やっと肩の荷が下りたわい。 (作戦終了)
「父上……お久しぶりにございます……ご心配をおかけしました」
「ああ、オーサガよ。よくぞ、よくぞ無事に帰って来た」
玉座に座るのはアターラ・アカ=メーヌケイ・アコーウタイⅢ王。メヌーケイ国国王にしてフウサ、オーサガの実父だ。
先ほどまで泣いていたのだろう目を赤くはらした王。オーサガから見たらフウサは腹違いの兄、一線引くものがあるが、王から見れば同列。その子の一人を亡くしたのだ。
「ボッカシオからの経緯の報告が上がってきておる。真実……なのだろうな」
「はい。残念ながら」
「そうか……」
兄が弟を貶める策。その全貌はボッカシオの書で明らかとなっており。その責を取りボッカシオとフウサは死んだ。父王としてはいたたまれないだろう。
「王よ。こんな時にする話ではござらんが、王太子を決めなかった事も要因の一つ」
と、メイセン
「ふぅ、死んだボッカシオからもオーサガを王太子にと嘆願が上がっている」
「妥当でしょうな。ダンジョンからの帰還。ダンジョン賊の殲滅の実績。オーサガ王子の指揮でなされたとアマナシャーゴの提督と帝国から感謝状が出ております」
王のそばに控えるラブラタ宰相が補足を入れる。彼はロゼック侯爵家の当主でトゴット公爵家の勢力だったがポッカシオの意思を尊重するようだ。
「事の経緯の報告はダリオン様がお引き受けくださいました」
「久し振りです、アターラ王。では……」
……
その日の午後に第一王子の病死と、オーサガの王太子指名の件が内外に通知されることになる。
その後の経緯としてはトゴット公爵家は王とオーサガから赦免状がだされ、そのまま存在することになる。が、強権的手腕の持ち主だったボッカシオ、第一王子の死により勢力を大幅に縮小することとなる。
ヒラキに関しては反逆罪ではなく、騎士にあるまじき行いとして処刑。家族には罪は問われない形に収まる。今後は正式にシバスが王太子の近衛騎士団長へと就任することになる。
アールカエフ――カンイチ一行については特に発表もされず。関与、来訪についても。これはアールカエフたち本人の意向に他ならない。全ての手柄はオーサガ皇太子のものに。
……
ここはカンイチ達が世話になっている軍宿舎。
「んじゃぁ、ヒラキ君の死体見てくるね!」
「は? な、何でじゃぁ!? アールよ?」
「薬の効果の検証? 腹かっさばいて診てくるよ? いい検体だろう? カンイチも来る?」
「……い、いや」
……とか?
……
「さてと。オーサガ王子の王太子が正式に決まったな。これでミッションクリアだな。カンイチよ」
「うんむ。やっと肩の荷が下りたわい。これで安全なんじゃろ?」
「そりゃぁ、こっからはお国の仕事だろうが? 次期王だ。コロッとはやらせんだろうさ」
「うん? オーサガ君に畑貰って警備役にでも就任するのかい? カンイチ? ガッポリもらえるぞ? きっと? もれなく僕もついてるしぃ♡」
と、何気なく発せられたアールカエフの言葉にぴくり! と反応するガハルト。耳がピクリ、ピクと。
アールカエフのいうとおり。カンイチが望めばアールカエフとフジが付いて来る。数枚の畑どころか一地方丸っともらえる顔ぶれだ。
ダンジョンも中ほど。ここで切り上げられたらつまらないと気が気でない。
「そうさなぁ~。わし的にはもうちぃと温暖な地域がええなぁ。この国の南だと例の【幸福の地】やらじゃろ?」
ホッと胸をなでおろすガハルト
「うん? 【剣の山脈】やら【入らずの森】に畑作ろうっていうんだろ? そこだって魔物ウジャウジャいるぞ? 大して変わらないんじゃないの?」
アールカエフのツッコミに再びそわそわしだすガハルト。
「……そう言われればそうじゃなぁ。安心せい、ガハルト。もう少しダンジョンは潜るで」
目の端に入ってくるガハルトの顔の七変化を愉しむのもいいが安心させてやろうとダンジョン行を示唆するカンイチ
「お、おう」
「それにもう少し、この世界を色々と見て回りたいでなぁ」
「ま、それもいいけど。まずはレストランだな! カンイチ! リストだして!」
「それじゃぁ、俺らは冒険者ギルドでも見に行くか。イザーク」
「ええ、そうしましょう。あれ? そう言えば親方達は?」
「うん? 昼前に出かけたぞ。恐らく二、三日は帰っては来ないだろうさ」
「ですね……。ガハルトさん、合流します?」
「そうだな。一日くらいな……」
「御苦労じゃな……」
「カンイチ。お前さんも一回くらい来い!」
……
王都【ホーズキ】に来て早、十日。王太子となったオーサガは一切顔を出さない。それを詫びる文が何回か。次期王としての教育が始まっているのだろう。
カンイチ達もまた自由気ままに王都を満喫。王都にあるレストラン『バーミセリー』も既に常連だ。
クマ達の散歩のついでに鴨を撃ち、レストランに卸す。するとレストラン自慢の一品として供されるわけだ。フジも余程気に入ったのか、行けば4羽は平らげる。
ガハルトもまた、メイセン達、メヌーケイの軍人との気の入った鍛錬のお陰か、狩りに行こうとは一言も言わない。イザークも地力を上げようと騎士団の鍛錬に加わり鍛えている。
ダイインドゥ一家はギルドの持ち家に世話になり昼は鍛冶、夜は酒宴にと勤しんでいるようだ。
ミスリールは夕方にハクたちの世話に顔を出すが、夫婦は一向に顔を出さない。昨日はダイインドゥ監修の縄鏢の槍先部分が届いた。着々と武具の生産も進んでいるようだ。
……
そして、今日、凝った装飾の施された”十手”が届く。カンイチがオーサガとの別れの際に送ろうと思ってダイインドゥに注文したものだ。
地球の”龍”をあしらった美しい細工物だ。これであれば公式の場でも腰に下げていられるだろうと。自己防衛の手段にもなろうと。
「うむ。流石親方だ。良い出来だな」
細工もさることながら、しっかりとした作り。ぶんぶん! と振り、バランスを確かめる。
納得いったようで大きく頷き、木の箱に戻すカンイチ。
「ぅわ! か、恰好良いですね! この十手! わわ!」
「うん? イザーク君も作ってもらうか?」
「……いえ、普通ので良いですよ。こんなの下げてたら狙われちゃうし?」
「ふふふ。そうじゃな。気に入ってくれるとええがのぉ」
「きっと気に入ってくれますよ。カンイチさん」
……




