本気で言ってるのか? お前は (ヒラキという騎士)
……
この頃になると多くの野次馬も集まり辺りは騒ぎに。
次々と拘束され、店から引き出されていく店員。引き立てる罪人の中にブダインの家族、女房、子供達。まだ幼い子も混ざる。
「やるせないのぉ」
「ま、仕方なしだよ? 因果応報。こいつら盗賊たちに父ちゃん、母ちゃん殺されて泣いた子がどれだけいるか。戦利品見るだけでもわかるだろう? カンイチ?」
「まぁの……アールのいう通りじゃな」
次々と荷台が檻になった馬車に乗せられていく様子を眺めていると、
「おまたぁ~~! 連れて来たわよおぅ! カンイチちゃんの言う通り、ちゃんと生きてたわ! 私の心配した気持ち、どうしてくれるのよぉう!」
カンイチ、アールカエフの元にアカマチがやってきた。
彼の後ろから、えっほ、えっほと獲物の猪の様に天秤棒にぶら下げられた男が二人の兵に担がれ、無様に連行されてきた。その獲物はもちろん裏切りの騎士のヒラキだ。
他の隊員や、野次馬たちからも笑いが漏れる。
「ほらぁ、騎士の風上にも置けない屑の豚騎士でしょう? この方がお似合いでしょう? 普通に裏口から、ひょっこり出て来たわ。金(貨)袋ぶら下げて。あら、お下品だったかしら?」
その金袋……ヒラキの腹の上に二つ、乗せられていた。工作資金なのか、はたまたどさくさ紛れに盗賊の金を盗んできたのか。
「むぐぅ! むぐぐぅ!」
地に降ろされ、ジタバタと暴れるヒラキ。首を大きく振り、口の猿轡を外そうともがく。
その赤い顔は恥を少しでも感じているのか、それとも己に対する理不尽な仕打ちへの怒りなのか。
「あら、言いたいことがあるのぉ? 何かしら?」
猿轡を外そうとアカマチが手を伸ばす。
「アカマチ殿、舌でも噛まれて自害されても面倒じゃ。そのままで良かろう?」
「そう? そんな覚悟がおありの騎士様だったら、盗賊と組んでこんなアホなことしないと思うけどぉ?」
「そういわれるとそうじゃな。が、万が一という事もあるじゃろ?」
「いや! カンイチ! そこは、【バリバリ君! 人族用5号】の出番だろう! 噛んで千切れた舌も元どぉりぃ! この僕に任せたまい!」
と、“収納”より怪しく――生物の鼓動のように赤く明滅する液体に満たされた瓶を引っ張りだすアールカエフ。にやりと意味ありげに笑う。
「……で、アールよ。そいつは何号まであるんじゃ?」
「ふふふ。霊薬は日々進化しているのだよ! カンイチ君! ううん? こういった時用に自白させる薬もアリだな。そしたら回復薬は要らんし……ふむ? 新たな路線だな……名前何にしよう?」
「おいおい」
「ぺらぺら君がいい? カンイチ?」
「好きにすればよかろう……」
「なら、お話し聞かせてもらおうかしら? ヒラキ殿?」
猿轡を外すアカマチ。
舌を噛むかとワクワクしながら赤い瓶を握り、しゃがみ込んで口もとを凝視するアールカエフ。彼女にしてみれば丁度よい実験台というところだろう。活はとても良さそうだ。
「ぷはぁ、ふぅぅう、ア、アカマチ殿! こ、この仕打ち! 惨いではないか! 私は騎士爵を頂いておる! たとえ、帝国の軍でもここまでの仕打ちはあまりにも!」
恥じ入るどころか怒りだすヒラキ。騎士様が呆れる。
「はぁ? それに、アナタ! ダンジョンで行方不明なはずよ? 皆で心配してたのよぉ。それが、すでに地上に。ぬくぬくと……」
「むぅ……」
「『むぅ』じゃないわよ! 騎士なら、騎士のお仕事しなさいよ! ねぇ?」
と、場をオーサガとシバスに譲る
「うむ。アカマチ殿の言う通りだな。久しいな。ヒラキ」
予想外の人物の登場で更に目を大きくするヒラキ。
主であるオーサガ王子を不自由な地下に閉じ込め。己は、地上で盗賊どもと酒を交わしながら、本国からの連絡をどんちゃん騒ぎをしながら待っていたのだ。第一王子の特使を
