偽装を施しての。 (アモヒゴーナ城外町に)
成り行とはいえ、メヌーケイ第三王子のオーサガを応援すべく国元に送るカンイチ一行。
暗躍する第一王子派。そして、ファロフィアナの動きは
……
「ほぉう! 【アモヒゴーナ】? ここにもダンジョンがあるのかの?」
アロクゴーナからアモヒゴーナに抜ける街道。その終着点。目前に大きな町が広がる。
この町もダンジョンを有する町。高い城壁がぐるりと囲む。”溢れ”対策の一環だ。
鉱山、鉄鋼の町故か、城壁も金属が多用されており、より堅牢にみえる
「前に言ったじゃろう? ワシはここに潜りに来たんじゃ。懐かしいのぉ」
と、御者台から高い城壁を見上げるダイインドゥ
「うむ? 確か、鉱山型じゃったな?」
「うむ。『鍛冶師ギルド』で管理しとるのとは別に、政府の管理してるダンジョンも他にあってのぉ。ほれ、アロクゴーナで捕まった罪人の連中もそこに送られるじゃろ。ダンジョンで強制労働じゃ」
うん? と、少し考え込むカンイチ。
「強制労働? 荷物運びか何かかの? 採掘は熟練しか出来まい?」
「いや、ここらの”自然型”の採掘ポイントは分かりやすいで。宝石のような結晶が目印じゃで。まぁ、鶴嘴を振るのは熟練者じゃろうがの。初心者じゃ効率が悪いわい。ま、ほとんどがダンジョンの肥やしになると聞くでな」
「うん? 肥やし?……ダンジョンに食わすのかの?」
「さてなぁ。ま、己の犯した罪、相当じゃろ?」
「……世知辛いの」
「ふん! そんなもんだろうさ。で、どうすんだ? 寄っていくのか? カンイチ? 親方?」
「ん? ワシはどちらでもいいが、どうするんじゃ?」
「そうさなぁ。親方達には悪いが、まずはメヌーケイまでは野営じゃな。なにせ、ヒラキ殿がおるでな。寄るとすれば帰りじゃな」
そのヒラキ。新たに仕立てた一頭引きの小型の檻馬車で護送されている。こちらはミスリールが御者を務める。
「ん? それもそうか。残念だったな! 親方!」
「ま、内陸じゃで。そこそこ夜も飲ませてもらってるで。問題ないがの。のぉディアン」
「ああ。足りてるぞ。ガハルト殿!」
「……そうかよ」
「まぁ、この町にも門外町があるで。そこの空き地を使わせてもらえばええじゃろ。飯屋やら屋台は利用できるでな」
……
「うん? なにをしてるんじゃ? 親方?」
野営の中、ヒラキの乗る檻馬車に板やら布を当てるダイインドゥ、ディアン夫妻
「いやな、ワシら一応はお忍びじゃろうに? であればなるべく目立たんようにの?」
「一応な。檻馬車っていうのは囚人が乗ってるからどうしても目を引くしな! お忍びっていっても、ダリオン殿もいるから情報は筒抜けだけどなぁ」
見せしめと感染症の予防、汚物等の洗浄のため基本丸見えだ。熱くとも寒くとも。もっとも、凍死されても困るので布を張る機能はある。
「で、どうするんじゃ?」
「偽装を施しての。ま、任せておくれ。荷車に見えるようにするで」
「アール殿の怪しい薬のお陰か、随分清潔だからな。だから打てる手だ」
どうやらアールカエフの秘薬、【マンプク君 初号】の治験は実施されたようだ。
「そ、そうか……まぁ、ヒラキ殿も特に問題ないようだからええがなぁ」
「うむ。常に腹が膨れてるからか、よく寝るでな。かえって静かでええわい」
「そいつは良いが……。帰ってくる……よな?」
「多分のぉ。その辺はアール殿に聞いておくれ。ワシにはちいともわからんで」
「ううむ……」
「アンタ! さっさとやっちまおうさ!」
「おうよ!」
馬車の改装は進む。何とも複雑な顔のカンイチを残して
……
『む! こっちだ! イザーク、新入り!』
「はい、フジ様」
「は、はい!」
早速と、イザークとオーサガをお供に屋台に向かうフジ。
