同じ女として恥かしいわ! (娼婦と捕虜。そして騎士)
「本当に一人でやっちまったようだねぇ……」
アジトに踏み込むも、既に、討伐は終了。生存者は二人の案内人――この場合は賊の捕虜と、5人の娼婦
「こんな所まで股広げに来るなんて。同じ女として恥かしいわ!」
と吐き捨てるディアン。
「よ、余計な御世話よ!」
「ふん! ドワーフ女には関係ないわ!」
と、こっちも食って掛かる娼婦たち。
「ああ、関係ないねぇ。じゃ、気をつけて帰るんだよ。……地上までね」
死刑の宣告にも似た宣言。そう、彼女たちは己の武のみで上がっていかなければならない
ここは24階。それなりの武がなければ冒険者だって来れない場所。マジックバッグなんてものも無い
みるみる顔色が青くなる女達。
「あ、あのぉ……このまま放っていくなんて……」
縋るようにカンイチに言い寄る女。胸を寄せ、色仕掛けを駆使して。
「うん? そのつもりじゃが? すまんが、わしらは忙しいでな。もう一ヶ所の盗賊も退治せにゃぁならん」
後方にアールカエフが控えているカンイチには効果なし。
「お、女をこんな所に置いていく?」
「な、何とも思わないのかい! クソガキ! 呆れたね!」
何とも渋い表情のカンイチ。
「は? 言うに事欠いて。カンイチは向こうに行ってろ。ふん、お前たちを上まで連れて行く義理はねぇ。さっき関係ねぇって言っただろ?」
「そ、それは……」
「ふん、舌の根の乾かぬうちって奴かい? 知らないねぇ。おっと、どさくさ紛れのお宝の持ち逃げは許さないよ!」
「ああ、こっちはオレたちにまかして。師匠」
「うむ。頼むの」
女性は女性にと撤退を開始するカンイチ。
「ア、アンタがこのチームのリーダだろう? 虎人の旦那ぁ、わ、私達をう、上まで……」
「お、お願いだよぉ、旦那」
現実を知った娼婦たち。今度はガハルトに。虎人には人族の色気なぞ効かぬことは承知してるので真摯に頼み込むも
「うん? 無理だな。残念ながらそこのクソガキがこのチームのリーダーだ。決定は覆らん。諦めろ。ナイフぐらいはくれてやる。そいつで頑張ってみるんだな。その色気でどこかのチームが拾ってくれるといいな」
とはいうものの、素性の知れない、冒険者にも見えない女達。貴重な食料や水を分け与えてまで保護する、できたチームもそう無いだろう。
「く、くそ!」
「さぁ、こっちに来な! 身体検査だ。グダグダ言うと、賊の仲間としてここでぶった切るよ!」
大斧をぐいと、女に突きつけるディアン
「……」
どう頑張っても、この大斧を片手で振り回すディアンに勝てっこない。
諦めてディアンに付き従う女達。
……
一方その頃、アジト入り口。
死体の剥ぎ取りを行う、イザーク君と、王子様。そして、お付きの騎士殿。
王子様の仕事ではないのだが、自ら志願してやっている。このチームの見習いとして。
「うぇ。あのガハルト殿の操る棒、何で出来ているのだ? イザーク?」
死体から身分証、装備、財布を取り、敷物の上に積んでいく
大抵のものが、無残に頭を割られ、目玉も無いし、血に汚れた象牙色の頭骨を晒し、脳がこぼれている……。綺麗な死体は全て胸部が異様な陥没をみせる。凄惨な現場だ。
「金属製って事しか……。ったく、ガハルトさんも、ガハルトさんだ! 何もここまで思い切り叩かなくとも……。あれ? ぅうん? この紋章ってオーサガさんのところのじゃない?」
襟をもってぐいと引張り、シバスの前に屍を転がす。でろりとこぼれる脳漿
「ええ、イザーク殿。仲間から奪ったのかもしれま……! い、いや、この者、ギィチ?!」
「なに!」
「ええぇ! 知り合いですか? もしかして……」
「ああ、俺の護衛で来た奴だ。は! 無様に頭割られて、様ねぇな。なんか持ってるかもしれん。シバス」
「はい」
「こ、こっちも! オーサガさん!」
「うん? ……ジンタ……か? こいつは? 顔が潰れてわからんが……どれ」
懐を漁り身分証を引っ張り出す。
「やはり生きていたか……。ヒラキの死体捜しましょう。オーサガ様」
「だな……。お? 随分と金持ちじゃねぇか。おい、ジンタよ。俺を売った金か?」
……
死体の山にお目当てのヒラキの死体は無かった。
「う~ん。生きてるのか?」
「恐らくは」
……
「しかし、盗賊稼業というのも儲かるものだな。シバスよ。もう少し国内の賊退治に精を出すか」
「そうですね。治安も良くなります」
「うん? どうしたイザーク? 渋い顔して」
「いえ、生意気言うようだけど……。税金が高すぎるんですよ。ま、俺なんか農業御免だ! って飛び出した口だけど……実際、奴隷のような環境だし、普通に食っていけないもの。力の無いものは逃げ場も無い。逃げ場を塞がれた連中が賊に身を落とすって事も良くありますよ」
イザークの目を真直ぐに見つめるオーサガ。
「……確かにな。俺たちは『そんなこと人を殺す理由にはならん!』 なんていうが、実際追い詰め殺してるのは俺達だものな。しかも、自分の手を汚さずにな。それをもって、貴族? 貴人? 『高貴な血』っていうのだ笑えるわな。ほれ、『高貴な血』の持ち主のギィチだって、頭割られりゃ、何ら賊と変わらんではないか?」
「オーサガ様」
「その穀を潰して毎週のように酒宴を開いている馬鹿どもの顔を見ると虫唾が走る。しかも、それが王になるために必要というのだぞ? イザーク。笑えるだろう?」
「ははは……。何と言うか。オーサガさん……オーサガ様が王になったら、せめて、収穫が少ない時は減税してくださいよ。そうしたら農民も安心して、来年は! って気合も入ります」
「そうだな……毎年同じ予算書に判を押してるだけの王にはならないことは誓おう」
「何を誓うのだい? 新入り君? ご苦労、ご苦労。……。うげ。ガハルト君かい? この有様は……。気持ち悪いからトンファー禁止にするかね?」
と、ひょっこり現れたのはアールカエフ。
流れ出た血やら、こぼれた脳などはダンジョンが食ったのか残ってはいないが、隅に積まれた死体はどれもこれも頭部が変形している。中には盛大に弾けている者も。
「ははは、そしたらガハルトさん拗ねますよ? 剣つかえ! っていったら、今度は縦に真っ二つかも?」
「……やりかねんな。ガハルト君。余計に内臓ビチビチだな……ほかにもっと、こう、ソフトな武器は無いのかい? イザーク君?」
「使うのがガハルトさんだし? どのみち?」
「……イザーク」
「そうね。ガハルト君だものね……。で、今日はここで野営かな?」