「……お、王子ぃ? オーサガ様ぁ! ぶ、無事で何よりでございます! 御身、どれだけ心配したことか!」
「おい。本気で言ってるのか? お前は」
冷めた目で見降ろすオーサガとシバス。
「も、もちろんでございますとも!」
「ふん。たわけ! 俺がダンジョンの地下に幽閉されているのに、なぜに貴様は地上にいるのだ? ぅん? アカマチ殿の言う通り。豚には似合いだな。その姿! 俺がここにいる。帝国の軍が動いている。少しは察しろ! ヒラキ!」
「ヒラキ。全ては明るみに出ている。殿下の護衛騎士隊・隊長の任にありながら……一族悉く獄に落してやる!」
「な、なにぃ! シバスぅ! なにを! 貴様ぁ! 生意気な! お、王子! そ、そいつこそ! そいつこそ!」
泡を吹きながら叫ぶヒラキ。
悟っているのだろう。既に顔色は悪い。悪あがきだ
「ふぅ、見苦しいぞヒラキ。他の連中は皆、死んだ。お前には国に一緒に帰ってもらう。裸に剥いてそのままの格好でな。なぁに、もう二度と剣を振る事も、歩くこともあるまい。手足が腐れても問題なかろうさ」
「ぐ、ぐぐぅ……わ、ワシは知らん! な、縄を解いてくだされ! 縄を! 王子ぃ!」
「往生際の悪い……騎士だろうにお前は……。恥じて舌でも噛むと思ったが……」
「それじゃぁ、腐毒が回って死んじゃうぞ? オーサガ君。ま、そこは僕に任せたまえ! この【バリバリ君】シリーズで延命は承ろう! それと、お誂え向きのとっておきの秘薬がある! 『ダンジョンで食料が尽きちゃった! どうしよう? お腹減った~~』 ――そんな時どうする! あって安心! 対空腹用秘薬! その名も【マンプク君 初号】だ! これを一瓶飲めば、2~3週間は何も食わずに、排泄もせずに生きられる! ……はずだ! ……理論的には? ダンジョン行が決まってから万が一のために僕がしこしここさえた逸品だ! この薬の治験もしよう!」
今度はなにやら緑色の瓶を引っ張り出すアールカエフ。何故か彼女の作る秘薬は怪しく光を放つ。今回の【マンプク君】はうねるように明滅を繰り返す。
「おいおい……大丈夫か? 腹が膨れて破裂せんじゃろうの?」
「うん? その辺りは大丈夫だよ? 何時だったか? 活きのいい盗賊で試したし?」
「……試したのかよ」
「当たり前だろう! 僕たちの緊急用だぞ! カンイチ君! が、もう少しデーターが欲しい! という訳だよ? オーサガ君!」
そいつを飲むのか……のぉ。と、腰が引けるカンイチ。ガハルトもまた。
”収納”には常時、多くの食い物を入れておこうと心に決めるカンイチだった。
「それは好都合! よかったなぁ! ヒラキ! アールカエフ様がお前ごときの為に御手を尽くしてくださるのだぞ! 光栄に思え!」
「いやぁ~~、そんなことも……あるよ? 照れるね!」
「え、ア、アールカエフ……様ぁ?」
「うんむ! 全て僕に任せたまえ! ヒラキ君! 心臓が止まっても10分くらいなら何とかしてあげよう! はっはっはっはっは! 安心して僕にその身体を委ねるといい!」
胸を張るアールカエフ。ヒラキの目には地獄の番人か何かに見えたことだろう。
殺されはしない。が、この世界の子供を脅す常套句。『言う事聞かない悪い子は悪いエルフの薬(魔法)の実験台にされるよ!』 それが、わが身に! 現実となるのだ。
しかも、相手は古い資料にも名が残る、長く生きている化物エルフ。
どんどん顔色が悪くなるヒラキ。いっその事……舌を。が、怪しく光る赤い瓶を握っているアールカエフがにっこりと笑う。そして思い知らされる。死すら許されないと
「わ、判りました……王子。す、すべて……知ってる限り、お話します……証言も」
項垂れ、すべてを諦めたヒラキ。死ぬ努力をしても苦痛だけだと。
「さすがはアールカエフ様! 完膚なきまでヒラキの心をへし折るとは!」
「うん? 僕、まだ何もしていないよ? オーサガ君?」
首をかしげるアールカエフ
「やれやれじゃわい……」




