この鬱憤! 賊にぶつけてやるとするか! (ダンジョン賊【闇の指標団】)
……
ゾンビやスライムを撃破しながら最短ルートを通り、いよいよ24階に。
賊からの証言と、地図を睨みながら進む一行。
「ふぅ。もう当分ゾンビはいいです!」
アールカエフに洗浄をかけてもらい幾分溜飲が下がるイザーク。
「すまんかったのぉ。イザーク君。……次も頼むでの」
「……聞いていました? カンイチさん! すまん……なんて、思っていないでしょ! ぜんぜん!」
「いやいや、思うとる。思うとるよ。ふふふ」
「もう!」
「イザーク。お前、けっこうやるな!」
「そ、そうです? オーサガさん?」
と、盛り上がっているところに
「おい、おしゃべりはここまでだ。どうやらアジトに到着したぞ!」
と、ガハルト。ダイインドゥも地図を睨みながら頷く。
「そうか。それじゃぁ、行こうかの。皆の衆、怪我するでないぞ!」
「応!」
……
「お~い。【闇の指標団】? だかという? はぁ、指標だぁ? ふざけたダンジョン賊どもめ。出てきやがれ!」
と、ここも、通路を綺麗に塞ぐ扉の前、大声でガハルトが叫ぶ。
こちらからは見えぬが、向こうからは精巧に重ねられ隠された、二か所の覗き窓から外の様子を窺うことができる。その構造、位置は出張所の扉の解析でおおよそ判明している。
ガハルトの呼びかけに対し賊に動きはなし。
「チッ――、ミスリール。頼めるか?」
「おう! すこし勿体ないけどぉ、直せばいいやね」
既に”潟スキー型”戦車に乗り込むミスリール。こちらは改良型か、しっかりと小さな金属製の車輪が付いている。射撃の衝撃に耐えられるようにか、重量はありそうだ。装填さている矢は――いや、以前、丸太大蛇を仕留めた銛だ。矢尻にはロープ。
「いっくよぉ~~!」
”どしゅ!” ”ぎぃ!” ”どしゅ!” ”ぎぃ!”
呑気な合図とともに凶悪な矢が放たれる!
「おまけ」
”どしゅ!”
ロープを伸ばしながら飛翔する三本の矢!
先に放たれた2射は、扉の二か所のぞき穴のある辺り。オマケは扉の下部に。
矢は扉の板を突き抜け、見事! こちらを窺っていた、二名の賊の目玉に命中! そのまま頭を貫く。
おまけと放たれた矢は、誰かの足にでも当たれば儲けものと放ったのだが、運わるく、屈んで耳を付けて外の音を聞いていた男をそのまま壁に縫い付ける。
そのロープの先を、門前に屹立するガハルト以外の人員で引く!
因みに、フジ、クマ達、アールカエフは後方待機だ。
”べり、ごかぁぁん!”
扉の枠がはずれ、扉諸共、無残な三体の屍が引きずり出される。
「ありゃぁ。オマケも見事命中だ!」
「うんむ。やりおるの」
「すごい威力だな……その弓」
王子様もこれだけド派手な携帯弩は見たことはないらしい。
愛用の普段使いのアーバレストをポーチから出し肩付け、射撃姿勢をとるミスリール。
今度の矢は、長いが細い鉄矢だ。
”どしゅ!”
アジトの奥へと吸い込まれる。夜目の利くドワーフ、中の様子が見えている。丁度、賊も、矢を構えようとしていたところだった。その額に矢が突き立つ
「く、くそがぁ!」
動かずにいれば、一人ずつ矢の餌食になる。何せ、奥は行き止まりなのだから。
その緊張感に耐えられずに盗賊たちが一斉に表に出て来た、が、その場でミスリールの放った矢で、3人が死亡し、その屍に足を取られて転倒、多くの者が足首等に怪我を。中には味方に踏まれ圧死した者も。
すでに恐怖で壊滅状態だ。
そこに、待っていました! と、金属製のトンファーを振り回しながらガハルトが突っ込む
「おいおい……ガハルト殿は一人でやる気かのぉ」
「広い所まで出てくるのが待てないのか? あの御仁は。まったく」
と、呆れ顔で見守るダイインドゥ夫婦。ディアンの肩にかかる大斧は大きすぎて通路では振れない
「じゃが、あのトンファーという武器……あの狭い場所で十全な破壊力を発揮しておるの」
「ああ、アンタ、剣は振れねぇ。ナイフの距離だ。で、ナイフに比べりゃトンファーの方が長いし、破壊力も桁違いだ。しかも操るのはあのガハルト殿だ。洒落にならねぇなぁ」
通路でその金属性トンファーの性能を十全に発揮するガハルト。相手に槍がいれば、隙を見て攻撃できるのだろうが
盗賊が剣を振ろうと振りかぶるも
”がち!”
通路を上手く利用し場所取りをするガハルト。賊の振り上げる剣先が壁に当たり、思い切り振ることができない
「ちっ! せまい! あ…… ”ぼくぅ!” ……」
「じゃ、邪魔すんな! 下が ”ぼこぉ!” ……」
剣を十分に使う事も出来ずに頭を割られていく賊たち。剣を振りかぶろうにも壁や仲間に当たってしまう。振れるとすれば、空いている天井。よって、真向からの斬り降ろしになるのだが、大男のガハルトの前に無防備な胸部を晒すのは自殺行為だ。トンファーの突きで胸部が陥没してしまう
「す、凄いな……シバス。人にあのようなことができるのか?」
「信じられませぬが、実際目の前で。さすがは最もミスリルに近い冒険者といわれるガハルト殿!」
「は? あれで、『ミスリル』じゃないのかよ?」
「ええ、人族の世の事。獣人族故……」
「くだらぬ」
と、吐き捨てるオーサガ
縦横無尽にトンファーを振るガハルト。
散る血液、こぼれる脳漿、転がる屍、重なり、小山になる死体
「ふぅぅぅうううぅ……。出てこい。こちらから行っても良いがな。が、少々、死体が邪魔だな」
「大丈夫か? ガハルトよ」
「ああ! 問題ない。最近戦闘が無いから身体が鈍ってな!」
「お主、コイン・トス、フジ相手に全敗だもののぉ……」
「ああ! カンイチ! お前、イカサマしてないだろうな!」
「しとらんわ! お主が弱すぎるんじゃ!」
「ふん! まぁいい。この鬱憤! 賊にぶつけてやるとするか!」
のそりと、死体を踏みながら奥へと向かうガハルト
ぶぅんぶぅんと、トンファーを回しながら。
……




