俺が王になる男だ! (オーサガ帰還)
……
「アールカエフ様。よくもこのような田舎にお出で下さった。儂がメイセンでございます」
「ようこそ。歓迎いたしますぞ! アールカエフ様! 私はムラソイ公爵家当主バナックと申します。大将軍を拝命しております」
王都、外郭の城門前。アールカエフの前にかしずく偉丈夫。軍隊も一斉に敬礼をもって敬意を示す
「態々ご苦労様、メイセン君。バナック君? 随分とまぁ、大事になっちゃったけどぉ。これもオーサガ君の為と思って大目に見てね!」
やぁやぁと、手を上げて敬意に応えるアールカエフ。
「ははっ! して、ウチの馬鹿孫は?」
「うん? 孫? オーサガ? オーサガ王子がいるのか? どういうことだ? 父上?」
「わざわざアールカエフ様がここまで送り届けてくださったのだ」
「……なんと」
「ま、詳しい話は……あれ? フジ殿とイザーク君は? ガハルト君?」
「メイセン殿の屋敷でゆっくり寛いでいらっしゃる。フジ様もかなりの量の串焼きを食ってたからなぁ」
「ずるい! 僕も串焼き! 買いながら行こう!」
「おいおい。先に用事を済ませてからじゃ」
「むぅ! オーサガ君!」
と、場をオーサガに譲るアールカエフ。
……
「お爺様、伯父上わざわざ出迎え感謝します」
「ふん。お前の為ではないわ! この生意気坊主が!」
と、憎まれ口をたたきながらも孫との再会を喜ぶ祖父。
「おう。無事で何よりだ。オーサガ王子。……身代金云々とも聞いたが……なるほどな。読めたわ」
檻に入るヒラキを見てバナックも全てを悟ったようだ
「その件については後ほど。まずは皆に茶と休息を」
「うむ。しかし、良き学びの場になったようだな。オーサガよ」
少し逞しくなった孫を見て大きく頷くメイセン
「はい。お爺様! 色々と学ばせていただきました」
うんうんと頷くメイセン。今にも嬉し泣きしそうなほどに。
「ま、再会は喜ばしいけど? 僕、お腹減ったんだけど? お茶よりご飯?」
「……我慢せい」
「はっ! そ、それではご案内いたします。出立!」
”ざざっ!”
……
「うん? 何やら城内が騒がしいな。何事か!」
城に詰めていたボカッシオ。文官やらがパタパタと走り回る様を見て訝しげに思う。
「トゴット公爵、何でも王都にあのアールカエフ様が御訪問とのことにございます」
「はい。丁度演習していたバナック将軍。第二騎士団が迎えに上がると」
「ふぅむ? 儂は聞いてはおらなんだが……迎賓館の用意は? 王の日程は?」
「どうにも一切そういうものは不要と……帝国からもそういった申し送りが……アールカエフ様はそういったことは好まぬと」
「では一体何しに来たのだ? まったく人騒がせな……。面倒な事よ。で?」
「はい。そのままメイセン様がご案内するそうにございます……」
誰もが知っている。対立する公爵家。報告する方もびくびくだ。
片や文官勢をまとめるトゴット家、片や軍部をまとめるムラソイ家。
が、最近は次期王、王太子争いの中、あまり行いの良くない第一王子の後ろ盾、トゴット家は少々劣勢だ。若い文官なぞは第二王子、第三王子に期待を寄せている。
「なにぃ! よりにもよってメイセンの処か! 門衛は何をしていたのだ!」
「ひ!」
「ト、トゴット公爵、そ、そのメイセン様から、しょ、書状が……」
「なにぃ? ……。馬車の用意を」
文を一読。すぐさま馬車の用意をと。その顔色は悪い。
「は?」
「こ、公爵さま?」
「……アールカエフ様に挨拶に出る。急げ!」
書状の中味。今回の陰謀についてのものだった。そう、全ては露見した。
アールカエフと一緒に第三王子のオーサガが王都に入ったのだ。
