日々
……
「よし! いけ! クマ! ハナ!」
手綱を解き犬達を放つ。
今日は南門から出て、畑のわき。ボコボコと開いた兎たちの巣穴を攻める。
クマ達を視界に納めるとぱっと散る兎たち。が、いくら逃げようにも、隠れようにも次々とクマたちに狩られていく。
恐ろしい機動力だ。魔力に詳しい魔法使いと呼ばれる人々が見れば足回りが淡く光を発してるのに気づくだろう。そう、”魔法”だ。
そんな事とは全くと気づかず。カンイチは食用や薬になりそうな草の選定に夢中だ。今は食べられなくとも、”収納”がある。図鑑と照合もできる。
お気づきであろうか、カンイチの所持スキルに極上の”鑑定”を所持してるのだが。
その”鑑定”を使えば一発で判るのだが、すっかり失念中だ。
なまじ”経験”があるので今のところ必要としていない。
一角に積みあがる兎たち。草探しを切り上げて向かうカンイチ。クマたちが食べる分以外は”収納”に。剥きやすいが面倒だ。暇を見てやろうと仕舞う。
「しかし良く食うのぉ。まだまだ大きくなるんじゃろか」
”がふばきばき!”と兎を平らげるクマたちを見ると、クマたちの食費が気が気でないカンイチであった。
……
翌朝、早速とギルドに。猪は既に綺麗に解体されていた。
毛皮が別途、敷物等に使われるため、奇麗に剥がされ革屋、鞣し屋に。
肉は頭を落し、内臓を抜き、縦に真っ二つの状態だ。所謂、半丸枝肉という奴だ。背骨も見事に真っ二つだ。
イノシシ肉故、脂身が素晴らしい。しっとりとしてるのが分かる。触るだけで溶けそうだ。
早速と、追加で大まかにだがバラしてもらう。骨を抜いて各部位のブロックに。
モモ肉と肩肉はクマたち用に。骨も歯研ぎに良かろうとキープ。背骨は宿舎に出汁用に持ち込むつもりだ。女将さんの了解を得てからだが。
バラ肉と背肉は適当にブロックに。もちろんドルの親方と、ルックにもお裾分けだ。
「なにも気を遣わんでも。これがワシらの仕事じゃ、カンイチさん」
お裾分けと出した猪肉に大変恐縮するドルの親方
「いや、これからも良い関係をの。それに美味そうな肉じゃし。独り占めというのもの」
もうこの場所じゃカンイチも爺様言葉全開だ。どうしても引っ張られる。本来の姿か。
「いやぁ、ありがたいです! 猪、結構お高い肉ですし。御馳走さまです! カンイチさん!」
とルックが声を上げる。それを嗜める親方。
「おい!」
「良いんですよ。ドルさんも遠慮なく。良い滋養じゃろ」
「う、うむ。美味そうじゃ。分厚く切って、塩コショウで焼くか」
「そうそう。その調子じゃ!」
「頂くよ。カンイチさん」
……
散歩に行く前に、女将さんの下に。
もちろんイノシシのお裾分けをしようというわけだ。
「良い肉だねぇ。買い取らせてもらうよ」
「いえ、 「ダメさ。菜っ葉ならいいけど、流石に猪肉はねぇ」 ……じゃ、今回だけ。遅ればせながら、挨拶代わりに。どのみち私の腹にも入るんですし」
「すまないねぇ。じゃ、早速今晩、焼こうかね! うん?背骨かい? ああ、いただくよ! とってもいい出汁が出るんだ。少々臭いけどねぇ! はっはっは」
その晩は久しぶりのニンニクの効いたトンテキと、野菜多めの豚の白濁スープにありつけた。若い身体は、全てを養分にするのかぺろりと平らげてしまった。部屋に戻り、一杯飲んで就寝だ。
「ふぅ。土いじりは未だできんが……。ま、楽しい……な。神様に感謝じゃわい」
……
……
そんなこんなで、一週間が経った。
その間は、宿舎で半裸でウロウロする受付嬢に遭遇し、どきっ! としたり(カンイチ故、特に進展もないが……)、ギルドのドルさんの所にお茶を呼ばれたり、古書店に行き、『薬草辞典』『野草辞典』『魔物細鑑』を入手したり、クマたちの散歩を兼ねて兎狩りにいったり。兎についてはいくら狩っても未だに減る気配すらしないが、猪5頭、鹿6頭を得ることができた。
ちなみに、風呂については、ギルドの並びにあり、蒸し風呂と湯舟がある。だが、冒険者連中が入るせいかあまり奇麗じゃない。
なので、井戸の水で清めている。扇風機なんかより、先に風呂釜を頼もうと決心するほどだ。
女性の冒険者たちは、カンイチのいる宿舎の”女風呂”を使うようで、少々、悶々とすることとなる。カンイチも妻と死別して久しい。が、変なところで律儀なので未だそういった話は無し。むしろ受付嬢達には無害認定を食らうほどだ。
クマとハナもすくすくと? 成長し、益々風格が出てきている。最近の悩みとしては、兎の皮をむくのが追い付かないといったところか。もちろん他の動物の肉で賄ってはいるが。
概ね、平和に暮らせている。寝る前の晩酌に、コップがもう一つ。神様への感謝の表れだろう。




