ひ、ひぃ~~~~ (疾走)
……
青スライムを撃破したカンイチ一行。
「ま、例の青い”すらいむ”だかと出会わなんだで仕方のない。降りるかの」
攻撃を食らう度に分裂する特性上、生き残りがいるかと心配するカンイチ。周辺に気を配る。
カンイチの心配は他所に下りの階段まで青スライムとの会敵はなかった。最短距離を通って来ているから、他の場所にいるかも知れないが
「だね! 他の連中がつっついて、ダンジョンが溢れないといいねぇ~~」
「アール様、それ、シャレになりませんよぉ」
何度も振り返りながら階段を降りるサディカだった
……
階段を降り、5階に。
「ふぅむ。ちと早いが、野営にするかの、カンイチよ」
と、地図を見ながらダイインドゥ
「うむ。その辺りの調整、親方に任せるわい」
「じゃぁ、こっち……じゃな」
前回、野営地にした突き当りの小部屋に到着。
ドワーフ一家以外はそれすらわかっていないが。同じような通路、そして壁。仕方のないことだろう。まずは、他の冒険者が先にいないかの確認
「あ、あれ? アレって宝箱」
イザークの指差す、部屋の隅。ちょこんとりんご箱のような”宝箱”が置いてある。
「おお! ラッキーだな! でも、”人食い宝箱”かもしれないなぁ」
と、サディカ
「うん? 話には聞いたが……サディカさんや、そいつはどんなもんじゃ?」
「う~~ん。罠? モンスター? 一応は”解除”できるから罠の括りなのかなぁ。解除に失敗したら、その宝箱が大口開けて襲いかかってきますよ。そこそこ強い魔物で、ここらで採取を生業をしてる連中なら食われちまうかも?」
「まさにわしらは”餌”じゃなぁ。ふ~~ん。”人食い宝箱”のぉ」
「カンイチ、何も心配することあるまいて? このチームにはワシらドワーフがいるで。どんな細工もちょちょいのちょい! じゃ」
と、ダイインドゥが胸を張る
「うん。オレがみるね~~。”かちゃ” ”かちゃ” ……」
それにミスリールが応える。まずはあらゆる位置から宝箱を観察。蓋と本体の継ぎ目やら、蓋の上を慎重に調べていく。そうっと蓋を持ち上げ、箱が開けられたときに作動する繊細な仕掛けがないか確かめる。
「……うん。鍵も罠もないね。開けていいよ」
「じゃぁ、見つけたイザーク君、開けてみ? いいのが入ってるといいね!」
「いいんです? アール様。そ、それでは……緊張するなぁ……」
”ぎぃ”
「ん? またナイフだ。普通……のっぽい?」
「どりゃ。……。まぁ、いい金でできておるが、ごく普通のナイフじゃな。魔力的なものもなし。まだ、5階じゃし。ころがってた宝箱だで。そんなもんじゃろさ。解体用によかろうがもっとれ」
「はい。いただきます!」
……
「で、他の……親方たちのようなドワーフがいないチームはどうしてるんじゃ? いちかぱちかで開けるのかの?」
「そういうチームもたしかにありますね。でも大体、チームに一人、二人がそういった技を身につけたのがいますよ。それこそ修行して。道具屋に開ける道具やら練習用の”宝箱”までも売ってますよ」
と、サディカ
「罠の有無を判定する魔道具もあると聞きますよ、カンイチさん。それと、入り口にいた日雇いの連中にもそういった技能持ちはいますよ。ま、宝箱は自然湧きにしてもドロップにしても完全に運ですがね」
と、イザークが補足をする
「そりゃぁすごいの。大変じゃな。冒険者も」
「そりゃ、”仕事”ですし?」
「あとは……度胸も? 親方たちドワーフには到底敵いませんがね」
「ほ、そういうものかの」
と、野営地入り口付近で作業を始めるドワーフ親子に目を向ける
……
「では、一仕事するかのぉ!」
「おう! 親父!」
親方とミスリールの手により、入り口通路の開口部に偽装壁が設置される。ちゃんと表札と、呼び鈴がついたものだ。
「うん……。偽装の意味があるのかの?」
「ま、賊共のを流用してるで。モンスター共に効けばええがな。はっはっは」
「そうじゃなぁ。じゃ、ゆっくり休ませてもらおうか」
……
野営地が設置され、一服。
が、ここに休憩を許されない男が一人
『それでは行ってくる。イザークよ修行だ!』
「は、はいぃ! フジ様ぁ! よろしくお願いします!」
フジにまたがり、そのたくましい首に抱きつくイザーク。
「フジよ、ほどほどにのぉ」
『うむ。心配するな、お爺! すぐ戻る。行くぞ!』
”ぅおおん!” ”ぅわん!” ”ぅをん!”
びゅん!
「ひ、ひぃ~~~~~~~~!」
直角に曲がる迷宮もものともせず、壁や天井を疾駆し、ものすごい速さで視界から消えていく、フジを筆頭にした獣魔たち。
イザークの悲鳴を糸のように引きながら
「カ、カンイチさん、フジ様とイザークはどこに? クマたちも」
と、不思議そうに尋ねるサディカ。これから休憩、野営だろうと。
「うん? ああ、あれなぁ。イザーク君とクマらの鍛錬じゃ。それには誰かしらいないとの」
「なるほど……”狼使い”というわけですね。ダンジョンの魔物に間違われて襲われないように」
納得と頷くサディカ。
よほどの速さなのだろうか、それともイザークがフジの速さに慣れたのだろうか……その性能の良い耳をもってしてもイザークの悲鳴はもう聞こえない
「ま、そんなところじゃ。ほれ、無闇に”彷徨う死体”とやらを増やさんためにもの……」
「た、確かに……。フジ様ですものね……」
フジらが駆けていった回廊を見つめるカンイチとサディカだった。
……