今は軍に守られて手出しのしようもない。しかも先方にはアールカエフもついている。手を出そうものなら……
……
「ふぅ」
馬車に揺られながら一つ溜息をつく。
”がらがらがらがら……”
……
「よく参ったな。ボカッシオ。で、どうする?」
「どうする……とは?」
重厚な家具の置かれた執務室。そこに、メイセン、バナック。そして呼ばれたボッカシオの姿が
いがみ合う公爵家。とはいえ、婚姻関係もあるし、系譜的にも血の繋がりは十分にある親戚だ。
「知れたこと。王太子問題だ。よくも姑息な手段を思いついたモノよ。もとより目はないのだ。引くがいい」
「……」
「今であれば、ヒラキ共の反逆と処理しよう。が、これ以上ごねるとな」
「ああ、ボカッシオ殿には悪いが公にせにゃならんだろうな。意味もなく騎士爵のヒラキの首を落とすわけにもいくまいよ?」
「ぐぅ……」
「フウサ王子も出来が悪いとはいえ遠い親戚だ。何も死なすこともあるまい?」
「サコウも王には関心がないようだ。これで一本化できよう? オーサガで決まりじゃ。どうじゃ?」
「……了承しよう……」
「おっと、ボッカシオ殿。ヒラキの処分後に知らん、存ぜぬといわれても困る。公式に書類を頂けまいか?」
「……ここに至ってそんな悪あがきなどせぬわ!」
と、バナックに食って掛かる。
「ふふん! そうか? 此度の一件。余程の悪あがきに見えるがな!」
「そこまでだバナック。では了承という事でよいな。ボッカシオ」
「わかった……。で、本当にオーサガ王子は戻っているのか?」
「ああ、呼びにやろうか?」
「……一言詫びたい」
「ん? ついでだ。手先のヒラキにも会わせようか? ボッカシオ殿?」
「……」
……
王都。とある場所
「ねぇ、王子様ぁ、新しい服が欲しいんだけどぉ」
「私も! 私もぉ!」
「おいおい。王子といっても自由につかえる金なぞそう無いぞ……まったくしょうがない女どもだなぁ」
真昼だというのにカーテンで日を遮った薄暗い部屋。そこに半裸の男と女たちが蠢く
「フウサ様って王様になるんでしょ? そうしたら、国全部フウサ様のもの?」
「ああ! そうだぞぉ! 俺が王になる男だ! 国も、お前たちよりももっといい女も俺のものだ! はっはっは!」
「もう! フウサさまったら!」
「ねぇ、フウサ様ぁ、町が賑やかなんだけどぉ。今日、何かありました?」
「さてなぁ。ここのところここに通い詰めだし? 知らん。何かあれば人を寄こすだろうさ?」
「って、ここに居るって知ってるのぉ?」
「そういや、言っていなかったな! はっはっは」
「いいの? 王子様がそんなんで?」
「暗殺されちゃう ”ぱぁん!” きゃ!」
女の顔が勢いよく跳ね上がる。フウサが女の頬を張ったのだ。
「あ、暗殺だとぉ……」
「ひ、ひぃ! お、お許しください! フ、フウサ様! フウサ様!」
「俺が暗殺……お前が?」
ベッドのわきに立てかけてあった剣をに手を伸ばす
「ひぃ! お許しください! フウサ様! フウサ様! た、助けて……」
「暗殺……」
焦点の定まらぬ目でゆっくりと鞘から剣を抜くフウサ。
と、その時、
”こんこん”
『フウサ様、公爵様から使いが。王子? お、お待ちくだされ!』
『ええい! どけ! ボッカシオ様の命だ! 速く連れてこいと! 直ぐ扉を開けてください! フウサ王子!』
『王子! ボッカシオ様がお呼びです! 王子!』
”ガンガンガン!”
と扉を激しくたたく音、己の名を呼ぶ声で目の焦点が徐々に合ってきたフウサ。半分まで抜かれた剣を鞘へと戻す。
ゆっくりと怯えた女の頬を撫で、涙をぬぐう。
「わかった! 今準備する! 少し待て!」
……




