大変じゃのぉ (いよいよダンジョンに)
……
サディカの話を聞き、一日延期。余裕を見て再びダンジョンの入口に立つ一行。
ダンジョン自体はショサイ毒まき事件発生の翌日、昼には毒は薄まったと開放された。開放と同時にサディカの予想通り、多くの待機していた冒険者が我先にと競って入っていった。
そのおかげか、一日経った今日は入口周辺は空いてる。カンイチ達の前に待つ人の列は短い。
「おう? 今日は随分と空いてるのぉ」
「思ったよりも早く、一昨日の昼には開放されたって。皆、金ねぇし? 門衛さんの話じゃ開放される前の日からけっこうな数、並んでたらしいよ。ほら外にいても宿代だ酒代だとなんだかんだとかかるしね」
「サディカさんの予想通りじゃな。大変じゃのぉ、冒険者の連中も……」
サディカの話を不憫に思いながら聞くカンイチ。
「そりゃぁより早く、少しでもいいところ。素材が湧いてるポイントだって決まってますし。早い者勝ちです! 金儲け……生きるためなら当たり前ですよカンイチさん。ウチらが変なんですって」
ほぅん? とイザークの演説を拝聴するカンイチ。確かに早い者勝ち。これは世の常と納得もできる。
「おいおい。イザークよ。俺たちは深部を目指す『探究者』だ。変? それはなかろう? ねぇ、アール様?」
じろりとイザークを睨みつけ、アールカエフに助言を求める。が、
「おぅん? 深部ぅ? うん? ガハルト君。僕はダンジョンなんぞどうでもいいしぃ? カンイチが行くから行くだけだしぃ? ダンジョンの中は風ないしぃ、お日様もなし。すぐ眠くなるのだよ? またリンドウに言われちゃうよ。アール母ちゃんは寝てばかりで役立たずって……。ふぅ……。どうしてくれるのだい? ガハルト君! 僕の名誉は!」
と、がっくりと肩を落としたと思ったら、どうしてくれる! と、詰め寄るアールカエフ。完全に応援を願った相手を間違えたガハルト。
「そ、そんなことはありません、アール様……。な、なんか言えよ、カンイチ!」
ぐるり、見回し、くすくす笑っているイザークに一瞥くれた後、今度はカンイチに救いを求めるようだ。
「は!? 知らん。わしは関係なかろうが! 己が始末は己でせい!」
と、バッサリ。
「じゃ、じゃあ、俺は掲示板を見てくる。……イザーク付き合え!」
孤立無援……。バツが悪そうに退散するガハルト。カンイチのジト目に送られながら。
「ぷぷっ、了解~~」
ダンジョン内部の最新情報が出ている掲示板に向かう二人。
「逃げたのぉ……ガハルトのやつ」
「しょうがない父ちゃんだなぁ」
と、サディカ。
『……ふむ。……であれば、ここは空いてはいるが件の10階の関所とやらは、もう既に人が溢れているやも知れぬな……』
「そ、それはいえますね。……フ、フジ様。採取の順番待ちも酷いだろうからダンジョンの中、人が沢山いるとおもいます……」
まだフジに慣れていないのかフジがしゃべると一々身体をこわばらせるサディカ。
「そうな。せっかく並んでダンジョンに入って、手ぶらで出てくるわけにはいかぬしの。ふふふ。別にとって食われはせんで。そう緊張することは無いでサディカさんや。のぉ、フジよ」
『うむ。同じ群の仲間だ。サディカよ。我に遠慮することなぞはない』
「は、はい。フジ様。……そういわれてもぉ」
と、どうしてもいつもの勢いなく言葉尻が弱くなる。
「獣人さんはフェンリル様を力の象徴として奉っているからねぇ。徐々に慣れていけばいいさ」
とディアンが応える。
「ま、フジは話が分かる方じゃと思うぞ。のぉ?」
カンイチがぐいとフジの頭を膝に乗せ首周りをモフリだす。フジもまた目を細める。
「……え、ええ。そ、そうですね……。いいなぁ……」
頷きながらも、その様子を羨ましそうに眺める。まだフジには触らせてもらえないサディカ。いや、触れないが正しいか。ガハルトすら未だ自ら進んでは触ってはいない。
獣人族からすればそれだけ尊い存在なのだ。フジに普通に触れるのはカンイチ、アールカエフ以外はイザークくらいなものだろう。
「戻りました。特に注意点やら勧告は出てませんでしたねぇ」
掲示板を見に行った2人が戻ってきたようだ。
「ふぅん。そりゃ、よかったの」
「ええ。ただ、中の混雑具合は予想以上ですね。場所やら順番めぐって喧嘩しないようにって」
「それと件のショサイだかの処分が張り出されていたな。処刑と」
「そうか……。いけ好かない奴だったが……」
と、つぶやくサディカ
「罪状によるとだな、人命もだが、故意にダンジョン封鎖という大事を起こしたと。ほら、税収も落ちるだろう。肉親がいない独り身だったのが幸いか」
「そうだの。経済が止まるといっても過言じゃなかろうさ。この町はダンジョンを中心に動いてるからのぉ」
と、ダイインドゥ
「ま、なんの罪もないやつを殺せば、死罪だがね」
と、ディアン
「そうじゃの」
……




