友よ…… (別れ)
……
「わわっ! オーサガ……様?」
「……おい。イザーク。なんだその顔は。今まで通りでいいぞ?」
久しぶりに顔を出したオーサガ。その姿は王子様そのもの。豪華な服を羽織る。出会ったときは襤褸。その後は若造冒険者の服装だった彼がまっさらな、細かな王国の紋章の刺繡のはいった服を着る。髪も奇麗に撫でつけてあり冒険中、ぼさぼさ頭だった彼とは大きな違いだ。
その傍らに王太子近衛隊隊長、シバス。こちらも王国の紋章の入った鎧をまとい、大きな楯を背負う。
「だって……ねぇ。カンイチさん?」
「ま、そうじゃな。オーサガ様じゃな。馬子にも衣裳とはよういうたもんじゃわ」
「おいカンイチ。オーサガは元から王子様だぞ? うん。そっちの服の方が似合ってるな。やはり血か?」
珍獣でも見るような目でオーサガを鑑賞するカンイチ達。
「や、止めてくださいよ、カンイチさん、ガハルト殿まで!」
「で、どうじゃ? お城の方は。だいぶ落ち着いたかのぉ?」
「ええ。王も施政に戻って来ましたし。どうにか日常に。例の件もダリオン様の証言のお陰で妙な噂も流れることもなく。私の王太子に就くことに異論もなくすんなりと」
「そうか。そりゃぁ、良かったの。で、この後、飯なぞどうじゃ?」
「申し訳ありません……色々と……」
「それもそうじゃな。随分と忙しそうだでなぁ」
「ま、あまり無理はな。カンイチ。なにせ王太子様だ。城の外に連れ出すのもな。それに第一王子やら大貴族の当主が死んでいるのだ。ここまで混乱が無いのは上出来だろうよ」
「本来であれば晩餐会やらを開いて歓待させていただくのですが……」
「ま、ウチはそういうのはええで。そうじゃなぁ。喪に服してるのだもの。派手にできぬわな」
「ええ。お兄さんの喪中に宴会とか。そんな事で評判落さないでくださいよ。オーサガさん……オーサガ王太子様」
王太子様……イザークの口から。今までの揶揄うような調子とは違い、敬うような口調。
短い間だったが同年代、仲良くしていた二人。そして、
「イザーク……?」
「それに……。もう俺達と会うのも……。ほら、一応? 流れの冒険者だし? 変な噂が立っちゃうのもね。ねぇ、カンイチさん」
別れを切り出すイザーク。
確かに。と、カンイチも納得をし頷く。
「……そうじゃな。わしらは裏方だで。短い間だったが。楽しかったぞ。オーサガ君。のぉ」
「だ、だが、何も功績に報いていないでは……」
「ま、穀物流してもらうで。それで十分じゃろ。当分買わんでええで。ダンジョンの底まで行けようよ?」
「だな。何より面白かったな! はっはっは!」 (ガハルト)
「そうですね。あと数日。適当に遊んだらアマナシャーゴ国に戻りますよ。まだダンジョン途中ですから」
「イ、イザーク」
「ま、色々と失礼な事言っちゃったけど。是非とも農民に優しい王様になってくださいね。オーサガ王太子様……」
「あ、ああ。握手してくれるか。イザーク」
「ええ! 是非!」
オーサガの差し出された右手を握るイザーク。
「わ!」
そのままぐいと、引かれてがっしりとオーサガに抱き留められる
「友よ……」
「オ、オーサガ……さん」
そしてイザークも友の肩を抱く。
……
「うんうん……イザーク君……。オーサガ君……”ずひぃ!”」
「うむぅ! ……良き友を得たのぉ! 良き哉! 良き哉!」
この青春劇を傍で見ていたカンイチ、メイセン両爺さんは爆泣きだ。
「またか? カンイチ……」
その様子を見て呆れ顔のガハルト。毎度のことかと。
「しょうがねぇ親父殿だな……」
と、こちらも同じくバナック。
人心地ついたころ、
「そ、そうじゃ! ”十手”餞別にこさえてもらったんじゃ。ほれ、オーサガ君!」
”収納”から、護身用にとダイインドゥに作ってもらった龍の意匠の十手を取り出し、渡す。
「それであれば、その豪華な服にも問題なかろう? 命を守る助けになるとええの」
「あ、ありがとうございます……カンイチさん」
カンイチより手渡された十手の細工、握りを確かめ、数回振り、帯に刺す。
カンイチの想定通り。王太子の衣にもマッチしている。違和感はない
うんうん頷くカンイチ。
「うん? どうしたんだい? カンイチ? お昼どうするんだい? お腹減ったけど?」
と、そこにひょっこり、アールカエフ
「う、うむ」
「ア、アールカエフ様。この度は大変お世話になりました。ありがとうございました」
「ん? そうね。ま、頑張ってね。オーサガ君! んじゃ! 終わったら呼んでね、カンイチ!」
と、あっさりと引っ込むアールカエフ。
「アール様……結構冷たいですね……」
と、イザークがボソリ。
「いや、イザーク君。アールは多くの家族やら友を送って来たんじゃ。1000年以上の生の中での」
「そうだな……。カンイチのいうとおりだな。俺たちも送ってもらう方だものな」
「そ、そうですね。すいません……。! ひょっとしてカンイチさんも?!」
「おい! イザーク!」
オーサガがいるここでする話ではないとガハルトが遮る。
「さて、な。が、もしもそうなら……わしは耐えられるじゃろうか……」
「……カンイチさん」
「カンイチ……」
オーサガとの別れを済ませて一週間が過ぎた。
オーサガは精力的に施政に関わろうと真剣に勉学に取り組んでいるという。朝夕の鍛錬も怠らず、特に十手術に磨きをかけていると。
「最近は武術の鍛練にも身が入っておりましてな! 生意気にもこの儂に向かって手加減無用! とな! これもすべては皆様のお陰! 感謝いたしますぞ!」
と、王子らの剣術指南のメイセンは大喜び。
「それで危うく孫を叩き殺すところだったんだがな……」
と、茶をすすっていたバナックがボソリ
「ええぇ!」
「一発良いもの貰ってしまってな! はっはっは!」
「メイセン様ぁ。折角俺達が怪我もなく無事に連れて来たんですからぁ! 程々に願いますよぉ!」
「おお! 言いよるのぉ。イザーク殿! はっはっはっはっは!」
「笑い事じゃないですよぉ」
「ああ。洒落にならんぞ。親父。やっと王太子も決まりこれからだって時にな」
「ぅむぅ!」
「……こりゃ、アールに言って良い”霊薬”置いて行かねばならんか……の」