城外町……城壁の外にある町。この町は景気が良いのか、城外町すらも木の柵で囲まれている。畑も広がり、片田舎の町のような雰囲気だ。鉄製品の輸送の為か、多くの仲買人や護衛隊の事務所が並ぶ。
その空き地を借り本日の野営地にする
「此処も賑やかじゃな。こういうところでええのじゃがのぉ」
「うん? 村じゃなく、町をつくる気になったのかい? カンイチ?」
「ま、どのみち、まだまだ金が要るじゃろ。じゃぁ、わしらは恒例の兎狩りでも行こうかの」
「そうね。ふふふ」
……
「なぁ、イザークこの兎……どうするのだ?」
イザークの足元には三頭の犬、狼が狩った野兎がこんもりと山を作る。
「クマ達の食事になるんですよ。私達が食べてもとても美味しいですよ」
「この兎をか?」
「ははは。王子。高級料理ですよ。城の食卓にも上がっておりましたよ」
「むむ? 本当か? シバス?」
「ええ。どれ、私もお手伝いしましょう。イザーク殿」
「い、いえ、シバスさん、汚れるし?」
「問題無いですよ。良い機会でございますれば。イザーク殿の手を習おうと思いまして。見事な剥きっぷりで」
会話をしながらも、手元ではべりべりとウサギの皮を剥ぐイザーク。熟練工のようだ。直、”兎剥き”のイザークと二つ名が付きそうだ。
「……は、ははは。もう、何百何千と剥いて来ましたから……」
「どれ! 俺もやろう!」
「ええ! 手、切らないでくださいよぉ。オーサガさん。野生動物ですから病気になりますよ」
「そもそもナイフ扱えます? オーサガ様?」
「お前ら……。特に、シバス! 言うに事欠いて……。ナイフぐらい使えるわ! 見ておれ! イザーク、後でコイツを食わせてくれ」
「ええ。今晩焼いて食いましょう」
……
「そうだ、イザークよ。これだけいるのだ。なんでとらぬのだ? 作物だって食われよう?」
べりびりと皮を剥ぎながらオーサガ。コツをつかんだようでキレイに剥いていく。
「そりゃぁ、捕まえたいですよ! 食害だって洒落にならないし? なかなか捕まえられないんですよ。兎は俊敏、動き速いでしょう? くくり罠もあちこちに仕掛けてありますがね。そうそう獲れませんよ。それに繁殖力が凄まじくて。獲っても獲ってもすぐに増えます」
「ええ、クマ達が簡単に捕らえるから楽そうに見えますがね。オーサガ様もご自分で追ってみればわかるでしょう」
「で、あれば、農村やらでクマ達のような狼を飼えばよかろうが?」
「我が国北部の村はそうですね。猪除けを兼ねて。狼と共に生活している村がありますよ」
「へぇ凄いですねぇ。オーサガさんの言う通り、村で飼えればいいのだけれど、”動物使い”や”魔獣使い”のスキル持ちは中々。人噛んだりして危害を与えたら大変でしょう。その相手が役人やら貴族様だったりしたら……これですよ?」
トン! と自分の首に手刀を落とすイザーク。
「もっとも、そんなスキル持ち、農民なんかやめて冒険者になっちゃいますがね」
「……ここでもまたお貴族様かよ……。で、シバス、ウチの北部の村は?」
「”動物使い”というスキル云々は……。ただ、幼き頃から触れ合ってるので一つの群れのようなものと聞いています。アテラ侯爵も理解為されていて保護されていますね。狼に紋章を貸し出されているとか。周辺の村にも派遣されるとも。おかげで収穫量も他所の地より多いと聞きます」
「……そうか。アテラ侯爵か。あのおっさんも変わり者だものなぁ。いや、ここは素直に学ぶところか……」
「そうですね。新しいことや、効率のいい事を好まれれる先進的なお考えを持つお方ですね。数十年後にはそれが当たり前になってるかもしれませんね」
「ふむ。この一件、落ち着いたら会ってみるか……」
「難しい話してて、手、切らないでくださいよ? オーサガさん」
「おっと、そうだな」




