じゃあ またのぉ! (領都【テイラーズガーデン】を過ぎて)
……
「おお! 凄いのぉ! アール! お城じゃ! お城! アールよぉ!」
此処は領都【テイラーズガーデン】。元アマナシャーゴ王国の王都だった場所だ。今では帝国の提督府が置かれている。それでも王城を有した都には変わらない。カンイチ達の行く手の風景には尖塔を有する美しい形状の城が飛び込んできた。
大いにカンイチの目を楽しませる。カンイチにしたらTVや映画等で見たヨーロッパ旅行の感覚だ。
城に大はしゃぎのカンイチ。
「カンイチぃ……。見ればわかるよ……。もう散々、お城は見てきたろうに? ああいう高い所に住みたいのかい?」
それに対し、やれやれ……といった風のアールカエフ
「い、いや? そういう訳じゃないがのぉ。掃除が大変そうじゃし?」
「くっくっく。掃除かよ。カンイチ」
「アマナシャーゴ国は多くのダンジョンを有する国でしたから。昔から景気の良い国でしたね。それで城も立派なのでしょう」
と、オーサガ
「へぇ! オーサガさんもあんな城に住んでるんですか?」
「ほ~~ん。なるほどのぉ。うん? それで帝国だかの属国かの?」
「それ故かと。カンイチさん。周辺国から狙われるのであればいっそのこと大国の傘の下に。まぁ、ウチ(メヌーケイ国)もそうなんですけどね。昔はここらは小さい国が乱立していたようですし? ウチの城? そこそこ? ま、いずれ俺のものだがな!」
「うんうん。結構大きいお城だよ。僕行ったことあるし? メヌーケイも昔はもっと大きい国だったんよ? ダンジョンだってあるし?」
「さすがアールカエフ様。よくご存じですね!」
「実際に見て来たのでしょう。魔物並みに長く生きていらっしゃるから。スィーレン様は」
と、そっぽを向きながらぼそりと、ダリオン。
「……ダリオン君。僕はキミに何かしたかね!」
「いえ。ですが、何でここでメヌーケイなんです? アマナシャーゴで大人しくしていて下さればいいのに。ダンジョンだって沢山あるのですし?」
少々納得のカンイチ。ダリオンはイヤでも付き合わされる。これもカンイチ達のせいではないのだが。しばらく一緒にいるから情も移ろうというものだ。
「何納得しているのさ! カンイチ!」
ダリオンの小言よりもカンイチの態度にムッとしたらしい。
「い、いやの。ま、付き合わさせてすまんの。ダリオン殿」
「……いえ」
「くっくっく。ここも寄るのは帰りでいいな。カンイチ」
「うむ。そうせようか……残念じゃがのぉ。兎にも角にもすべて終わらせてからじゃな」
……
「待たれい! 待たれい!」
領都に入ることを諦め、再び東に進路をとるカンイチ一行。その背後から5騎の騎馬兵が叫びながら迫ってきた。周りを見回すカンイチ、どうやらカンイチ達に投げられている言葉のようだ。
「翻る旗は提督旗? 何の用だろうか。……緊急事態かもしれません。ここは私にお任せください」
カンイチの目には旗の区別などつかないが、ダリオンにはしっかりと見えてるようだ。提督……アマナシャーゴ国を治める帝国から派遣されている所謂、代官の旗印だ。
「うむ。ダリオン殿。よろしくお願いする」
馬車を止め騎馬隊の到着を待つ。
駆け付けた馬から、伝令だろうか。ひらりと降り、ガシャガシャと鎧を鳴らしながら整列し隊列を組む。
その様子を見守るカンイチ一行
一際大きな飾り羽を付けた騎士が一歩前にでる。名乗りでもしたかったのだろう。が、その前にダリオンが前に出て、片手を挙げて騎士の言葉を遮る。
「それで、貴殿らはここに何しに? 何某かの緊急の事態か?」
