俺も飛び道具が欲しいのだが? (縄鏢(じょうひょう))
……
大きな宿場町、サゴを通過し東進。王都【ホーズキ】を目指す。
一面の麦畑。見晴らしがよいせいか盗賊などと遭遇することもなく平和にすすむ。
その間もアールカエフとミスリールの鴨撃ち競争は続き、かなりの量の鴨を手に入れることができた。勝負の方は今尚進行中。ミスリール一歩リードといったところか。
このカモ、オーサガがいうとおり、実に美味い。おかげでイザークの”鴨の丸焼き”の腕前も大いに上がり、石窯でこんがり焼いたローストは大人気だ。
副産物の羽毛は布団など、羽は矢羽根にと余すところなく使われる。
おそらく帰路もこの鴨撃ち競争は続くことになるだろう。
そして、
「……なぁ、カンイチよ……」
ミスリールとアールカエフの狩りの様子を見て、その巨体を持て余す一人の漢……神妙な顔で
「……なんじゃ? ガハルトよ?」
「……俺も飛び道具が欲しいのだが?」
「飛び道具じゃと? 前に親方によく飛ぶ投げ槍こさえてもらったじゃろうに? それでよかろうが? それともミスリールにでっかい弓か弩でも作ってもらうか?」
「そういうものではない! まぁ、鴨はとりあえず置いておいてだな……。こう、身体を動かす……な。カンイチ! お前ならわかろうが!」
と、手や足をせわしなく動かすガハルト。
「わからんわ! そもそも鴨置いたら、飛び道具の意味なかろうに!」
「うっ! ぬぐぐぐ……」
……
「なぁ、イザーク、ガハルト殿、一体どうしたんだ?」
そんな様子を見ていたオーサガ。ガハルトの言動を不思議に思いイザークに尋ねる。
彼にも理解ができなかったようだ。
「……暇なんでしょ? どうせ。何時もの病気ですよ?」
「病気……か? それは?」
「『新しい武器が欲しい病』? かな?」
「聞こえてるぞ! イザーク! 組手でもするか!」
「ひぃ!」
「……おいおい」
とんだとばっちりを受けるイザーク君だった。
……
「ほううん? できるだけ密度のある重い槍の穂先かのぉ? で、木の柄でなくそいつをロープで繋ぐと?」
「うむ。なるべくしなやかなロープをの。ロープとの接続は金属製の輪っかでな。二つ三つも繋げりゃ干渉もすまい?」
「で、槍の穂先をロープでもって振り回す……ってことかいな? カンイチよ? そういえば、前に貰った絵図に似たのがあったのぉ……」
カンイチの描いた絵図をうんうんやりながら兵器、所謂、縄鏢の開発だ。
ガハルトの言う”飛び道具”というのはこういうものだろうと。
「なにせ、ガハルト専用じゃて。多少重くとも問題あるまいよ? より威力も上がろうさ。で、練習するのも危険じゃで。併せて先端を丸く刃のない物も 「そんなもんはいらん! 必要ない!」 居たのかよ。ガハルト」
武器云々の話が出てから耳を立てていたに違いない。
カンイチの背後、覆いかぶさるようにガハルトが現れた。
「おうよ! 練習用? そんな温いもんはいらん! 緊張感の中で使わねば習得も遠かろうが!」
「下手こいて変なとこに刺すでないぞ……。だ、そうじゃ。親方」
「ふむ。槍ということは刺すのが主かの?」
「うむ。こう繰り出すようにの」
ロープをシュルリと投げるカンイチ。カンイチの想定通り、獲物に襲い掛かる蛇のようにまっすぐ飛ばすことができた。
「なるほどのぉ。ガハルト殿の膂力もあるで……。重くても大丈夫じゃろうな。ふむ。形状は考えておこう……抵抗なく……うむ。鋭利で丈夫……ふむ」
「おお! 頼む! 親方! ありがとうな! カンイチ!」
「……これで少しは静かになるじゃろ」
「……聞こえてるぞ。カンイチ……」
「ふむ……。槍もええが両端に鉄の分銅を付けるのはどうじゃ」
「そんなのもあったのぉ(所謂、流星錘)。良くは知らんが……。鎌の尻に鎖つけて分銅……鎖鎌っていうのもあったのぉ」
「うん? 面白そうだな。そいつも頼む!」
……
「うん? 練習用のは要らんと言ってなかったか?」
”ひゅうん!” ”ひゆん!”
と、先に重りを付けたロープを振り回しながら歩くガハルト。
「……ま。何だ……」
「ははは。ガハルト殿が暇みちゃぁ、『まだか? 親方! まだか?』と来るもんだからウチの旦那がそれを持たしたんだわ」
と、楽しそうに笑うディアン
「なるほどのぉ。まったく。……完成まで待て」
「そうそう。ガハルト殿。ロープだってできてないぞ。材料が足りない。斬られない方がいいだろ?」
ロープの作成はディアンが受け持つようだ
「うぐぅ、で、こいつの用法は? カンイチ」
「わしだってよく知らんぞ。チラと見たくらいだで。休憩の時にの」
「じゃぁ! ボチボチ休憩にするかぁ!」
「……おい」
……
「で、ヒラキ殿の方はどうじゃ? アール?」
檻馬車(偽装済み)に様子を見に来たカンイチ。
一応の縄鏢の演武? を熟して。それらしく縄に肘を入れたり、足を絡めたりとやってみせたが……。
演武と呼ぶには程遠い。そうそう真似できる技じゃない。が、使い手はガハルト。後は勝手にやるだろうと。センスはぴか一だ。ぶんぶん楽しそうに縄を振り回している彼を残して。
「うん? 問題ないよ? 健康そのもの……少々運動不足? だがね」
檻馬車の床に正座をするヒラキの脈を診るアールカエフ。特段拘束はしていない。が、抵抗などもせず大人しくしている。
「アールカエフ様の霊薬の効果でしょうけど……すごいな。ウチの万が一の時用に欲しいくらいだわ。なぁ、シバス」
「まぁ、わが国は比較的、食料の備蓄は多い方ですから。確かに籠城や遠征にいいですね。食べず、出さず……か」
「緊急用だって。やっぱり美味しく温かいもの食べたいだろう? 士気も上がろうってものじゃない? ねぇ、カンイチ? オーサガ君!」
「そうじゃなぁ……」
大戦経験者のカンイチには染みる言葉だ。食う物も碌に無い環境であったが
「確かに。アールカエフ様のおっしゃる通りですね。士気は戦局を大きく左右しますから」
「それに長い期間コレ使うと胃腸の機能が落ちるだろうし? その辺りは他の霊薬で補えるけどぉ? ま、どうせヒラキ君は処刑だろうし? いっか!」
「おい……」
諦めきった表情のヒラキ。特に反応もない。運動不足の影響もあり、一回り筋肉が痩せてしまっている
「ええ。なるべく早く楽にしてやるさ……。ヒラキよ」
「……オーサガ様」




