……いけ (ゾンビというもの)
……
14日目 地下21階から
21階のダンジョン賊の出張所を綺麗さっぱりに掃除したカンイチ。そこでメヌーケイの王子と出会う。
その日の内に王子と同じ牢に入っていた囚人だった二人の冒険者とも別れる。見舞金を少し渡して。これは、先方の要望だ。一刻も早く上に上がりたいと。
カンイチ達にしても秘密の多いパーティだ。女性もいる。碌に知らぬ彼らと一緒というのもご免こうむりたいので都合がいい。
捕虜だった運搬人にも私物のマジックバッグを返還し、二度と逆らわないようにと念を押し解放することにした。その際、経緯やらを書かせた紙にサインをさせて。内容は表に出れば罪に問われる代物だ。協会の紋章の入ったマジックバッグは没収とした。その書類と併せ協会ぐるみの悪事の証拠として。
盗賊のところにあった食料と水の入った皮袋を運搬人に渡し、地上まで二人の冒険者を(無給で)案内するようにと命じて解放する。地上までなら十分に持つだろう。
王子の従者であったコーシロについては処刑されたようだ。供述書、上申書、宣誓書やらを書かされて。王子の言う通り命を狙った人物。一緒に行動するリスクは避けたい。よって仕方のないことなのだろう。
その供述書の内容は、やはり第一王子派の陰謀。
その多くの指示は、その母の第一夫人から出ていたようだ。
当初はダンジョンでの不慮の事故死……だったが、それだと、第三王子の支持者が第二王子に流れ、第二王子こそ王太子にと推す声が大きくなる。
という訳で、第三王子を無能と貶め、その王子を救い出した英雄と、少しでも己の株を上げようという姑息な策となった。おかげで、オーサガ王子はすぐには殺されなかったという。
もっとも、カンイチらが来ねば、その通りになる確率は大だ。結果が全てだから。オーサガが自害したところで大して変わらないだろう。
因みに、王の子は5人。
第二王子、第三王子、姫が二人。これは第二夫人の腹だ。
第一王子は第一夫人や夫人の母(祖母に当たる。公爵家)に甘やかされて育ち、少々歪んでしまった。性格は残忍。力無いものにはとことん歪んだ感情をぶつける。その様子も知れているので真に支持する者は少ない。夫人の出自の公爵家の寄り家の連中にしろそうだ。美しい娘がいる家など何時、嫁にと声がかかるのかと、冷や冷やものだ。
……
「……ふぅん。お貴族様も大変じゃのぉ。オーサガ君」
別に内情など知りたくはなかったが、これからしばらく行動を共にするからと。打ち明けられる
「父王がさっさと王太子を決めないから悪い。どう考えても次期王は俺しか居なかろうに」
「ほっほっほ。大した自信じゃな」
「父王も平和ボケした日和った愚王だからなぁ。どうせ二番目の兄貴が良いんだろう? 似た性格だからなぁ。まぁ、父王も王になる気は無かったようだがね。若い時に伯父、兄にあたる王太子が亡くなって。それで急遽教育されたから仕方がないのだけれどもね」
「うん? 恐ろしい爺さんは? 先代か?」
「いや、母上の親父だ。基本、王に引退はないからな。死んだら引退だ。カンイチさん。で、爺さんは公爵家で代々、武門の家。先代の大将軍だな。だから、厳しく、おっかない。俺たちの(王子たちの)剣術の指南でもある」
「なるほどのぉ」
「で、オーサガさん、第一王子が軍を掌握してオーサガさんを迎討つとかは?」
「ないない。イザーク。アレにそこまで頭が回らんだろう。それに王でも、王太子でもなしに、この短期間で軍を掌握し動かせる統率力、カリスマが奴にあるのならば、大した王になろうさ。俺が身を引くわ。精々、『この交渉、私にお任せください! 可愛い弟を必ず救い出します!』 なんて言ってるだろうさ。『私の交渉で身代金が半額に!』 とか? くっくっく。そんなに安くはないけどな! 俺は!」
怒りを思い出したか、拳を上げ吠えるオーサガ王子
「落ち着け、オーサガ君。気持ちはわからんでもないがの。くくく」
「本当にわかってる? カンイチさん!」
「まぁ、カンイチさんだしぃ……」
「で、カンイチさん、この後は地上に?」
「おうん? いや、せっかくじゃから、このダンジョンに巣くう二つの盗賊団を殲滅してからの」
「は……殲滅……? ダンジョン賊を?」
「うむ。ガハルトらもやる気だで。お宝もガッポリと貰えように?」
「は、ははは……」
「オーサガ様、この陣容であれば。襲うのであれば大人数で囲み一気に……が、ここはダンジョン内。それほど広い場所はそうそうないでしょう。この狭い通路の戦闘となれば多勢も無意味」
「うむ。それに何も襲われるのを待つこともあるまいて。こちらから出向こうという訳じゃ。大体の場所もわかっとるでな」
「……ふ、ふふふ。こうまで違うものか? シバス? 俺たちはびくびく怯えながら下りて来たのだが?」
「私からは何とも……」
「ま、ガハルトらがやるで後ろで見てればいいで」
「は、はぁ……」
……
警戒しながら進むカンイチ。いまのところは不審な者との遭遇はない。オーサガたちも庶民の恰好。そうそう王子とは気づかれることも無いだろう。
22階からはゾンビ。23階からはスライム(緑)が混ざる。
「ほう。確かに匂いは無いの。が、見ていて気持ちの良いものではないわなぁ」
これがゾンビを見たカンイチの第一声。
よろよろとよろけながらもカンイチ達に掴みかかろうと力なく伸ばされる腕。そして生者に向ける濁った瞳。一体一体、造形がちがうようだ。男もいれば女型もいる。損傷具合もまたそれぞれ
「そりゃぁ、俺たちと同じ姿だしなぁ。げ? あれなんか内臓出てるぞ……。細かいな。必要あるか?」
「言わないでください! オーサガさん! おぇ」
少なくともイザークには効果があるようだ。
「それにしても、クマ達、強いな。可愛いし。俺も狼、飼うかな……」
いずれも、クマ達に難なく討伐――というよりも喰われていく。
『うむ? そうだ。イザーク、貴様も加わるといい』
「は、はいぃ? 俺ぇ? べ、別に?」
『うん? 腐れた同族の姿、精神の修行にももってこいだろう。……いけ』
フジの非道な命令が下される。
「ひ!」
「おい……」
『ん? お爺も行くか? 件のアーティファクトは封印ぞ?』
「……」
『渋い顔をするな。これもイザークのためぞ?』
そっとイザーク君の背を押すカンイチ。
「な! カ、カンイチさん?!」
「イザークを生贄にしたな。カンイチさん……」
「ええ、王子……」
……
その後はクマ達にイザークも混ざる。イザークも機械的にゾンビを屠っていく。
「ゾンビと同じ目じゃのぉ。イザーク君」
と、カンイチがぼそりと。
「恨みますよぉ……カンイチさん! ぅおおおおぉ!」
雄たけびを上げてゾンビの群れに突貫していくイザーク君
「は! やるもんだ! その調子だ! イザーク! くっくっく」(ガハルト
「頑張れ! イザーク君! 帰ってきたら”洗浄”かけたげよう! 気分的に?」(アールカエフ)
「いけ! そこだ! イザーク!」(ミスリール)
「おいおい。怪我するぞ……」(ディアン)
やんややんやとはやし立てるチームの面々。イザークもまた対人技と精神力が向上したことだろう。
「イザーク……。普通死んじまうぞ?」
「ええ……オーサガ様……」