まさかここにダリオンがいるとは思わなかったのか、無言で立ちつくす騎士。
その態度に苛立つダリオン。
「で? 私たちを止めた理由は? 申せ!」
ダリオンに詰め寄られ慌てて敬礼、事の次第を報告する騎士。
「は、ダ、ダリオン様。提督の命にて、こ、ここへ推参しました! アールカエフ様を城にお連れするようにと!」
背筋を伸ばし答える騎士。多少声も震えている。
「だ、そうですが? スィーレン様いかがされます?」
「ん? 御苦労だけどぉ、僕は行かないよ? そうねぇ、帰り寄るかも?」
器用にリツの背に横になっているアールカエフがつまらなそうに答える。
「だ、そうよ。お帰りなさい」
「し、しかし!」
「しかし? ではどうするおつもり? スィーレン様は行かないといっているが? 縄でも打つか? ……お退きなさい。死にたくなければね。スィーレン様は抜けてるようで決して甘いお方ではありませんよ。ファロフィアナ様以上に」
「……」
「それどういう意味だい? ダリオン君! 僕はヌケてはいないぞ! それにファロフィアナ君と違って優しいし? 融通も利くよ? 帰りに寄るかも? だから僕たちが帰って来るまで待っていてくれたまえ! 大歓迎! って、旗立ててね! ? うん?」
どうにも、まだ、何か言いたげな騎士たち。
その騎士たちの瞳をジッと覗き込むアールカエフ。中には目を逸らす騎士もいる
「うん? ……待てないのかい? ……ははぁ? この前のアロクゴーナの件の処分でも出たのかい? 提督の交替とか? ぅん? も、もしや、提督様、斬首のご予定?!」
おお! と、大袈裟に驚くふりをするアールカエフ。
「い、いえ、斬首の予定はございませぬが……」
斬首ではない。ないが……提督の交替。アールカエフの指摘は事実のようだ。
ダリオンもまた得心がいったのだろう。大きく頷く。
「ああ、なるほど。賊から沢山賄賂貰っていたから。あれだけの証拠、言い逃れは出来ないわね。本当に小者ね……。スィーレン様を取り込んでの名誉の回復? 復権でも狙ってたのかしら? で、貴方達は提督の子飼いの騎士という訳ね。同じ穴の……。この事は陛下もご存じかしら?」
「うっ……」
概ね提督一派の思惑はダリオンが指摘した通りのようだ。一言も反論できず黙り込む騎士。
「浅はかね。交渉は決裂。このダリオンの権限でね。おっと、早まったことはしてくれるなよ? この一行の仔細は存じているだろう?」
「は、はい。ダリオン様……」
「往生際の悪い。騎士らしく素直に国からの指示に従っていなさい。身から出た錆だろう? では、参りましょうか」
「もうええのか? ダリオン殿」
「ええ。お時間を取らせましたカンイチ様」
「なら出立せようかの。提督様とやらにはすまなんだと。囚人送り届けたら帰りに寄せてもらうと伝えておくれ」
「……」
カンイチの言葉に何か言いたそうだが、ダリオンの手前、黙り込む騎士たち。その表情、何ともバツの悪そうな苦虫を噛み潰したような滑稽な表情だ。
「もう! カンイチ! 聞いていなかったの? その時は違う提督様だよ! ほんとお茶目なんだから!」
「ほ? そりゃぁ、すまんかったな。じゃぁ、またのぉ」
社交辞令の挨拶のつもりだったのだが、どうやら失礼を働いてしまったようだ。言い直したが……
「……」
返事も無く、変らず苦虫を噛み潰したような顔の騎士たち……
――はて? わしなんかまた失礼な事、言うたか?
「くっくっく。”また”があるといいな。では失礼する。騎士殿! 出立!」
ガハルトの合図で再び東に。何時までも帰らずこちらを見ている5騎の騎士を残して




