はい。そこまで (サディカ)
……
着々とダンジョン行きの準備が進むそんな中。三日が過ぎたころだろうか
「御免!」
と一人の武芸者がカンイチ達が宿泊している屯所へ訊ねて来た。ここは軍の施設なので5人の兵士が付いて。
偶々入口でクマ達の世話をしていたカンイチが対応。
「うん? 貴女は? 確か……」
そう、その武芸者、見覚えがある整った顔、縞々の尻尾。恵まれた体。街中で揉めていた虎人の女戦士だ。
「ここに”金”の冒険者のガハルトがいると聞いたが……あれ? 何時ぞやのエルフ様といた……?」
「やぁやぁ。サディカ君だったっけ? どうしたの?」
と、近くでリンドウ、キキョウ、犬達と遊んでいたアールカエフも合流。
なぜかじろりとアールカエフに睨まれるカンイチ。
「これはエルフ様。お騒がせしております。ということは、ここに魔獣様も……」
「で、サディカさんじゃったか? わしは、カンイチという」
「はっ――。ああ、申しおくれた。カンイチ殿。オレはサディカだ。この町で活動をしている”金”の冒険者だ。突然の訪問、申し訳ない。で……」
「ガハルトか? 今日はどこにも行っておらんで、奥に 「なんだ? 随分と騒がしいな。カンイチ」 と、来たようじゃが?」
建物の中からひょっこりとガハルトが顔を出す。
「! いたな! このクソ野郎がぁ!」
どん! 正に地を蹴る踏み込みからの流れるように放たれる横薙ぎの剣! スピードも力も乗った見事な抜き打ちだ! さっきまで手ぶらだったが、腰のマジックポーチから直接引き抜かれたのだろう
兵はおろか、カンイチすらも対処できないほどの踏み込み。殺気も一切なかった。が、ガハルトの顔を見た瞬間! 火山の噴火の如く吹き上がる殺気! それでカンイチや兵士も反応が遅れた。
「ふっ!」
ガハルトもまた、規格外の化物だ。素早く腰に下げて居たトンファーを引き抜き、難なく剣と合わす。盛大に金属音を響かせ、同時に火花が散る!
「チッ――! 上等だ! そんな棒切れでオレの剣と渡り合うつもりか!」
「棒切れではない。これはトンファーだ。ぅうん? ……サ、サディカか?」
「チッ――! くらえ!」
”きぃん!” ”がっきん!”
離れ際にサディカが連撃を放つも綺麗に撃ち落とすガハルト
「何しに来たか知らんが、勝負であれば受けよう。ここはいささか狭い。裏にこい!」
「望むところだ!」
「お、おい、ガハルト?」
「あらまぁ?」
……
場所を演習場に移し再び向き合う二人。鍛錬を行ってた兵士たちも場を開け、ぐるり囲む。
その視線は気を放つサディカと、その気を受け流す、静かな佇まいのガハルトに向けられる。
「抜け!」
「これで十分。かかってくるがいい」
サディカが仕掛ける。
「がぁあああーー!」
”きん!” ”きん!” ”きぃぃん!”
さすが”金”の冒険者というだけはある。恐ろしく速く、重い連撃を放つサディカ。
が、こちらも限界を超え獣人族の高みに立っているガハルト。そこに今までの長い戦闘経験もある。その悉くをトンファーではじく。
「い、一体何事です!? カンイチさん?」
騒ぎを聞きつけてイザークも合流。フジ達も一緒だ。
「さてな。ガハルトを訪ねて来てな。顔を見たらアレだわ。同じ虎人、因縁があるのかのぉ」
サディカの斬撃の悉くを流し、払い、撃ち落とすガハルト。
「クソ!」
”きききぃぃぃ――ん!”
身を巻き込んでの回転切りを放つもトンファーで上方へと流される。火花と共に。
「ふぅむ……今の斬撃は良かったな」
「うるせぇ!」
ガハルトの立ち合いを見てリンドウも大興奮だ。前にでないようにアールカエフに捕獲されているが。きっと今日中にトンファーをねだってくるだろう。
「あらぁ。サディカちゃんじゃなぁ~~い。どうしたのよぉ?」
屯所からアカジンとアカマチもやってきたようだ。兵たちの目も目の前で行われている極上の真剣勝負に釘付けだ
「おう。アカマチ殿。知り合いかの?」
「挨拶程度よぉ。彼女、この町で活躍してる”金”の冒険者だしぃ。ほら、美人だし? 強いし。結構、人気あるわよ。ねぇ?」
「うむ。が、まだガハルト殿の敵ではないな」
と、アカジンは冷静に戦況を分析。彼にしたら、美人等は関係ないようだ。その一挙手一投足を追う。
「そこじゃぁないでしょうに! この脳筋が! しかしなんでかしら? 恋人……って訳でもなさそうだけれども?」
「恋人やら、奥方、そういうのはいないといっていたがのぉ。まぁ、いい年こいた中年だしの。色々とあるんじゃろうよ?」
「……そうねぇ」
疲れ知らずか、無限の体力、回復力か。一向に斬撃の質は落ちない。が、その悉くを弾くガハルト。
こちらも同様、それ以上の体力か、徐々に押し込む回数が増えてきた。経験の為せる技か。
それでも愚直に、正面から、そのしなやかな身体から放たれる重い斬撃を構わずガハルトに叩きつけるサディカ。
「ふん。まだまだだな。サディカよ」
「う、うるせぇ! 気やすく呼ぶな! ぶった切る!」
「よく言う。お前が言う、この”棒切れ”に随分と手こずっているではないか。ふん! ふん!」
クルリクルリと回しながら、突きを放ち、挑発するガハルト。
サディカの隙に正確に突き入れる。
「くっ!」
ガハルトが繰り出すトンファーを何とかいなすサディカ。
「く、くそぉ!」
焦りから少々大振りになった。その隙を逃すガハルトではない。
「まだまだ修行が足りんな! ふん!」
変幻自在に繰り出される連撃、とうとうトンファーがサディカの右腕を捉え、剣を弾く。
”びきん!” ”かららん……”
「くっ!」
武器を失い、おそらくは腕も折れているだろう。それでも気が削がれることは無い。身を沈め、爪を剥き飛び掛かろうと構えるサディカ……
「はい。そこまで」
と、アールカエフが宣言する。と、同時に二人の間に風が渡る。
チラとアールカエフに視線を向け、ふっと身体の力を抜くサディカ。
勝負ありといったところか




