我がことで騒がしてしまい、申し訳なく思う (現状説明)
……
屯所の大きな会議室に到着。ここは軍の施設。防音、盗聴対策もばっちりだ。
お茶を用意した兵と入れ替わりに、アカマチも合流。
「あんらぁ、カンイチちゃん! ご無事でなによりねぇ。ダンジョンは面白かったかしら?」
「うんむ。まぁまぁじゃの。アカマチ殿、リンドウたちが世話になり申した。ありがとう」
ここでも、深く頭を下げるカンイチ。
「いえいえ! カンイチちゃんと私の仲じゃなぁ~~い。……それで? 何があったのぉ?」
「うんむ。ダリオン殿たちと、アカジン殿、貴殿に手を貸して頂こうと思っての」
「ふぅん。大事?」
顎に指を当て考え込むアカマチ
「オーサガ君」
一歩前に出るオーサガ。そして外套を脱ぎ、素顔を晒す
「あ、あらぁ!? オ、オーサガ王子ぃ? ……。なるほどねぇ。で、盗賊らは?」
「うむ。確か『闇の指標団』じゃったか? それと『駆け抜ける……』? 何とかちゅたか? そう名乗る賊どもは退治してきたぞ」
『駆け抜ける迷宮団』の名称は忘れてしまったようだ。
「『腰抜け迷宮団』だろうに? 剣も抜かずにただ吠えるだけの」
「ま、そうじゃがの」
「はぁ? 信じられないわ……いや、カンイチちゃんと、ガハルト殿、ダイインドゥ殿達だって、手練れだものねぇ。当然かぁ。それに私達が潜るのも、どこかの内通者から情報が洩れて逃げられちゃうしねぇ」
「ダリオン様、ティーター様、アカジン殿、アカマチ殿。我がことで騒がしてしまい、申し訳なく思う」
と、オーサガが一歩前にでて、頭を下げる。
「いえいえぇ。ご無事で何よりでしたわぁ。それにしても……あの、ヒラキ団長そこそこできると思ったのだけれどもぉ? 他の皆も……残念でしたわね王子」
ヒラキ団長以下、二人をのぞいて皆死んでしまったのかと。胸を痛めるアカマチ。手を胸の前で組み、追悼の意を示す。
「いやの、そこで話というのはの……」
……
ダンジョンに入ってからの事がオーサガ王子とシバスの口から語られる。
20階のボス部屋を抜け、野営。就寝中に盗賊の襲撃を受けたこと。何も抵抗できずに拘束され、袋を頭に被せられ、そのまま牢部屋に。そこをカンイチらに救出された事。
実はこの襲撃・誘拐事件自体が第一王子の派閥が起したことが発覚。王子を襲ったのは賊と手を組んだヒラキ達護衛騎士団だったと。ヒラキ以外の騎士は賊と共に粛清したこと
ここら辺りは言いたくない事だろうが、唇を噛みながら、己の国の内情を話すオーサガ。この後のヒラキの逮捕に協力を願うために。
ここから先はカンイチとガハルトが引き受ける。
襲撃の依頼の文、それだけでなく、日ごろの賊とのやり取り、指令書や、依頼証、取引の証書等の大量の証拠を示し、『ブダァイ商会』の商会長のブダインの『闇の指標団』、『駆け抜ける迷宮団』との関係が濃厚。恐らくヒラキがいるだろうからその身柄の確保を依頼。
オーサガとシバスが作成した、これらの書類からピックアップした貴族やら、町の役員、各ギルドの関係者等の一覧表も提示される。名前のわきにどの書類に名があったか一目でわかるようにナンバリングされ整理された罪状、罪の重さも一目でわかる優れものだ。
その名簿には特に『迷宮ギルド』のお偉いさんの名がズラリと並ぶ。そしてそのわきには多くの書類ナンバーが。ギルド主体と指摘されても反論できないほどに。本気で動けば迷宮ギルド自体が消滅するほどのものだ。
そして、こういう所に湧く貴族の名もズラリ。他国のオーサガがなぜ貴族に分類したといえば、文に使われた紙質、封蝋とうの紋章、何よりも尊大な文章からだ。
最後に退治した賊どもの身分証、掻いた首が並べられる。
その書類に目を通し、唸るアカジン。
「確かに黒い噂は沢山あったけどぉ……。本当に用心深いのねぇ。一々、とっておくなんて。裏切られたときの保険……かぁ。いや、強請のネタにもなるわねぇ。でも、本気で取り締まったら……偉い騒ぎになるわ……ね」
「……この『ブダァイ商会』に調査に入れ……と?」
「アカジン殿。貴殿を信頼して書類をみせたのだ。取り締まる、取り締まらないはそちらに任せる。この国、帝国の考えもあろう? まぁ、取り締まって、処分(処刑)しないときは他国の冒険者ギルドやらを通してこの不正は流布させてもらうがな。わざわざ、悪徳商人やら貴族の小遣いになることは無かろう? 特に若者が不憫だからな」
と、ガハルト
「ええ! そうね! そんな不条理許せないわ!」
と、賛同の声を上げるアカマチ。
そんなことをされれば、ダンジョンで経済が回ってるこの国、たちまち立ち行かなくなるだろう。
「そちらは任せる。俺たちはそのヒラキという屑騎士の身柄確保にある。町から出ないように手配をしていただきたい。命令も内通者の耳もあろう? 情報漏洩を防ぐために、直前に出して頂きたい」
