ねぇ、リンドウ。聞いて (団らん)
……
大方の捕縛が終わり、罪人を乗せた檻馬車はゆっくりと屯所へと向かう。見せ場も終わりと野次馬たちも掃けていく。そしていつもの街へと。
軍が調査のためにぞろぞろと店内に入って行く。証拠品や金品の差し押さえだ。
「よぉし! 俺達も家探しするか! カンイチよ!」
「おうさ! いいもんあるとええの!」
と、腕まくりし、ずかずかと現場に立ち入ろうという二人のベルトをむんずと掴む、ダイインドゥ
「ん? 親方?」
「この件は王子と帝国に預けたのだろうに。証拠品やら財貨はお国が没収。補償等に回されるじゃろ。ほれ、これだけの兵だって動かしとるしな。経費だって掛かろうさ」
「うんむ……確かに」
「この件はワシらは裏方じゃ。アジトでようけ頂いたじゃろ? 報奨金で我慢するのじゃな」
「むむ。それもそうだな。じゃぁ、帰って飯食って寝るか!」
「そうじゃな。リンドウらの顔も見たいでな」
「それが良かろうよ」
……
「で、後は、任せていいか? アカジン殿」
「……ああ。ガハルト殿。情報提供感謝する。後は此方で」
「さぁ! 忙しくなるわよぉ! 押収した書類も結構な量だしぃ! 王子様関連の書類が出たらそちらに回すわ」
「大変じゃが頑張ってくだされ。アカマチ殿」
「うんうん。任して!」
「ううん? であれば、眠気スッキリ! 御目目ギラギラ! 【パッチリ君 3号】を献上しようか? 2週間寝なくとも大丈夫!」
”収納”から引っ張り出した瓶。謎の真っ黒な液体に満たされている。ランタンの光すら吸い込むような……
「「……」」
見るからに危険な匂いのするアールカエフお手製の霊薬
「……で、副作用はなんじゃ? アールよ?」
「え、ええ……。気になるわぁ。アールカエフ様?」
「た、大したことないよ? きっと? その後ぐっすり寝られるし?」
「ぐっすり?」
「人族だったら一割くらい帰ってこられないかも?」
と、瓶を握ったまま首を傾げるアールカエフ
「おいぃ!」
「け、結構ですわ、お気持ちだけで。アールカエフ様」
「薄めれば大丈夫……だよ? アカマチ君? たぶん? どう?」
「ご遠慮します!」
……
ダリオンとシバスを残し、カンイチ達は一路、宿にしている軍の屯所へと向かう。
ヒラキは猪スタイルから解放され、手枷、足枷、自殺防止の金属製の猿轡を付けられ檻馬車に。監視は移動の時まで軍の方で行うことになっている。これ見よがしにアールカエフの霊薬の瓶が置かれ、ヒラキの自死の意思の悉くを砕く。既に死人のような様相だが。
「じゃぁ、ガハルト、親方、明日、何も無けりゃ出立でええかの?」
「いや、二日~~三日後だな。休憩も必要だろうが。ダンジョン駆け上がってきたのだしな。ほれ、洗濯屋も行きたいしな。お前さんだって洗濯するだろう? カンイチよ」
確かに。ガハルトのいう通り、休憩が必要だろう。それにダンジョンで汚れた下着も溜まっている。
「むぅ……褌くらい自分で洗え! ガハルト!」
「ふふん。でだ、行程としてはアマナシャーゴをほぼ横断だからなぁ。王子。ここまでどれくらいかかった?」
「はい。ガハルト殿。俺たちはのんびりでしたので3月くらいでしょうか。特に自国内は町、村にも寄りますので。あ、もちろん今回は寄らずとも」
「であれば、2月……1月半はかかるな」
「ま、良かろうさ。色々見ながら行こうよ。ガハルト」
「……王子は寄らなくともいいと言ったが、カンイチが寄りそうだな。畑に……」
特に農業大国だ。カンイチの興味を引くものも多々あろう
「寄るじゃろ! 普通!」
「おいおい、カンイチよ。寄るのであれば帰りじゃな」
「……わかっておる……で。親方……」
と、言い淀むカンイチ。
「んで、カンイチ。リンドウたちはどうする? 連れて行くかい?」
「そうさなぁ。安全な旅でなし。ここでの規則正しい生活を送った方が良かろうと思うが……。色々見せてやりたい気持ちもあるがのぉ。後で話してみようさ」
「そうね」
……
「アール母ちゃん! 無事か!」
部屋に入るとフジとリンドウがカンイチ達を迎える。
ぶっきら棒だが嬉しいのだろう。リンドウの尻尾も大きく揺れる。
駆けてくるリンドウを何時もの如くがしりと捕獲するアールカエフ。
「おおぅ! リンドウ! 生きてたね!」
頬ずりするアールカエフ。
嫌がるリンドウ。これも何時もの風景だ
「……それは俺の言葉だぞ? ダンジョン潜ってたのアール母ちゃんだろ。放せ!」
じたばた暴れるも解放される気配はない。
「うん? キキョウは?」
「寝た! カンイチ兄もガハルト小父さんもお帰り!」
「おう、いい肉がついて来たな! リンドウ!」
「おう。ただいま。うんうん。随分とがっしりしてきたのぉ」
「そう? まだひと月だよ? 肉一杯食ったからか? てか、放せぇ! アール母ちゃん!」
ぽふりと、リンドウを抱きかかえたままソファに座るアールカエフ。
「ねぇ、リンドウ。聞いて。僕達、お隣の国まで行くんだ。ちょっとした野暮用でね。付いて来るかい?」
「……フジ様に聞いてるよ。まだまだ俺、弱っちぃし。キキョウとここで訓練してるよ。アカマチのおっちゃん良くしてくれるんだ。ティーター様も。アカジンのおっちゃんはおっかねぇけど!」
「そうかの……」
少し寂し気なカンイチ。
「うん! ガンガンしごいてもらうんだ! 強くなるのに!」
「そうかい。リンドウがそう決めたのだったらそうすればいいさ! 僕は応援するよ! うん? いっそのこと、学校にも行くかい? 午前中だけでも?」
「……俺、獣人だよ?」
「関係ないし? ま、虐められるかもしれないけど。今までだってそうだったろ? しかも大人に? それに比べりゃどうってことも無いだろう? 殺されはすまい? それに、やられたらやり返せ! まずは舌戦だ! 但し、負けても絶対、先に手を出しちゃだめだぞ? それとぶち殺さないようにね? 優しくね? 優しくぅ?」
「おいおい……」
「友人の一人、二人できるかもしれないし?」
「まぁのぉ。キキョウは?」
「まだ、小さすぎるね。来年か再来年? ま、考えてみなよ。リンドウ」
「行く! 俺!」
「うん! よく言った! リンドウ! んじゃぁ、頼むね! ティーター君!」
そうと決まれば……全部ティーターに丸投げのアールカエフ
「は、はぁ? スィーレン様! ……普通のところで良いですよね?」
「良いんじゃない? 別に? 普通で?」
「おいおい。改めてお願い致します。ティーター殿」
「え、ええ、手配します」
……




