もうこりごりだよ? (攻略開始)
……
「で、どうすんだ? カンイチ? 一旦戻って日を改めるか?」
10階の関所が混んでると聞いてディアン
カンイチの腕での中で目を細めていたフジが頭を上げる。フンと鼻息一つ
――行くに決まっているだろう。と
「そうさなぁ。ディアンさんの案もええが……。どのみち、戻ったところで明日以降も一緒じゃろうよ。誰かさんはソワソワで落ち着かんじゃろうし。ま、のんびり行こうさ。のぉ、アール?」
「そうね。僕は寝てるから。あ、親方の作ったアレは要らないよ! 寝袋で十分!」
欠伸しいしい応えるアールカエフ
「……ああ、アレなぁ。はっはっは。色々考えて、考えすぎての失敗作だわね。ねぇ、アンタ」
「うぅむ。すまんの。アール殿……」
と、照れ笑い後に少し前の様子を思い出す。
アレ、失敗作――というのも、順番待ちの時にアールカエフがダンジョンの床でころっと寝てるのは忍びないと思い、小さな車輪のついたベッドを作ったダイインドゥ夫妻。アールカエフの寝姿を冒険者たちの視線に晒すのも問題と装飾の凝った目隠しの壁ができ、ダンジョン内のぼんやり明るいのも睡眠に悪かろうと天蓋ができ……
「親方ぁ……。気持ちは嬉しいよ。うん。すごく! ……でも、これって、『棺桶』じゃない?」
と。
確かにその姿形は棺桶に車輪が付いたものだった。
「むぅうう!」
「僕、もう、そいつには一回世話になってるし? もうこりごりだよ?」
「んむ。すまんの……」
と、ボツになったとか。
……
「まぁ、あれからお洒落な衝立作ってもらったし? 寝袋でも大丈夫でしょ。うん? そうだ! カンイチ! 並んでる連中に金貨一枚ずつ払って順番代わってもらうか? 所謂、買収?」
前に列を作る冒険者たちを望みぼそり。
『ふむ。一考の価値はあるな。エルフ殿』
再びむくりと頭を上げるフジ。
「ダ、ダメですよ、アール様! フジ様! そんな大金持ってるって知られたら何されるか……」
と、諌めるサディカ。
『そんなもの蹴散らせばよかろう? サディカよ!』
「そんなの蹴散らせばいいじゃん? サディカ君!」
声をそろえるフジとアールカエフ。それこそどこ吹く風だ。
「……カンイチさん?」
――助けて! と視線をカンイチに向けるサディカ。
「ま、アールよ。そいつは無しだ」
「ええぇ!? いい考えだと思ったのに~~。ねぇ、フジ殿?」
『襲って来たものとて、皆、狩れば、それくらいの金子だってすぐにも回収できように?』
「おお! さすが! フジ殿!」
「……まったく。質の悪い美人局みたいなもんじゃな……」
……
1日目 地下1階 攻略開始
「う~~んむ。気分が滅入るのぉ。ふぅ」
「そうだねぇ。カンイチぃ……。これで臭かったらもう無理! 絶対!」
薄暗いダンジョン内をとぼとぼと肩を落として進む、カンイチとアールカエフ。
ダンジョンの雰囲気に一向に慣れない二人。入ってすぐだが不平がだだと漏れる
溜息つきながら辺りを見渡すカンイチ。狭い通路が連続するダンジョン。その壁がのしかかるように圧迫し多くの死角を作る。その死角から窺うのはなにもダンジョンの魔物だけじゃない。同業の冒険者を狙う不届き者もいる。
そんなカンイチ、アールカエフに対して
「まぁ、薄暗くて狭苦しいし? ずっと同じ風景ですし?」
「臭いかぁ……。身体を拭くのにもどうしても貴重な水がなぁ。服だって余計に持ち込めないしなぁ。中には鼻が曲がりそうな連中だっていますよ?」
イザーク、サディカは”そういうもの”と受け容れ、金儲けの場所と割りきってる。
『うむ? お爺。当面、出てくる魔物は我らで速攻で対処でいいのだな? 時間も惜しい』
”ぅおふ!” ”わおふ!” ”ぅをふ!”
とフジ筆頭に張り切る従魔団。
「あ! いやいや、フジ様! 前回の決まり事でお願いいたします!」
と、暗いところでも一向に平気なガハルトが目をギラギラ輝かせ、訴える。”闘い”にきた彼にとって獲物がいないのはあまりにも辛い
「ま、ワシらは採掘できればいいでのぉ、ミスリールよ」
「おう! 楽しみだなぁ!」
こちらも暗く狭いところに滅法強いドワーフ親子。
ディアンは暫く減酒生活が続くから少々元気がない。
「ほらカンイチ! 気合い入れろよぉ! 畑を入手する前に死んじまうぞ!」
「ん? おう! そうじゃの! 一つ、頑張らねばの」
ガハルトの檄に、パン! パン! と頬を叩き気合を入れ応えるカンイチ。
「よぉし! 行くぞ!」
ガハルトとフジを先頭にダンジョン奥へと入っていく……
……




