地下足袋 (揺れる――)
……
ダンジョンが閉鎖され、予定が消えたカンイチ一行。
火事場に出かけたダイインドゥ一家以外のメンバーで昼食、『三丁目仕立て屋』へやってきた。
「うんうん。このジカタビ、いい履き心地ですねぇ、女将さん」
地下足袋を履いてご満悦のイザーク
彼もカンイチ同様、その場で屈伸、飛び跳ねてと出来を確かめる
「うん? これなら丁度よさそうだな。イザーク、これ一つ、回してくれ」
ひょっこりと様子をうかがっていたサディカが顔をだす。そしてイザークのオーダーした地下足袋をひょいと
「あ、サディカさん? そりゃ、構わないけど。たぶん小さいと思いますよ?」
「ん? どれどれ。……お、おおぉ? こ、これかぁ。父ちゃんのいう、謎のフィット感というのは!」
「サ、サイズは?」
「うん。丁度いいみたいだ」
その場で屈伸したり、飛び跳ねたりとカンイチやイザークのやっていたように確かめるサディカ。
が、カンイチたちと違う点。イザークの眼の前でサディカの大きなお胸が上下にぶるんぶるん♡と揺れる
そして、視線を外せないイザーク君
「なぁ、イザーク、これもらっていいか?」
「い、いい……」
と、ぼそり
「うん? どうしたんだ?」
「はっ――! はいぃ? いいですよ?」
サディカの問に正気に戻るイザーク
「変なやつだな。ありがとな!」
と、ちゃっかり樹脂の塗ってるもの、塗っていないものと、各一足ずつ持って行くサディカ
「あ、……まぁいいか。女将さん、追加でジカタビお願いしたいんですが」
「ん? まいどぉ~~」
そこで、セクハラ爺さんカンイチと目が合う。バッチリと一部始終を目撃されていたようだ。
にやりと笑うカンイチ。
「若いのぉ。イザークくんは」
「い、いいじゃないですか!」
……と
今回は王蛙の革は持ち込みではなく購入だったため、少々お高くなったが、出来は申し分のないものだった。予備の制作を依頼。
「カンイチさん、ガハルトさん。今の時期、そろそろキングフロックも出てきている頃だそうですから、獲りに行きます?」
と、トキに聞いたのだろう、イザークが提案する
「ん? そうさなぁ。肉の補給も兼ねて行くかの。あの蛙、けっこう美味いで。どうじゃガハルト?」
「うん? その前にダンジョンだろう! せっかく皆、準備をしたのだしな!」
「”収納”だで、腐りはせんがの。ま、当初予定通りでええか」
「ああ! 上手くいけば明日には入れるだろう? 半端な時間だろうし。空いてるのではないか。であれば、10階もすんなり通れるだろう?」
と、目を輝かせるガハルト
「ふむ」
「いや、逆だぞ父ちゃん。明日は金のねぇ連中が押し寄せてくるからめっちゃ混むぞ。きっともう場所取りして今晩から並んでるやつだっているぞ」
と、サディカが声を上げる。
「な……。それは本当か……サディカ?」
「たぶんね。だって、皆、金ねぇし? 下手すりゃ隔壁のなかで、もうテント張って待ってるやつだってさ。明日は開いても見送ったほうがいいと思うよ。低層階も競争だろうし?」
がくりと肩を落とすお父ちゃん
「なぁに、一日だろうに。大げさな。じゃぁカエル獲りにでもいくかの? ガハルトよ」
「キング・フロックかぁ。でも、狩り場は西の沼になるだろう。けっこう距離あるよカンイチさん。一日じゃムリ。行くだけで一日みないと」
と、この町を拠点にしている冒険者のサディカ。
「そうか。サディカさんがそういうんじゃ、ダンジョン優先であれば明日ものんびりするかの」
「仕方なし……か」
「ま、ダンジョンは逃げんでの」
……
各々、ツナギや普段着やら必要なものを注文。
カンイチは地下足袋に合わせた親指の独立した”軍足”も注文。
アールカエフもキキョウの可愛い服を買えてご満悦だ。
「おぅん? ダリオン君もちゃっかりのっかっていたのかね?」
ダリオンの足元は真新しい地下足袋が装備済みだ
「ちゃんと自分でオーダーして購入してるからいいでしょう!」
「もう。そんな喧嘩腰にならなくともいいじゃない、ダリオン君。サクッとやっちゃうよ?」
「こら、アールよ。別に構わんだろうに」
と、なだめるカンイチ
「いや、カンイチ。違うのよ? 僕はただ、ジカタビの履き心地を聞きたかっただけよ? ダリオン君がつっけんどんだから?」
「それは失礼しました。スィーレン様。大変に心地がいいです。足の裏と地面がより近く感じます」
「それは良かった!」
「そこに至るのにもっと、こう……、すんなりいかんもんかの?」
やれやれと肩を竦めるカンイチだった
……




