さすがに暗くなると…… (本領発揮、夜の街)
……
「待たせたのぉ。うん? どうしたイザークよ。赤い顔して? 何かあったのかの?」
と、ドワーフ夫婦が戻る。イザークに”顔が赤い”といったダイインドゥ。彼の顔も赤いところを見ると挨拶がてら一杯ひっかけて来たのだろう。
「い、いえ、べ、別に……」
「アンタ、大方、回りにいる娼婦に欲情でもしてたんだろうさ? 若いな! イザーク君はぁ! はっはっは」
「ち、違いますよぉ、ディアンさん」
「そうか? はっはっは」
ディアンにはお見通しらしい。
「行くのはええが、気を付けるんじゃぞい」
「い、行きませんよぉ」
「うん? なにを気を付けるんだい? 親方? どこに行くんだい? イザーク君?」
ひょっこり荷台から顔を出すアールカエフ
「な、何でもありません! アール様!」
ニタニタと笑うドワーフ夫婦とガハルト。
「家、借りられたでそこにの。のぉ、イザーク」
「は、はい! 親方ぁ!」
「はっはっはっはっは!」
ばんばんと今度はディアンに背を叩かれるイザーク君
「? 何かあったの?」
「いや、なんでも。家に行ってゆっくりしよう」
「? そうね? ディアン君」
何とも言えない表情のイザーク君を見て首をかしげるアールカエフだった。
……
「さすが鍛冶師組合……といったところじゃなぁ。景気がいいのぉ」
「まぁ、刃物やら武具類はソコソコの値がするでなぁ。が、ここは少々大きいのぉ」
「だな。アンタ……。大きな織物工場の跡地とは聞いていたが……デカすぎだわ」
鍛冶師組合にいわれたところに来てみたら、大きな敷地と建物。一瞬、ここかと疑ったが、ギルドの旗もたなびいている。庭も建物も奇麗に管理されており、元は布地を織る工場だったが今では鍛冶師ギルドの宿舎や催事場としても機能している。
さて、入ろうかという時に”がらがら”と馬車が飛ばしてきた。ギルドの職員のようだ
「ようこそお出で下さいました。皆様。歓迎いたします。私は職員のジニーと申します」
まだ若い、人族の男が馬車から駆け下り、カンイチ達に挨拶をする
「お世話をおかけします。ジニー殿。私はカンイチと申す。ギルドの方々にも感謝を」
と、カンイチが応える
「あのぉ、先客の親方が一人いるのですが……」
「ああ、ワシが了解した。どうせ、夜も帰らんじゃろうし、日中もほとんどギルドにおるで問題なかろう?」
「ドワーフの方かの。親方が了解しているのであれば問題あるまい」
「うむ。友人じゃ。前に一緒にダンジョンに潜った仲でなぁ。なぁに、居るといっても居ないようなもんじゃで。夜は酒、昼は主に鍜治場じゃろうて。建物も沢山部屋がありそうだでな。問題もなかろうよ」
「で、親方、今晩は?」
「もちろん、ご出勤じゃ! はっはっは!」
「どうする? イザークも来るか?」
「師匠! 行ってくるよーー!」
宿の管理人夫婦にカンイチ達を紹介するとジニーはさっさと馬車に乗って行ってしまった。もちろんドワーフ一家を乗せて。
「さてと。親方一家は行ってしまったが……飯でも行くか」
「先にハクたちの世話をしちゃいましょうか。厩もあるようですし」
「おう!」
……
「さ、さすがに暗くなると……派手ですねぇ……」
カンイチ、アールカエフ。フジ。今日はガハルトとイザーク、監視でダリオンも同行。食事へとでて来た。
灯りの下は一寸したショーのように。イザークの目の前には男を誘う夜の蝶たちが。ひらりひらり。昼間より露出も多く立つ姿もより煽情的だ。
性少年真っ盛りのイザーク君にはいささか刺激が強いだろう。今にもフェロモンに誘われるオスの蝶のようにフラフラと付いていきそうだ。
「行けばよかろうが……」
と、呆れ顔のガハルト。
『ほれ、しっかりせぬか。イザークよ。……やれやれ。困った者よ』
と、こちらも呆れ顔のフジ。ふらふら~といってしまいそうになるとフジにぐいと手綱を引かれる。どっちが獣なのかわからない状況だ。ある意味本能に忠実なイザーク君の方が獣かもしれない
「はっ――! ス、スイマセン。フジ様」
『しょうがない奴よ。盛る相手は誰でもいいのか? 貴様は……』
「そ、そんな事は……」
やれやれ。そんな表情のフジ。
「うん? イザーク君は飯の後、娼館かのぉ? 若いのぉ」
と、セクハラ爺さん降臨。
「……行きませんよぉ。カンイチさんの方が若いでしょうに!」
「わしには関係ないでなぁ」
「そうそう! こんなに可愛い……ダリオン君? 文句があるのなら言いたまえ?」
「いえ」
言葉少なく答えるダリオン。が、その瞳は色々と語っているが。
「アールよ。どれ、今日は屋台巡りでええかの」
「ああ! そうしよう! お腹減ったね!」
……
提督府のある【テイラーズガーデン】で旅の疲れを癒す一行。
被服の町ということで防寒着やら厚手の靴下、手袋等も購入することができた。
村々で作られているのか、出店に並ぶキルトや毛糸製品にも良いものがあり多く購入。
「キキョウ、これくらいかなぁ。ねぇ?」
「どうじゃろうか。すぐに大きくなるでのぉ」
と、二人で子供用の服を物色中。
「う~ん。ちょっと大きいの買っていこうか。こっちはリンドウに。着れなかったら僕が着てもいいし?」
「さすがに大きいじゃろう……イザーク君も買っておけよ」
「了解ですぅ。何買えばいいのだか……?」
田舎街のアカリノでは見ないようなお洒落な服がズラリと並ぶ。
「どれ! 僕が見てあげよう! イザーク君!」
「……店の人に聞いた方がええぞ」
「どういう意味だい! カンイチ!」
……
結局のところイザーク君は娼館にはいかなかったらしい。この国は娯楽の多い町。ダンジョンのある町にはカジノと娼館はつきものだ。まだまだ機会はあるだろう




