……で、気分はいいかね? (貴族とエルフ)
……
「ううん? 今朝はアカマチ殿達、さっぱり出てこないのぉ?」
平時であれば、駐屯地の広場は鍛練を行う兵たちの気合の入った掛け声で一杯なのだが今朝は誰もいない。
「きっと昨晩遅かったんじゃない? カンイチさん。ほら捕り物で。オーサガさん達が作った悪人名簿にずらっと並んでたでしょ?」
「ふぅむ。言い得て妙じゃなぁ。悪人名簿かの。くっくっく。わしらもそういった物で名を売らんように精進せねばなぁ」
「ですね……」
井戸端でイザークと二人並んで褌洗い。そこに、
「おはよう、カンイチさん、イザーク」
「おはようございます」
シバスを従えてやってきたのはメヌーケイ第三王子のオーサガだ。
「おはよう。早いの。オーザカ君」
「俺もいいです?」
「うむ! 下着くらい己で洗わんとの」
オーサガ、シバスも加わり、並んで褌洗い。
オーサガは王子様。こういう事もしたことは無いだろう。イザークの手元を見ながら真似て擦る。
「俺も欲しいな。このフンドシ。一回履くと手放せん」
「うんむ? オーサガ君。褌は履くではなく締めるものじゃ。そんなに気に入ったのであれば出発前にトキさんとこ寄って行くかの。わしらが注文したのもできてるじゃろ?」
「そうですねぇ。トキさんの処も生産始まってたら在庫もあるかもしれませんね」
「……まぁ、最悪、もう一軒あるで……。褌を全く理解してない店じゃがの!」
思いだしたのか、褌をこする手にも力がこもるカンイチ。
「あんな店の物は褌じゃぁないわい! 魂がこもっておらん! 魂が!」
と、その後もブツブツ……
「こだわりますね。カンイチ殿」
「当たり前じゃろう! シバス殿。一番、身体に近いものじゃぞ!」
「確かに。ふふふ」
「しかし、下着に魂か……」
「うん? オーサガさんなら、お城のお針子さんに作ってもらえばいいじゃないですか? それなら、特許は要らないでしょう?」
「うんむ。そうするとええ」
「なるほど……。が、どのみち今、手元に欲しい。案内願えるだろうか?」
「うんむ! 買いに行こう」
……
朝食後の一服の後、カンイチはアールカエフ、フジ、キキョウ。ゲストにオーサガ達を伴い町へ。ダリオンもお目付け役として随行。服屋や商店を覗いてレストランへと。
他の連中、リンドウはティーターと留守番。基礎の学問に精を出している。学校に行く前準備だ。
ガハルト、イザーク組も洗濯屋やら、ギルドを覗きながら街中をブラブラしている。
ダイインドゥ一家は……ギルドの鍛冶場やら細工場で夜の酒宴の相談をしているに違いない。
「今日は衛兵さんやら軍人さんの姿が多いのぉ。一斉摘発というやつかの?」
「アカジン君も本腰を入れたのだろうさ? その点は? ダリオン君?」
町中の角やら、大通りの彼方此方に二人ないし三人の衛兵らの姿が。
今朝方から屯所は、もぬけの殻。総動員で事に当たってるのだろう。
住人たちも落ち着かないのか、家の玄関から出たり入ったり。その様子を眺める。
「さぁ? ……どうでしょうか? 私には何とも。国元に報告はしましたが、そこから先は存じません」
「そうかね。で、ファロフィアナ君はなんて?」
「答える立場にございません」
と、すぅと頭を下げるダリオン。
「……本当に堅物だねぇ。君ぃ。友達出来ないよ? それに、そんなにファロフィアナ君は良い上司かね?」
「……」
「アールよ。ワシらと違ってダリオン殿は御勤め、仕事じゃ。それくらいにしておけ」
「まぁ、そうだけどさぁ」
「それにしても、王子の肩書がないとまるで違った景色だな」
と、オーサガ。彼の格好も冒険者風のそれだ。若いこと、間に合わせの装備という事もあり、正に冒険者見習いといった出で立ちだ。
