ! アール様、今日は早いですね」
「褌洗い、ご苦労! イザーク君! 今日もダンジョンがんばろぉーー!」
「そ、そうですね、アール様? なにかいいことあったのかな?」
”ごしごしごし……”
……




