うん! バイバイ! (メヌーケイ国へ)
……
「いらっしゃいませ! あら、カンイチさん? ご無事で何よりですわ!」
手を広げカンイチの方に駆け付けるトキ。その進行ルートに立ちふさがるアールカエフ。極上のハグはガーディアンの鉄壁の防御によって阻止されたようだ。
「ア、アールカエフ様もご無事で何よりです」
「うん。で、褌の景気はどうだい? トキ君?」
「はい。おかげさまで上々ですよ。『考案者直伝』という看板、大きいですね! それに、お洒落で有名なアカマチさんが懇意にしてくれて。軍の方も多く利用いただいております」
「なぁにぃ! あのおっちゃん! ここでもかぁ! たしかにお洒落さんだけどぉ!」
「ふふふ。着け方の説明書も作ったんですよ」
そういって棚の上に積んであるリーフレットの一枚をアールカエフに渡す。
「あのアカマチ君がねぇ……。うんうん。こりゃぁいい! わかりやすくて。店内で尻出さなくてもいいね!」
「商売繁盛何よりじゃな。トキさん。で、靴の方はどうじゃ? 目途が付いたかのぉ」
「ええ、革の方は問題ないですわ。今、革を柔らかくしているところよ。仕立てまではもう少しかしら」
表の喧騒を聞きつけてか奥の作業部屋からトントンと腰を叩きながら女将さんが出て来た。
「やぁやぁ、カンイチさん。皆さん、無事で何よりだねぇ」
「うむ。世話になってる女将さん」
「蛙の革ねぇ。獲れたての皮ならその工程はいらないんだけどもねぇ」
「いや、ご苦労じゃて。引き続きおねがいします」
「で、店主、褌を求めたいのだが?」
と、オーサガ。
「今、あいにくと……あ! 白ならありますが? 結構な量……あ……」
「……納得いかんのぉ、トキさんや」
ブスッとした表情でぼそり。もちろんカンイチだ。
「あ、あはは……なんて言ったらいいか……ははは」
褌は基本白、白だけあればいい……そんなカンイチの言葉を思い出すトキ。
「褌は己の心根! 穢れ無き純白だろうが! この辺りもチラシに 「はいはい。カンイチ。もういいだろう? これが世の中というものよ? 諦めたまい? ね?」 ……ア、アールよ……」
がくりと肩を落とすカンイチ。そのカンイチの背を優しくなでるアールカエフ。
「なるほど。純白、己の心根か……。うむ! 気に入った! 店主! 白、あるだけ貰おう!」
ガバリと顔を上げるカンイチ! どうやら息を吹き返したようだ
「オ、オーサガ様? 代金は?」
「うむ! さすがオーサガ君じゃ! わしから贈ろう! 人の上に立つ人物はこうでなければのぉ!」
「おいおい、カンイチ」
「カンイチさんありがとうございます! この礼は国へ帰ったら必ず」
「いや、構わん、構わん。ふふん。軟派もんのイザーク君とはえらく違うの……」
「な、何で俺ぇ!?」
……
アールカエフのいう冒険者やら貴族に絡まれることも無く、順調にメヌーケイ国往きの出発の準備をするカンイチ一行。
屋台を襲撃しての串焼き大量購入や洗濯等の細かいことから、ヒラキの移動の手配、手続きなど。
ヒラキに関してはこの場で処刑はせずに罪人としてメヌーケイに送られることに。半属国とはいえ、国家間での罪人の引き渡しとなるので少々面倒だ。
本来であれば国境まで帝国軍が護送し相手国のメヌーケイ国の軍へと引き渡すのだが、今現在の街の混乱で人手が足りない事と、相手国のオーサガ王子と騎士シバスがこの地で身請けし護送を行うとして町の門までの見送りとなった。
カンイチ達が付いてることもあり特例として認められた。帝国のエルフの工作員も見届け人として同行するというのも大きい。
町も大掛かりな捕り物で混乱。罪人のリストに名の載っていた者が次々と拘束される。
一番ひどいのは『迷宮ギルド』の幹部の連中だ。ギルド長以下、副ギルド長を含む多くの役員、管理職。数人の”案内人””運搬人”が贈収賄や職権乱用の罪状でお縄に。
