やっぱり血は争えんの (再びのダンジョン?)
……
そしてとうとう出発当日の朝
「じゃぁ、いい子にしてるんだよ? キキョウ。リンドウ、勉強もしっかりね!」
「いってらっしゃい! アールお母ちゃん!」
「お任せくださいませぇ! アールカエフ様ぁ」
ぶんぶん手を振るキキョウ。その背後ににっこり笑うアカマチ。
見たくもなかったアカマチの勝ち誇った顔を再び拝むことになったアールカエフ。彼女の服の裾がどこからか吹き込む風で揺らり揺らり。文句の一つでもと思った時、
「おう! アール母ちゃんも寝てばっかりじゃ駄目だぞ! しっかりだぞ!」
と、キキョウには手を振られ、リンドウには注意されるアールカエフ。
「僕って……。カンイチぃ……」
お母ちゃんの立場が……と、出発前にも拘わらずへこむアールカエフ……。
「くっくっく。アールよしっかりせい。ではティーターさん。今回もお世話になります」
「はい。お気をつけてカンイチ様。皆様も」
ガハルトの方でもアカジンに挨拶を終えたようだ。
「では出立するか! カンイチ!」
「ああ! 皆、生きて帰るぞ!」
{おう!}
……
「……結構早く出て来たと思ったが……」
門は既に開いており、すでにダンジョンの入り口には冒険者たちの長くなった列が。
「そりゃぁ、カンイチさん。早い連中は日の出前から門の外で並んでいるから。今日のは短い方だぞ」
と、ダンジョンベテラン組のサディカ。かといって、もっと早く……日の出前は、はなかなか。朝の弱いアールカエフがいる。それでも少しでもと早足でゲートに向かう。
「申請書は私の名でて出いるはずだが?」
「は、はいダリオン様。聞いております。お久しぶりですアールカエフ様」
「うん。御苦労様! 通っていいかい?」
「はい。少々お待ちを……」
申請書を捲りながらカンイチ達を見まわす。
「あれ? サディカも一緒か?」
申請書にはサディカの物はない。尤も、このダンジョンを縄張りにしている。既に出ているのだろう。
この異質なチームに加わってることに目がいったようだ。
「おう! 俺、このチームに入れてもらったんだ! ばんばん稼ぐぞぉ!」
「ほぅ! ソロは卒業か! サディカ!」
「そいつは良かったなぁ」
と、衛士たちから声をかけられる。良い関係を築いてきたのだろう
「そういや、ソトオリのとことの揉め事はいいのか? ダンジョン内だったら……」
サディカの身を案じる声も。ソロだと多かれ少なかれ揉め事が付いて回る。
”ぴくり”ガハルトの耳が動く
「ふん! 来たら返り討ちさ! エルフ様もいるんだぞ? ソトオリの奴だってそこまで馬鹿じゃないだろうさ?」
「まぁなぁ」
「……サディカ」
と、低い声で先を促すガハルト。後ろが詰まってる? いや、並んでる連中もほぼサディカの顔見知りだ。微笑ましく様子をうかがってる。ガハルトが早くダンジョンに入りたいだけだろう。
「おっと。じゃぁ、通るよ隊長!」
「おう! 気を付けてなぁ」
……
「ダリオンさん。お手数かけたの。ありがとう」
「いえ。皆さま、お気をつけて。スィーレン様もお元気で」
「お! 可愛いこと言ってくれるね! ダリオン君! オミヤとって来るからね!」
付き添いのダリオンはここまで。重ねてリンドウ、キキョウの事をお願いするカンイチ。
ダリオンに見送られて門、第一隔壁の中に。
「それで、サディカよ。ソトオリとは何者だ? 狙われているのであれば。皆に危険が及ぶ」
「……大した奴じゃないよ。父ちゃん。契約やぶりのクソ野郎だ。しめあげてバッグ取り上げたら逆恨みしてね。ああ、アール様に初めて会った時の騒ぎの相手」
「ふぅ~ん。ま、襲ってきたら撃退でいいんじゃないの? 今やサディカ君はウチのチームの一員だし?」
「そうじゃなぁ。チームで当たろうかの」
「すまんな。カンイチ」
「チームとはそういうもんじゃろ。じゃぁ、わしらは並んでるで。掲示板見て来てくれ」
「おう!」
「オレも行く!」
ガハルト父娘が掲示板の方に。
『ではお爺。並ぶのは入口までであろう? 順番が来たら駆け出すぞ。イザークよ準備しておけ』
「は、はいぃ。フジ様ぁ。お手柔らかに」
『なぁに、天井を走ればすぐだろう』
「おいおい。あまり無理をするでないぞ……フジよ」
『はぁぁふぅ……。うん? 我に全て任せろ、お爺。干し肉くれ。クマ達には水もな」
欠伸しいしい答えるフジ。既に決定事項。正に放たれた矢だ。
「……了解じゃ」
入ってしまえば低層階で活躍する者もいる。多少はバラけるが遅々と進まない列。そこにガハルトとサディカが掲示板を見て戻ってきた。
「で、何か面白い話はあったかの?」
「特には無いな。前にもあった15階に湧いたゴーレムくらいなもんだ。そうそうオーサガ王太子のような事件は起きないわなぁ」
「そりゃぁなぁ」
「カンイチさん達が賊どもを駆逐してくれたおかげで冒険者も増えたんだぞ。まぁ、このメンバーだしなぁ」
「うん? サディカさんや。お前さんの父ちゃんが張り切って殲滅させたんだぞ?」
「そうそう。戦闘大好き、戦闘狂のガハルト君がね。トンファー振り回してね」
「へぇ。そのトンファー。オレも作ってもらおうかな」
ちらりと、今やガハルトの相棒となった腰に装備されている武具に目を向ける
「……そこかよ。やっぱり血は争えんの」
「……だね」




