あの生意気坊主は! (メイセンという人)
……
「ふぅ……。何? オーサガの使いで獣人族の冒険者が来たと?」
「はっ! この書状をと」
たった今まで振っていた愛用の大剣を立てかけ、汗をぬぐいながら書状に目を通す偉丈夫。
歳は60代前半といったところか。刈り揃えられた白銀の頭髪、口ひげも奇麗に整えられれている。何よりも目を引くのはその肉体。正に偉丈夫。年齢を感じさせない身体。日ごろの鍛錬が窺える。
大将軍職、ムラソイ公爵家の家督は譲ったが今尚、軍部のみならず帝国にもにも大きな影響力を持つメイセンその人だ。
「国境を越えたとの一報は入ったが……。よくも王都まで無事にたどり着いたものよ! あの生意気坊主が。どれ……」
と、悪態をつくも、王位にと期待を寄せ可愛がっている孫だ。もう一人の孫、オーサガの兄、サコウは政治より趣味に生きる男。覇気もなくメイセンから見れば少々物足りない。
王太子の座、そのレースに勝つためとはいえ、ダンジョン攻略などと馬鹿なことをと心配していた矢先、孫がダンジョンで行方不明。しかも漏れ聞いた話によると盗賊の人質になっているらしい。
無謀な挑戦、しかも盗賊の虜囚。たとえ生きて帰って来ても居場所もなく、惨めな思いをするだけ。いっそのこと自害せよ! と、心の中で何度も叫んだものだ。
その孫が自力で王都まで帰って来た。こみ上げてくる喜び! そして笑いをこらえながら書状を読み進める。
「……ほう。 なるほどな。今から城とボカッシオの処に書状を認める! それと……今、演習場には?」
「はっ! バナック様と第二騎士団が」
「ふむ。丁度よい。門まで迎えに往く! 準備を!」
「は、はい? オーサガ王子の御帰還。確かに喜ばしいことですが少々……」
大げさではないかと。第二騎士団は良いとしても王の許可なしに大将軍を迎えに出すのはと。
「オーサガ? オーサガはついでだ。外にアールカエフ様がお待ちだ。ということは……わかろう?」
「ア、アールカエフ様が、王都に? ……。フェ、フェンリル……」
「うむ。くっくっく。どうやって縁を得たもんだか、あの生意気坊主は! はっはっはっはっは!」
こらえきれずに豪放に笑うメイセン
「はっ! 只今準備いたします!」
「うむ! 冒険者殿に茶を! どれ、儂も挨拶をしよう!」
……
「お初にお目にかかる。儂がメイセンだ。……ほう」
ガハルトを見て大きく頷く。できるな。と。そして、ガハルトの足下に目をやる。本来なら入れないはずの獣に。しかも、威圧。圧倒的な力を感じる。メイセン自身が日頃から鍛え、そういった感覚を研ぎ澄ませているからこそ感じることができたのだろう
「そちらが魔獣殿か。儂はメイセンという。ウチの孫が世話になった由。感謝を」
『うむ。構わん。我もオーサガには世話になっている』
オーサガも良くクマたちの世話を買って出ている。まだフジとシロのブラッシングは許されてはいないが。
「こ、これは驚いた……」
メイセンもまさか魔獣がしゃべるとは思わなかったようだ。
「という訳で、こちらが存じているとは思う。フェンリルのフジ様だ。無理を言って通して頂いた。俺はガハルトという。”金”の冒険者だ」
「お、俺……私はイザークと申します。”鉄”です。オーサガさん、お、王子には良くしてもらっています」
「ほう。貴殿があの、『金虎将』の。イザークといったか。楽に。良くしてくれたのは貴殿の方であろう。文にもあった。友とな。感謝する」
前とはいえ、公爵が一介の若造冒険者に頭を下げる
「い、いえ! いえ! そんな」
「メイセン様!」
お付きの騎士、お茶の準備をしていた家の者も慌て、驚きの声を上げる
「下がれ。良いのだ。嬉しい事よ! 孫に良い友人ができることはな!」
「は、はい、そうだと良いのですけど……」
……
暫しのお茶タイム。話題は陰謀云々よりも、オーサガの普段の様子について。
目を細めうんうんと頷く様、そこには孫を愛する祖父の姿が。
見習いとして大活躍ですよ。と、ガハルトが告げると大笑いし、
「感謝いたしますぞ!」
と。そこに、準備が調ったと知らせが入る。
「父上! アールカエフ様が門までお出でになったと聞いたが?」
年の頃、40中ごろか。こちらも筋骨隆々。ムラソイ公爵家当主、大将軍の要職にあるバナック。オーサガの母の兄であり伯父にあたる。
「ほう。貴殿がバナック殿か。俺はガハルトという。使者として参った」
「ガハルト? おお! あの『金虎将』の! 威風はここまで届いておりますぞ!」
がしりと握手をする大将軍
「強い……強いなぁ! ガハルト殿! 早速手合わせを!」
「おう! バナック殿! 是非とも!」
「おい。バナック! 今から一仕事だ! それに、ガハルト殿の最初の相手は儂が務める! 青二才は引っ込んでおれぃ!」
「はぁ? こんな年寄りを先陣にだしたら、我が国のよい笑いものだろうに! 親父殿こそ引っ込んでろ!」
「いや! 御二方と手合わせできるのは願ってもないこと!」
「「おお!」 であるから、退け! 青二才!」
「年寄こそ退け!」
わいのわいのと始まり、副官の方々もどうしたらよいかわからずあたふた。
「はいはい。ガハルトさん、メイセン様、脳筋会談はそこまで。オーサガ王子迎えに行きますよ」
「そうだったな……」
「むぅ。イザーク殿、脳筋とはあまりに……」
「……そうだな。父上のせいで余計な手間を取ったわ。では早速」
『ふむ? 腹も膨れたしな。我はそこの庭におる。イザークと共にな。問題なかろう?』
「む! もしや」
「よろしいか? メイセン殿」
「うむ。構わん。が、万が一があるやも知れぬ。人を二人ばかりおいてよろしいか? 誰も近づかぬようにするために」
「お願いする。じゃぁ、イザーク頼む」
「了解です!」
『では早速、ブラッシングをしてもらおうか! イザークよ!』
「はい、フジ様」
ぐいと膝の上にフジを乗せてブラシを入れていく。そのブラシ捌きもなかなかのものだ。
そんな様子を見て、
「あの若者が『フェンリル使い』……か? ガハルト殿? といっても……使われてるようにも見るのだが?」
と、バナック
「くっくっく。フジ様と盟を結んだものは他にいる。が、フジ様は従魔というよりもチームの一員。同志、仲間だ。俺達獣人族にとってそう言えることが誉だがな」
「確かにな。その力を欲して少なくない血が流れたのであろう。いや、この後もか……。人の手に余るというのに。己が厄災を招いていることに気づかんとはな。愚か」
と、しみじみと言葉にするメイセン
「ああ、恐ろしい力を感じるな。しかも、人語を操るとは……」
「どうしても人族はな。しかも、貴族はその牙が己に届かぬと思っている。……おっと、これは失礼した」
「いや、嘆かわしいことよ」
「だが、使役者を抑えれば……と誰もが思う。それだけの力よな」
「うん? バナックよ。取り込んでみるか?」
「止めておこう。チームか……」




