ない! (再び湧いた賊)
……
22日目 地下24階
おおよそ、1階層に一日かけ採取をしながら下りてきた一行。まばらに人もいるせいか、”採掘”の方はまだ、3回。宝石が数個といったところだ。どうしても草体よりも鉱物のほうが優先される。少しでも多くの鉱石、宝石、”富”をもって帰るために
攻略を続けること暫し、オーサガ王太子を奸計を以て捕らえた盗賊団【闇の指標】の本部アジトのあった区画に来たときだった
「うん? アレって? ……お引っ越しかい? わらわらと忙しそうだ」
アールカエフが指差す方、男たちがせっせと荷物を元アジトだった行き止まりの区画の中へと運び込んでいる。何人かの”ポーター”もいるのだろう。マジックバッグから樽やら、椅子やらを引っ張り出して
ささっ、と身を隠す一行
「こんな所に引っ越してくる人はいませんよ。アール様」
と、イザーク。
「こりゃ、驚いた。もう湧いたか……。今は地上も検問も警戒が一番厳しいだろうに。まだ、半年だぞ」
と、驚くサディカ
「良かったなぁカンイチよ、”お宝”だ」
くっくっくと笑うガハルト
「ちいとも良くはないがのぉ。ここに住み着く……は、ないかの?」
「「ない!」」
イザークとサディカが声をそろえ、
「ないな!」
ガハルトが断言する
――わし。ここに住むのも、ちぃとは良いと思ってるのじゃが……
と、ダンジョンの中で採取しながら暮らすというのも悪くないと思っているカンイチ。空気を読んで口にはしないが
「そう? お日様と風があれば、僕、住んでもいいよ? 案外快適そうじゃん? 周りには”霊薬”に必要な薬草類もわさわさ生えてるしぃ。ゴブリンの睾丸だって”霊薬”使えるんだぞぉ! 強壮薬?」
「ア、アール様……」
――うんむ! 流石、アール、ワシの嫁じゃ!
と、喝采を送るカンイチ。心の中でだが
「で、どうすんじゃ。まだ、奴らの家業は始まっていないようじゃが」
「こればかりは熟れるまで放置……というわけにもいくまいよ。無駄な犠牲が出る前に除くに限るじゃろ」
と、ダイインドゥがさも当然のように
「だな! 賊は叩き潰す!」
と、腰のトンファーを撫でながら牙を剥くガハルト。
「じゃが、万が一が――」
{ない!}
「お、おぅ!?」
万が一、普通の冒険者だったら……と言葉を続けたかったカンイチ。だが、皆から一斉に否定され怯む
「んなもん、賊だ! 賊!」
「流石に普通の人がここに引っ越してくるってのはないよ……師匠」
「ほれ、カンイチ、前の連中(賊)と一緒の、偽装壁も持ち込んどるぞ」
入り口に立てかけてあるのは見覚えのある、通路を塞ぐ”偽装壁”だ。カンイチたちも表札と呼び鈴を付けて野営時に運用しているが
「……ううん? あれは? ……良く見りゃ、あのポーター、オーサガの時のやつじゃねぇか。ほれ、見逃してやった」
と、ディアン。ポーターの一人。見覚えのある顔が。彼女がソファーに隠れていたのを引っ張り出したのだ
「んむ? たしかにの。またぞろ賊に協力しておるようじゃな」
と、カンイチ
「足、洗えなんだか」
不憫な、憐れむ視線を向けるダイインドゥ。この後の彼の命運を鑑みればその表情も納得できよう
「ほれ! 確定だろうが! 賊だ、賊!」
と、ガハルト。牙を剥き今にも突っ込みそうな勢いだ
「じゃな。いくか……の」
……
ここはお任せくだされ! と、たっての希望でガハルト出陣。補佐にサディカも一緒に。
入口が見渡せる射撃ポイントにはミスリールが得物のアーバレストを構え待機している。他のメンバーはすこし離れたところからいつでも飛び出せる備えをしながら観戦だ。
無造作に近づくガハルトとサディカ親子
入口の手前に見張りのように立っていた男が気づき、二人に近づいてくる。
「おいおい。この先は行き止まりだ。俺らが野営地にする。ほれ、あっちいった!」
その声で周りで作業していた連中がガハルトたちに気づき周りを囲む。また小部屋の奥からも数人の男がでてきた。
外にいた一人。ポーターの男だけが顔色が悪い。あの日のことを思い出したのだろう。
「お前、サディカ……か?」
と、囲んでいた者の一人が呟く
「そうだが。……誰だ、お前? オレのこと知ってるのか?」
と、首を傾げる。サディカには心当たりがないのだろうが、この町では有名な『冒険者』だ。知られていても不思議ではない。
「それで、お前らは”ダンジョン賊”か? うん?」
確認するように問いかけるサディカ
「な、な訳ないだろうが! なぁ!」
「あ、ああ、大人数になったからここにベースキャンプをな! よくある話だろう」
「ふ~~ん。そうか……確かに、よくある話……だわなぁ」
と、ぐるり、囲んでいる連中の顔を見渡す。
そこに、
「ぐげぇ!?」
サディカの正面にいた男が奇声をあげ、床のうえでジタバタと暴れる。その背面、腰あたりから矢が生えている。そこまで深い傷ではなさそうだが
「い、いてぇ! いてえ!」
ジタバタと大騒ぎだ
「ん?」
ちらりと後方、ミスリールを見るガハルトとサディカ。ミスリールからの手信号、ゴーサインがでる。コイツらは”敵” ”殲滅”と
経緯はこうだ。サディカが『賊だろう』と、詰め寄ってすぐに、奥の小部屋の影からサディカを狙った射手が顔をだす。それをミスリールが射殺したようだ。その際、死ぬ間際の抵抗か、矢を受けた反射か、射手の持っていた弩の矢が放たれ不幸にも味方の腰に命中したらしい
小部屋の方も仲間が射殺され、罵詈雑言。賑やかに。そして、剣を抜いた男が次から次へと躍り出てくる。
ガハルトたちを囲んでいた連中も一斉に剣を抜く!
「そいつら、生かして返すな! 仲間がまだいるぞぉ ”ぶしゅ!” へぎ!?」
声を上げて指揮を取ろうとした男が額に矢を立て、仰向けにひっくり返る。ミスリールの技だ
「ふふん。抜いたな。サディカ!」
「おうよ! 父ちゃん!」
……




