なるほどのぉ…… (御免状)
……
表に出て来た賊を全滅した一行。
ガハルトと共に残った賊がいないか調べるのに奥へと進むカンイチ。
このアジトも【闇の指標団】のアジト同様、多くの家具が運び込まれており、快適な暮らしに見える。
「しっかし、思った以上に、ええ生活をしておるのぉ。それに人数も多い。人気の職業か?」
「アホ言え。カンイチ。屑共だ。屑共。しかし……よくもまぁ、運び込んだものだわ。運搬人もべったりだな」
「ええ商売になったんじゃろ。で、これ全部、上まで持って行くのじゃろ?」
「ああ、結構いい値で売れるだろうさ。親方の方で使うかもわからん。売るのは見せてからだな」
ダンジョンの中には似つかわしくない、重厚な家具類が並ぶ。
ワインの大樽やら、蒸留酒の中型の樽。酒類の種類も量もそれなりにある。それに、高価な魔導ランタンも数多くぶら下がっており、暗いダンジョン内を明るく照らしている。ランタンもダンジョンには必須のアイテムだ。それだけ多くの犠牲者が居たのだろう。
「そんなに被害が多いのか……」
「ダンジョンだものなぁ。いろんな意味で危険地帯さ。お? これら、マジックバッグみたいだな? 空だな。売り用か?」
「うん? なるほどのぉ」
机を漁っていたカンイチが大きく頷き書類を机の上に広げる。
「どうした? カンイチ?」
「ほれ、『御免状』じゃと? 賊に金払って安全を買う? のじゃろうなぁ」
「ふ~~ん。副収入……いや、こっちのほうが実入りがいいかもな。よくもまぁ、上手い事考えるもんだわ。まぁ、暫くは、被害も最小限、平和になろうさ」
家探しを進める。生き残りはいないようだ。このアジトには娼婦の類はいない。ホッと胸をなでおろす。
家具をマジックバッグに順に入れていく。ここでも、多くのマジックバッグを鹵獲することができた。
基本、戦利品入れ、穀物入れ、水入れ。予備の装備入れ(武器庫として)、お頭の私物と最低5つはなかなかの大容量のバッグ。それとここには、鉱物入れ用、酒入れ用が別途。先ほど見つけた転売用の物もそこそこの容量だ。
賊の構成員らも小さいマジックバッグや、ポーチを多く持っていた。
「ほぉう。結構ため込んでいるな」
戦利品入れのマジックバッグを覗き頷くガハルト。
「鉱石類? か、こっちは。親方に預けておけばええの」
カンイチの方は鉱石入れのバッグだ。
「隠し部屋はないとは思うが……親方に確認してもらおう」
「おう。わしが呼んで来よう」
……
賊のアジト検めも終わり、外に。ここで野営にしようと思ったが、死体が多い。ダンジョンが食うのにも時間がかかろうと場所を変えることにした。
新たなる野営地を探して進んでいると、
”かーーん!” ”かーーん!”
と、なにやら音が。
「ううん? 採掘……しているようじゃな。ふむ」
「すまんな。親方」
「いや、すべてを終わらせて、ゆっくりと腰を落ち着かせての」
「盗賊の仲間かもしれませんね?」
「かもしれんな。慎重に行こうか」
……
「なるほどのぉ……ああやって使うんか?」
採掘をしている5人のチーム。各々の背に先ほど見た『御免状』が張り付けてある。
「賊とは顔見知り程度って事か? どれ。少し聞いてみるか。お~~い! 話いいか!」
大声で採掘中のチームに語りかけるガハルト
他意はないことを示すため、手のひらを見せるように手を上げる。
「うん? なんだ?」
「ああ、どうした?」
「一つ聞きたい。その、背の御免状? 何処で買えるんだ?」
「はぁ? 無しでここまで降りて来たんか? やるな!」
「あいつらに遭わなかったのか運がいいなぁ」
「おい! あまりしゃべるな。悪いが内緒だ」
仲間を押し、話しを切り上げさせる男
「そんなこと言うなよ。同じ冒険者だろうが? そいつがあれば”安全”なんだろう?」
食い下がるガハルト
「ふん。じゃぁ、襲われそうになったらすぐに降伏するんだな。運が良けりゃぁ、やられる前に交渉ができるだろうさ」
「おいおい、そりゃぁないだろうよ! 冒険者同士だろうに!」
「ああ、教える分には問題なかろうよ」
と、仲間内で揉めだす始末
「チッ――。で、お前さん方、衛兵……」
と、ガハルトそして、ドワーフ一家を見て言葉を切る。警戒していたのは衛兵と思っていたようだ。
「に、見えるか?」
「い、いや、すまねぇな」
どうしても、獣人族やドワーフ族を”亜人”として蔑む傾向がある。取り締まる側にはほぼ居ないといって良いだろう。
「で?」
「あ、ああ。無けりゃしょうがねぇ。交渉してその場で手に入れるんだな。上で買うよりかなり吹っ掛けられるだろうがなぁ」
「まぁ、命あっての物種だ」
「そうだな……。で、上? 何処で買えるんだ? 何階層で? 地上か? 今後の為に教えてくれんか」
「ああ、地上だ。大通りに面した【ブダァイ商会】だ。しかし、本当に知らなかったのかよ? ギルドで何も言われなかったか? てか、案内人も運搬人も連れていねぇのかよ? 死んじまうぞ?」
呆れた表情の冒険者達。
「以後、気を付けるわ……。じゃぁ、盗賊連中に見つかる前にトンずらしねぇとな!」
「ああ、気を付けて帰れよ」
「捕まるなよ――」
「おう! 騒がせたな! お互い気を付けよう! 地上じゃ美味い酒が待ってるぞ!」
{おう!}
……
「ほ~~ん。ブダァイ商会か。『闇の指標団』の方の書類にも名があったのぉ」
「ああ。どうにも二つの盗賊団と密接な関係がありそうだな。元締め的立場か、地上の組織との橋渡し的な立場かもわからんなぁ。多くのギルドやら商人、貴族が引っ付いてるんだろうからなぁ」
「しかし、冒険者といえば、この国の産業の礎みたいなもんじゃろが? それを殺してまで……ええのか?」
「よくはないだろう。が、小悪人にとっちゃぁ関係ないのだろうよ。小金が入ってくるほうのがな」
「うんうん。冒険者もわんさか居るしね。ほら。ガハルト君みたいに? 呼ばなくとも勝手に来るし?」
「ア、アール様ぁ」
「それに被害自体も思ったよか少ないんじゃない? 『御免状』売ってるくらいだしぃ? ギルドでも斡旋してるんでしょ? それに獲物の品定めも慎重に行っていたみたいだし? ほら、採掘しながらさ。普通に潜ってもガハルト君やら親方達ドワーフがいるチームは襲わんでしょ。なにせ、坑道じゃぁドワーフ相手にするのって下策だもの」
うんうんと頷くダイインドゥ。
「まぁ、今回は賊の連中の運が無かった……ってことで? なにせ、入る前からガハルト君に狙われていたもの。普通、狙わないって」
「お言葉ですが狙ってたのはカンイチですよ」
「うん? そうともいう。お宝ちょうだい! だもんね」
「まぁ、当分は安全になるのじゃろ? 良しとしておこう」
「それも地上がどこまで綺麗にできるかだけどもねぇ。ま、期待しましょ?」