ギルド長、副ギルド長は見せしめの意味も含めて財産没収の上、斬首に。他の者は罪の重さによって『鉱山送り』や、罰金の刑となる。
但し、”案内人”や”運搬人”は【ダンジョン町】を支える貴重な人材、代わりがいない。今回は、警告やら厳重注意となる。
『冒険者ギルド』に関しては不正を行った護衛の資格停止処分と共に指名手配。が、その多くは行方不明。そのため騒ぎは最小限に抑えられた。後にカンイチ達から提出された盗賊の身分証により、多くの者が既に死んでることが判明する。
『ブダイン商会』については、盗賊団として処理されることとなる。少なくとも同居人は年齢を問わず斬首、見せしめのさらし首になる。町内の親族に関しても順次調査の手が入る事に。どのみち、盗賊の親族。もう、普通に町には住めないだろう。
他に三つの商会が関与していた。内、一軒は大きな娼館。賊の下に不正に娼婦を送っていたことが問題となる。途中、何人も死んでいるらしい。らしいというのはほぼ、不正奴隷。数がつかめないと。いずれも処刑の対象になるだろう
お次は、街の行政に関わる役人。管理職クラスが何人か。彼らも『鉱山送り』となる。
因みに、この国の『鉱山送り』は、正確には【鉱山ダンジョン】送りとなる。
罪の重さで働く階層、懲役期間が決まる。必然的に罪重きものほど深部、期間も長くなる。
ダンジョン故、多くの魔物も跋扈しているし、生活環境も過酷。死んだら死んだでダンジョンの”力”となるので罪人が魔物に襲われても放置される場合が多い。
特に役人連中の罪人の生還率はすこぶる悪い。普段から一般人を見下し、反感を買っているためか。彼らが魔物に襲われても助けない。そんなところだろう。
貴族に関しては特にお咎めなし。多くの書類が帝国帝都に運搬されていった。主流派閥の宰相派により、いろいろと調整が行われることになるだろう。
……
メヌーケイに発つ当日早朝。
「世話になったな。アカジン殿」
「……うむ」
がっしりと握手をするガハルトとアカジン。別れを惜しむかのように。
互いに熱のこもった鍛錬ができなくなるからか
その様子を呆れた顔でみるアカマチ
「まったく、今生の別れみたいに……。ヒラキ置いてすぐ戻ってくるのでしょうに? ねぇ。待ってるわよ。カンイチちゃん!」
「アカマチ殿、引き続きリンドウたちの事、お願いします」
「ええ! まかして! みっちりと鍛えてあ・げ・る♡」
「リンドウ! キキョウもちゃんと言う事、聞くんだぞ? ティーター君引き続きお願いするよ」
「おう! 俺は強くなる! アール母ちゃんも気を付けてな!」
「うん! バイバイ!」
「お任せください。スィーレン様」
「おおぅ……。案外、あっさりね……」
キキョウに笑顔で手をぶんぶん振られてへこむアールカエフ。彼女の想定していたお涙のお別れのシーンはないようだ。
「仕方あるまい。接する時間も少ないで。わしらよりティータ殿やアカマチ殿にも慣れようさ?」
と、一応のフォローを入れるカンイチ。彼もまた少々寂しい気持は否めない
「……うん。ティーター君は仕方がない……。仕方がない……。だが! 髭面のアカマチのおっちゃんに負けるのか?! 僕は……」
半涙目のアールカエフ。
「あらあぁ、私はアカマチ・ママよ♡ アールカエフ様ぁ!」
ずぃと前に出てくるアカマチ。ふふん! と、胸を張り。その顎髭の生えた顎をつきだす
「ぶ! ぶっとばぁす!!!」
勝ち誇る顔のアカマチにプチ噴火のアールカエフ。風魔法か? ふわりふわりと外套の裾が揺れる
「こら! そこまでじゃ。アール。アカマチ殿頼む」
「おまかせ!」
「むむむぅ……」
にこやかに応じるアカマチ、反面、納得のいかないアールカエフ。
そのアールカエフを引っ張って場をオーサガに譲る。
「アカジン殿、アカマチ殿世話になった」
「……道中お気をつけて」
「またいらしてくださいね、オーサガ様」
「では、出るとするか! カンイチ!」
「おう!」
目的地はメヌーケイ。どんな旅がまっているのか




