兎の皮
……
アールカエフが女性と知り少々面食らったカンイチ。
例の兎の件で申し送りがあると、リストと共に買取カウンターに向かう。
ギルド長が2、3買取担当の職員さんに申し送り、それが終わるとリストは戻っていった。
「カンイチ様、ギルド証の提示良いでしょうか?」
「うむ。これを」
ギルド証が、小さな機械に吸い込まれる。この辺りは現代地球と同じような技術に見える。
――ふぅむ。銀行の預金を引き出す時みたいじゃぁなぁ。ほう。アレで、何かを書きこんどるのかの?
興味津々。身を乗り出して受付嬢の手元を凝視する。何やら不思議な文字列が並んだものを操作している。
「はい。これで。兎駆除ミッションは、自動更新されて期限なしです。常設ですので放置されても特に罰則等もございません。頑張ってくださいね!」
ギルド証の裏に、現在受けてる依頼が刻印されるようだ。記載欄が5段あるから同時に5つ受けることができるのだろう。
「うむ。じゃ、今までの兎の皮はここに出せばええのかの……良いのでしょうか?」
「あ、ちょっとお持ちください。カンイチ様は、ここでは買い取れないんですよ。係の者呼んできますね」
「わかった。あ! そうそう、薬草図鑑とかってあるのかの?」
「ここの図書室や、町の図書館にありますよ。採取者向けのハンディタイプの物ならば、ここで販売しています。新人さんなら古書がお勧めですよ。どうしても高価ですし。中身だって何十年と変わりませんしね。むしろ、古い中古本の方が、変わったのも載ってるし、前の持ち主のメモ書き等もあってお得ですよ」
「なるほどのぉ。古書店を回ってみます」
受付に備え付けてあった図鑑を見せてもらう。ぱらぱらぱら…
「ふむ。印刷技術はあるようだな。どうせ暇だし。回ってみるか……」
図鑑をぱらぱらやっていると、
「おまたせ! カンイチさん」
「こんにちは、確か……ルックさんでしたね」
ギルド所属の解体師のルック。ドルの親方の一番弟子だ。見た目、飄々としているが、その目に宿る知性、かなりのキレものだろう。
「ルックで良いですよ。では、こちらへ」
「うん? 大げさじゃないか? 兎の皮だが?」
「ま、カンイチさんの場合、その前段階がねぇ」
「わかりました」
そう全ては”収納”に入ってる。
「おう! カンイチさん、何か良い獲物かい?」
解体部屋に入るとドルの親方がにこやかに迎えてくれた。
「こんにちは。ドルさん。いや、犬の餌にと兎を狩っていたら、何でも、領主様は大層……」
親方の顔の表情が苦々し気に歪む。カンイチの言いたいことに気が付いたらしい。
「……面倒臭いことじゃなぁ。あのしみったれめ。セコセコ小銭を集める事しか脳みそを使わん!」
「ふふふ。そういった訳で、”皮”を」
「カンイチさん、この台にお願いします」
「はい。兎の皮!」
手をかざし、魔法の呪文、兎の皮と唱えれば、指定された解体台の上に”どっさり”と積みあがる、新鮮な兎の生皮。血すら流れでている。
「へぇ、これが”収納”品かぁ。熊でもびっくりしたけど、剥きたてのほやほやですねぇ」
「おう! その品質がな。下手な奴ならここに来るまでの時間で腐らせちまう。査定と処理頼むぞぉ!」
「はい。へぇ、罠で仕留めたみたいに奇麗だ。剥ぐのも上手ですねぇ、カンイチさん」
「なら、お前は首じゃな! はっはっは!」
「親方ぁ~~」
「どれ、カンイチさん、茶でも飲んでいってくれ」
「ええ。頂くとしよう。ドルさん」
容姿は若くても、話となれば、ドルさんや鍛冶屋のダイさん年配者の方が合う。
談笑している間に査定が終わったようだ。
「ふぅ~~い。どれも完品。高く売れるでしょう。うちの買取価格は知れてますけど」
「それを言っちゃお終ぇよ。常日頃、言ってるだろう。だから、丁寧に、なるべく高額で買い取れるようにとの。ワシ等も誇りを持って仕事をせよとの」
「はい! 親方! ……ところでカンイチさん、他にも何か入っていません?」
「うん? 猪が入っているが……こいつは肉屋じゃろ?」
手元にあったファイルをパラパラと捲りだすルック。
「ちょっと待ってくださいねぇ。え~~とぉ~~。猪肉と……。お? 丁度いい。2頭分の”依頼”がありますね。うちで買い取りできますが?」
先ほどのファイルは”依頼票”を綴じたものらしい。
「表の依頼は? 受付とか良いのかいの?」
「ええ。”マジックバッグ”持ってる方や、”収納”持ってる方に人がつくのってこういった対処もできるようになんですよ。ですのでカンイチさんの方でも不要な物やらが”収納”内にあれば言ってください」
「ふむ。解体なんかも頼めるかの?」
「ええ。ウチ、手数料がかかりますけど」
「猪、2頭は依頼で、1頭は解体を」
「はい。承ります。解体手数料は相殺しておきますね。明日にはできていますよ」
「ええ。お願いする」
……
その後も、ルックの仕事風景を眺めながらドルの親方とお茶タイム。これが、今後のカンイチの日常の風景の一コマとなる。
お茶もいただき、獲物の解体できるところも見つけた。
「猪とかも見かけたら、積極的に狩ろうかい。クマたちも兎ばかりだと飽きるだろうからの。明日には猪を食わせられるな。喜ぶじゃろう」
向かいにある宿舎に戻る。次は、クマたちを連れて散歩と食事だ。




