という次第になりました。 (ダンジョン入り口にて)
……
「しかし……進むの遅いなぁ。また低層階にイレギュラーでも湧いたのかなぁ」
と、サディカ。その手には、”ぶぅんぶぅん”と真新しい木製のトンファーを回しながら。どうやら父ちゃんの予備を強奪したようだ。さすがガハルトの娘、飲み込みも早い。器用に回す
予想に反して列がサッパリ進まない。後ろに並ぶ列もどんどんと長くなる。
「う~~ん。いくら混んでてもここまで遅い事は無いのだけど。ちょっと見て……ん? 動き出したか?」
トンファーをくるくる回しながら見に行こうと列から外れたサディカ。
「いや、ダンジョンから出てきてるのだろうか? とんでもない魔物でも出たか?」
鼻息荒く身を乗り出すガハルト。
「ま、ダンジョンだしなぁ。何が起こるかわからないもの。お! ヒラミィ! ウシータ! 何があったんだ?」
引き揚げてくる冒険者の中に顔見知りがいたようだ。
「お! サディカ!」
「ん? お! サディカじゃん久し振りだな! 俺んとこ……に来……い……よ……」
言葉が段々と小さくなるヒラミィ。顔が引きつっている。そう、サディカの背後から”じろり”。ガハルトが睨みつけているからだ。父親の顔で
その様子を見て、くくくと笑うカンイチ夫妻とダイインドゥ夫妻。
「うん? どうしたヒラミィ? で、何があったんだ?」
美しいサディカの顔越しにみる、ガハルトの強面。しかも、自分を睨みつける。すぐにでもこの場から逃げ出したいところだろう。
「……お、おっと、そうだった。今日はこのまま(ダンジョンが)閉鎖になりそうだわ。あのショサイのクソバカ野郎、順番待ちで喧嘩して何を思ったか毒まきやがった。何でもホウボウタケの毒らしい。ダンジョンに吸わせるのに半日はかかるだろう?」
「ほれ、あのバカ。飲み屋でいい気分になると引っ張り出して自慢してただろ?」
「はぁ? あのキノコのか? ……あのバカ野郎。そいつ使っちまったのかよ……。これで鉱山ダンジョン行決定か?」
と呆れながらもサディカ
「いや、それがなぁ……。明日にも斬首だろ? 他所者の冒険者、一人、そいつの毒で死んじまったみたいだからな」
「それと近くにいた数人も巻き込まれてなぁ。死にはしねぇが……傷害になるだろうなぁ」
「おいおい……。……あのバカ野郎が……。いけ好かない奴だったがな……」
「違いない。が、斬首ってのもなぁ。んじゃ、またな」
「今度、飲もうぜぇ! サディカ!」
「おう! さんきゅ!」
……
「という次第になりました。フジ様。恐らく協会の連中が(ダンジョンに)通さないかと。上がってくる連中も災難だなぁ……いい毒消し持ってればいいけど……。勿体ないから待機かなぁ」
とサディカ。早駆けで順番を取ると燃えていたフジに報告。
『どうにもならん……という訳か?」
肩を落とす魔獣。……と、もう一頭の魔獣、ガハルトもまた。
「ええ、明日……いや、明後日に出直しましょう。明日の朝一だとまだ封鎖が解けていない可能性もありますから」
『ううむ……。やむなし。か』
「仕方あるまい。フジよ。では帰るとするかの」
帰ろうと踵を返した時にダンジョン入り口から数台のタンカと裸に剥かれ、ロープでぐるぐる巻きに拘束されている男がでて来た。おそらくこの男がショサイだろう。
あれだけ人が密集し、閉鎖された空間で一人死亡で済んだのは僥倖だろう。尤も、ちゃんとした冒険者であればそれなりの毒消し薬くらいは携行しているだろうが。
「あのバカ野郎が……」
と、サディカ。こき下ろしてはいるが見知った冒険者仲間だ。思うこともあるだろう。
「……こういうことも多いのかの?」
「毒使うアホはいないけど、武器抜いて殺傷事件はちょこちょこあるよ。カンイチさん。一寸したいざこざが発展してね。ほら、この渋滞だ。皆、イライラしてるだろ? 顔見知りならともかく、他所から来た連中、特に若いのがね。血の気多いから……」
「ふぅ、しょうがないのぉ」
「うん? 今日はおしまい? じゃ、お昼ご飯行こう!」
「……さすがに昼には早いじゃろうに。一旦宿舎に帰ろうかい」
予期せぬ冒険者同士のゴタゴタに巻き込まれダンジョンお預けを食ったカンイチ。
すごすごと帰還する。周りの連中も同様だ。
「くそぉ! 宿代が無ぇ! 貸してくれぇ!」
「俺だって無いよ!」
「おいおい。だから普段から貯めろっていっただろうが!」
「「貸してくれぇ!」」
ダンジョン閉鎖が決定。ぞろぞろ引き上げる冒険者のあちこちから、金貸せ、飯奢れ等々の会話が聞こえてくる。
「ま、宵越しの金は持たない……って、言いますもんね」
「ほ、イザーク君もそうだったのか?」
「は? 俺、借金あったから毎日がマイナスですよぉ……。報酬だって右から左へと……」
「……じゃったな。不憫じゃのぉ」
「若い奴なんか皆そうですよぉ……。カンイチさん以外」
ぽんぽんと背を叩いてやるカンイチ。
「うん。そういえば……サディカよ。お前借金は?」
「は? ある訳ないだろう、父ちゃん! これでもオレは父ちゃんと一緒の”金”だぞ! ”金”!」
と、大きな胸を張るサディカ。
「ですよねぇ……サディカさん、”金”ですもんねぇ。俺、採取専門の”鉄”ですしぃ。借金持ちの……」
「お、おう? なんか悪いな……イザーク?」
「いえ……」
当時の事を思い出したのか、幽鬼のようなイザーク君。そんな彼の顔を見て、謝らなくていいのに思わず謝罪してしまうサディカ。
「ま、イザークだって今じゃぁ、随分と金持ってるだろうに?」
「おかげさまで」
「ウチのチームの採取の大先生じゃでな。これからも頼むぞ。イザーク君、いや、教授じゃな! 教授先生じゃ!」
『ふむ。我もおおいに期待している。イザークよ。我が生の楽しみの多くはお主の鼻と舌にかかってるといっても過言ではない! 頼むぞ!』
”ぅおん!”
「は、はい! カンイチさん! フジ様! クマも!」
「……フジ様にそこまで言わすとは……。イザークって何モノ?」
「くっくっく。面白かろうよ。サディカ」
……
「あれ? もう帰って来たのか? アール母ちゃん? あ! 寝てばかりだから置いてけぼりくったか?」
「……違うよ。リンドウ……(しくしく)」
……
お知らせ……
備蓄を食いつぶしてしまったので少し休載いたします。
そんなに長くはかからないと思いますが、ご不便をおかけします。




