講習
……
「よぉし! 今日は、冒険者とやらのデビューになる! 気合い入れようかの!」
清々しい朝の日に、ぎゅっと褌を引き締め、誓うカンイチ。気合の乗りが違う。
注文した短刀も出来あがっていることだろう。
朝食を腹に詰めてさっそくギルドに出勤だ。といっても向かいの建物だが。
「ふむふむ。薬草かぁ。魔物や、動物の方が割が良いな……。肉やら、素材が取れるからかのぉ」
掲示板の前で腕を組んでうんうんやっていると、たまたま、ギルド長のリストが通りかかる。
「うん? おはよう、カンイチ。そういえば、そろそろ一週間か。いよいよ、デビューかい?」
「おはようございます。ギルド長。はい。とりあえずは薬草をと思ったのですが」
「薬草ったって、使えるように採取するにはそれなりの経験がいるぞ。ただむしるだけじゃダメだ」
「分かりました。鍛錬してみますよ」
うんうん頷くリスト。
「そうだな。慣れれば、討伐のついでに薬草を集めてもいい。ほら、このひし形のマークは、事後でも受け付けられる」
「ほう?」
なるほどと頷くカンイチ。
その仕草に違和感を感じるリスト。
「うん? おい……。そういえば、そういった説明……受けていないよな。カンイチ……」
「はい。全く」
あれ? といった表情のリスト。彼自身、記憶をを辿るが、さっさとギルド証を渡し、寮を案内して、カンイチとハンスと三人で飲みに行ったとことで終わっている。
「……あ」
その表情を見て受付嬢達からも抗議の声が上がる。
「私達も気にはしていましたが、ギルド長が……」
「うんうん。ギルドの規約も読まないで証渡しちゃうし。で、そのまま飲み屋行っちゃうし!」
「いつもギルド長が連れて行っちゃうから」
「はっ! 恋人?」
”きゃーーーー!”
不穏な意見も若干一名いるが。
「俺に男淫の気はない! ったく。……気合入ってるところ悪いがカンイチ、今日一日研修な! 午前中は講習。午後、実習だ!」
「……はぁ。解りました」
気合を入れて来てみたが、”冒険者”デビューは明日以降らしい。
……
研修で学ぶ実習は基本の薬草の採取方法や、獲物の剥ぎ取り方法等が挙げられる。
大抵見習い期間のうちに終えるので免除となるが、カンイチのように飛び級するもの、例えば、騎士団あがりとかは、一日ないし、二日の講習がある。
講習は規約やら、ギルドのシステムの説明。通常であればギルド証の発行と同時に行われる。
受付嬢に別室に案内される。広い打ち合わせ室だ。
たまたま同じ時期に”正規入会した”若手と共に研修を受けることになった。やっと成人になった年齢だろう。
彼らは、先輩冒険者に付き、実習は終えているという。成人となり、晴れて、冒険者へとなったのだろう。友人同士なのか、男性2人女性2人の混成チームのようだ。男性の一人が軽装、斥候職で、もう一人の男性が、タンク。所謂盾職であろう。ガタイもいいが、それに見合う大きな盾を背負っている。女性2人は剣士らしい。
別にもう一人、離れた場所に腰を下ろす男性。ソロなのか、先の4人とは別口のようだ。こちらも成人したての青年だ。
「皆、随分と若いのお」
と、様子を窺っていたカンイチがもらす。が、カンイチも今は15歳。同年代か、下手をすればこの中でもっとも年少である。
書類が配られ、講習が始まった。
講師役の受付嬢よりギルドの規約やら条文が読まれる。長々と。
内容は大したことはない。要約すれば、身分証やるからギルドに尽くせ。身分保障してるのだから、悪事はするな。そういった内容だ。
リストの言う通り魔石等も売らなくとも良いが、売ると金子とは別に”功績ポイント”というのが別途つくらしい。色々とギルド施設内で優遇されるという。
規約等の朗読が終わると受注の仕方。買取カウンターの使い方、ギルドショップ――受付のはじにあった――の利用方法などがザっと説明される。
カンイチ以外は経験者だ。ここを端折られると出る意味がない。疑問に思ったことをどんどん聞いていく。
「……証の裏の欄について説明を求める」
「はい。5つの依頼を表示することができます。が、慣れないうちは一つずつ堅実にこなしていく方が良いでしょう。未達が続くと資格の停止、失効もあります」
他にも受注について不明な点を聞いていく。
「ふん、そんな事も知らねぇのか? ド新米か?」
そんなカンイチに新人チームの、斥候職の青年が悪態をつく。
「止めなよ。私らだって一緒だよ?」
仲間の女性に窘められ口を噤む
「ふん!」
「すまないな。全くの経験が無くてね」
己の質問で終わる時間が伸びてると詫びを入れる。カンイチ以外、誰一人質問をしないからだ。
「い、いえ」
「ふん!」
「おい! カイ!」
「はいはい。静かに。次は……」
……
午前の講習を終え、カンイチ以外は研修終了となる。
「どうだい、食事でも」
盾職の男性が、カンイチと、もう一人の剣士を誘う。
「悪いが、俺はお前たちと群れる気はない。失礼する」
そういうと剣士の男はさっさと出て行ってしまった。
――ほぅ。余程の自信をお持ちでなさるか。確かに足運びは素晴らしい。脅威という点ではこちらの4人よりも上だろうのぉ
と感心の声を上げる。
同期の剣士の立ち居振る舞いを観察するカンイチ。
「噂通りだな……」
「ちっ! いい気になってんだ! あの野郎!」
と、悪態をつくカイと呼ばれた斥候職。
「彼でしょ【魔剣使いのスクウィー】って」
「ああ。で、貴殿はどうだ?」
と、カンイチに。
「ありがたいが、私も失礼するよ。家族の犬に食事を与えないといけないから。今日はこの後も研修があるから狩りに出られそうにないからね」
「それは残念だ」
「は! 俺らと一緒に飯が食えねぇのかよ! 犬だぁ?」
何が気に食わないのか当たり散らす、カイ。
カンイチも少々困り顔だ。
「カイ! いい加減にしな! 愚図愚図とアタイだって、いやだね! お前と一緒に飯なんてな!」
ハエでも振り払おうという仕草で仲間に苦言を呈す
「そうよ、さっきからどうしたのよ」
「お、おい、レイラ、まってくれよぉ。舐められねぇように最初が肝心なんだよ!」
「はぁ? 小物だな! いやだ、いやだ、小物の男は。あそこも小さいね!」
これ以上、感情を逆撫でしてくれるなと思っていたカンイチも思わず賛同する所だった。油断していたら、大きくうなずいていただろう、そして更に面倒ごとになっていたに違いない。
「騒がしたな。ここが拠点だろう? 一応、同期だ。俺はタイル。よろしく。そこの斥候のカイ、髪の長いのはエルザ 「よろしく!」 で、もう一方がレイラ 「よろしくな!」 俺たちは同じ村の出身で、チームを組んでる。『ゼイゴの勇気』 と 「格好悪いけどなぁ! それ!」 ……そうか? まぁ、よろしく頼む」
「丁寧にありがとう。私はカンイチという。よろしく。では、失礼するよ」
何か言いたそうなカイを無視し、部屋を出る。
……ふぅ。
そっと息を吐く。
「若いのぉ。まぁ覇気があってよいわい。さてと。クマたちの飯をの。散歩させられんの。そうじゃ、鍛錬所の件、真剣に嘆願してみるか」