「そうです? オーサガさん?」
「それはようございました。冒険者見習のオーサガ殿」
と、従者のシバス。
「む? 皮肉か? ……」
が、何とも嬉しそうな、妙に納得してるような表情のシバスを見て口をつぐむオーサガ。
その様子を好ましく眺めるカンイチ。
「ま、庶民を楽しむのもいいけど、無理して死んじゃわないようにね!」
「死ぬ? ですが、ここは街中、大通りですよ? アールカエフ様?」
「街中だって危険にあふれてるんだぞ? オーサガ君! たとえばぁ、そうねぇ、脳味噌足りない冒険者に絡まれたり? お気楽なアホ貴族に絡まれたり? 人を人とも思わないバカ貴族に馬車で轢かれたり? 人をモノとみているサル貴族に誘拐されたり? 権威をはき違えてる愚かなブタ貴族に無礼打ちされたり?」
「……貴族ばかりですね? アールカエフ様……」
と、貴族の頂点、王族のオーサガには少々耳が痛い。
「そうね。彼らは自分の事を特権階級――いや、人以上の別の生き物? 神にでもなっているつもりなのだろう? 見る景色が違うと気づいたことはいい事よ? オーサガ君も注意したまいよ?」
「はい。胆に銘じます。アールカエフ様……」
頭を下げるオーサガ。
「は? スィーレン様がそれを言います?」
と、アールカエフの言葉を聞いて声を上げるダリオン。散々好き放題やってる貴女がそれを言うのかと。
「うん? ダリオン君? 僕は大人しい方じゃない? ほら、人族の世界にだって極力干渉しないように生きて来たよ? 街はずれでひっそり魔道具屋を営む美少女だぞ。……なんだい? カンイチ? 異議は後でじっくりと聞こうではないか! で、僕だって生きてるんだ。降りかかる火の粉は払うさ。そりゃ僕だって死にたくないし? それよか人族の世、国で態々、好んで暗躍してる君達の方がどうかと思うよ? 帝国の下、これ見よがしに国章まで背負ってさ。権力と魔法を行使して……。それこそ人族相手にやりたい放題。神にでもなったつもりかね? で、気分はいいかね? 優越感を感じるかね? ダリオン君? その辺りもじっくり聞きたいね?」
と皮肉たっぷりの反撃。伊達に長生きしていない。
「……」
唇をかむダリオン。アールカエフの言う通り、エルフということを笠に着て干渉していることは確かだ。アールカエフの様に扮装もせず、帝国の紋章の入った制服をこれ見よがしに着て。
「うん? どうしたね? ダリオン君? 図星で何も言えないかい? ま、そんなんだから国の連中に侮られるのさ。筋も通せない操り人形の君らは特にね。ふっ……。滑稽で哀れだね」
「ぅくっ……」
人の世では恐れられるが、エルフの国から見ると良い様に(下等な)人族に使われている愚かなエルフ。(下等な)人族に尾を振る裏切り者と蔑まれる対象になる。
ダリオンを見るアールカエフの目にも侮蔑の色が宿る。
「お、おい、アールよ?」
険悪な雰囲気に耐えられずにカンイチがアールカエフに声をかける。
「ま、エルフ云々はいいさ? ダリオン君の意見も、もう聞けそうにないしね。で、オーサガ君。貴族ってそんなに偉いのかね?」
「……そ、それは……」
「アールお母ちゃん。キキョウ、お腹減った!」
タイミングよく、キキョウの空腹の訴え。
「うん? よしよし。そうね。僕もお腹減ったよ。じゃぁ、先に串焼き食べよう! 行こう! フジ殿!」
「やほぉ!」
『うむ。ま、我から見ればどちらも陳腐この上ないがな。爪と牙を持たぬ者……か』
リンドウの手、フジの手綱を引いて屋台に向かうアールカエフたち
「ま、それぞれの立場もあろう。オーサガ君は馬車から降りた世界を大いに楽しむとええじゃろ」
「……ええ、見習いですから」
ぽん! と、オーサガの肩を叩くカンイチ
「じゃ、わしらも追うかの」
……