と、ガハルト。場を譲ったのはアカジンとの仲を見越してだ。
「……ふぅむ……」
「まぁ、そういう事? 代価はダンジョン賊殲滅の功績? お手柄になるでしょう? オーサガ君とアカジン君の。貴族絡みで動けない……と、言うのであれば、こっちで勝手にやらせてもらうよ? 精々邪魔はしないで欲しいなぁ」
脅しとも取れる提案を投げるアールカエフ。邪魔をすれば敵認定だ。
「……ふぅむ……」
「で、私達は何を? 今回の件、関与できる余地がないと思いますが? スィーレン様?」
「う~~ん。ダリオン君。はっきり言って門を通してくれた時点でほぼ、用済み? 後は……そうねぇ。ズバリ聞くけど、オーサガ君のところにちょっかい出してる? 今回の件? 帝国は何処まで?」
「さぁ、何のことか?」
「私どもは知りませんし、答える立場でもありません」
と、答える二人のエルフ。
「ま、君達に回答は求めないよ? 労力の無駄だしね。でも、僕たち、当面はオーサガ君についてるから。この後、メヌーケイまで行くつもりだし? ねぇ、カンイチ?」
「うむ。ついでに畑、見せてもらおうと思っての。野菜も沢山譲ってもらえるじゃろ?」
「はぁ?! 違うって! カンイチぃ! ここに来て野菜かよぉ!」
「うん? 駄目かの? アール?」
「ダメじゃぁないけどぉさぁ」
「……メヌーケイへ? ですか? スィーレン様?」
「……もう。ほんとお茶目だな。カンイチは……。うん? そうそう。ティーター君。ダンジョンの攻略は中断。オーサガ君を国元まで送ってくるよ。もちろん、顛末も見てくるつもりさ! 面白そうだろう? ああファロフィアナ君に報告してもらっても構わないよ? 何なら、軍、さし向けてくれても?」
「おいおい、アールよ……」
あまり挑発してくれるなと。
「で、どうする? アカジン君! ダンジョン賊殲滅のチャンスだ! まぁ、他にも悪徳貴族やら悪徳商人。悪い連中がわんさか居るだろうけど、集団化、組織化するまで暫くは平和でしょ?」
「……ぅうむぅ……」
腕を組み、唸るアカジン。
”がたり!” ”ばん!”
椅子を後方に飛ばし立ち上がり、机をたたくアカマチ。
「何時まで唸ってるのよ! このクソゴリラ! ここまで証拠がそろってるのだし、全く問題ないでしょうに! 何処から見ても黒! ま、まさか! 隊長ぉ、賄賂貰ってるの? がっぽりと? わぁ! 幻滅ぅ~~!」
ぴく! と、ガハルトの耳が動く
「……馬鹿な。そんな訳あるか。ただ、『ブダァイ商会』がな。会頭のブダインが提督の処へよく出入しているだろう……」
「はぁ? そんなの関係ないでしょう? これだけ証拠もそろってるのだし? 賊、庇うようなことがあれば、商会諸共失墜よ? もう賊よ! 賊! その辺りはダリオン様にお任せね。どっちを切り捨てるか……」
「そろそろ、気取られる前に動きたいが?」
どうする? 退くか? 行くか? そう、アカジンの目を覗き込むガハルト。
「……解った。我らも出る! 第二哨戒隊とアカマチの隊で当たるとしよう。それと、このリストにある者達を門から出すな。……通した者も同罪。重罪、指名手配となると申し送りしておけ。準備を! よろしいでしょうか、ダリオン様?」
「ええ、提督の方も問題ないわ。……いえ、問題山積みね。これだけの証拠があるとね……」
書類の束を渋い表情でぱらぱらとめくるダリオン。ご丁寧に帝国の国章の透かしの入った便箋、もちろん提督府から出されたものだ。
「そう来なくちゃ! 隊長! ダリオン様ぁ! 行き先は伏せとくわねぇ。5分で出られるわ!」
「……うむ」
アカジンの軍が重い腰を上げる。
……
「よし。わしらも準備をしよう」
「おう!」
「ガハルト殿、できれば生け捕りで願いたいが?」
チラとガハルトの腰に下がる黒光りするトンファーを見て声をかけるオーサガ王子
「ん? ……了解しているが? オーサガ王子?」
逃がさないように、身柄確保と話してきたはずなのだが……と、少々納得のいかない表情のガハルト。
「仕方あるまいて。ガハルトよ。くくく」
くすくす笑うカンイチ達。
「……ええ。ことごとく割ってきたでしょ……頭」
と、イザークの補足が飛ぶ。
ふん! とそっぽを向くガハルト。が、その手は腰のトンファーを撫でる。
「私も同行してもよろしいでしょうか? カンイチ様。ティーターは子供達を」
「構わんがの。危険じゃぞ?」
「邪魔しなかったらいいよ? てか、先にファロフィアナ君にお伺い立てなくとも良いのかい? ダリオン君。策が破れた! って。勝手に動くとお叱りをうけるかもしれんよ?」
「はい。……私の責任で。邪魔は致しません」
「ふ~~ん。ならいいよ。じゃぁ行こうか! ダリオン君!」
……




