ほう? 新入りか? (次の目的地は?)
……
「はぁ? 今度はメヌーケイだってぇ? どうしてそうなったのさ? カンイチ!」
休憩用の馬車からひょっこり顔を出すアールカエフの顔を見て大いに驚く王子。その場に跪く。シバスもまた主に倣い跪く
「うん? 送り届けるまでじゃぞ? したら、帰って来て、またダンジョンじゃ」
「まぁ、ダンジョンには数年居るとは覚悟してたけどぉ? メヌーケイ?」
要領を得ず唖然とするアールカエフ
「ア、アールカエフ様でしょうか。私はメヌーケイ国、第三王子、オーサガ=パーチ=メヌケと、申します。お初にお目にかかります」
「うん? メヌーケイ国の王子? ? どゆこと? 説明求む! カンイチ!」
「うむ。もちろんだ。イザーク君もミスリールも聞いてくれ」
……
牢での経緯を外で待っていたメンバーに報告。そして、オーサガ王子を助け、メヌーケイまで送り届けると。
「……なるほどねぇ。どうせ、戦闘狂の脳筋の頭の中だ。『こりゃ、面白そうだ!』 って事かいな? おまけにメヌーケイは農業大国だしぃ?」
「「「……」」」
まったくの反論ができないガハルト、ダイインドゥ、カンイチ。
イザークは笑いをこらえる。
「ま、良いんじゃない? 王子君! 成功の暁にはガッポリ褒美頂戴ね!」
「は、ははぁ――! アルカエフ様! もしよろしければ我が国に……」
「ははは! ダメだよ? 勧誘は? 僕たちはぐるっと世界を見て回るんだ。ねぇ、カンイチ」
「……まぁの」
この男が王となった国。畑がもらえるならここでも良いか……と、思い始めていたカンイチ。
「『畑がもらえるならここでも良いか……』って、思ってるだろ! カンイチ!」
「お、い、いや? 見て回ろう。折角だしの?」
内心舌を巻くカンイチ、何故にわかったのかと。
カンイチの考えなぞ、アールカエフは全てお見通しだ。
「で、そっちの騎士君は十分に信用に値するのかい?」
「はっ、アールカエフ様。このシバス。私が幼き頃から護衛として常に一緒に」
「そう。君も裏切っちゃだめだよ」
「はっ――! 私の忠誠はオーサガ様にのみ捧げられるものにございます」
「うん。その誓い忘れないようにね。騎士君」
「はっ――!」
……
アールカエフとの会見を終えた王子と、騎士
「まさかこんなところで騎士の誓いを立てさせられるとは思わなかったろ? シバス?」
「いえ、私の主君はオーサガ様のみ。見届け人がアールカエフ様。これ以上の誉れもありますまい。それに、あのままであれば私は恐らく近日中に殺されていたでしょう」
「そうだな」
「新たな生を授かったとおもって、心機一転! これからはヒラキなぞにいいようにさせませぬ!」
「おう。頼む。シバス。……友よ」
「はっ!」
……
木箱に入ったマジックバッグの一つ、それが、メヌーケイ王国、王家の紋章の入った物だった
「どれ、中身は……さすがに空か……」
「服はわしのでよければ……小さいか」
「俺ので良かったら、オーサガ様」
服の予備を並べてみる。カンイチのは少々小さいようだ。シバスも賊の装備を適当に見繕っている。
「ん? イザーク殿、暫く仲間だ。そうだ、イザークと呼ばせてもらおう! カンイチもな! 俺の事もオーサガ、呼び捨てでいいぞ! 年も近いしな、そうしよう!」
「は? 無理ですって! 王子様でしょ? オーサガ様は」
「はぁ? 無理ではないぞ! イザーク! 見よ! この恰好を! 囚人と大差なかろう! こんなボロ。王子に見えるか?」
「い、いえ? ですがなんかこう? 謎の威圧が?」
「俺は魔物じゃないぞ! イザーク! なぁカンイチよ!」
「うん? 王子様がそれが良いというんじゃ。オーサガ君でよかろうが? イザーク君」
「はぁ? カンイチさん? いいんです?」
「おい、イザーク。俺云々よりもカンイチ……さんの方がずっと変だぞ? この中でも一番、年下だろ? 何でだ?」
おもわず、イザーク同様、”さん”を付けてしまうオーサガ王子
「さぁ? 何ででしょう。は、ははは……」
「そうかの?」
と、首をかしげるカンイチ。カンイチとしては上手く、若く立ち回ってるつもりだ。爺言葉全開だが。
「なんか、うちの爺様と話してるようだわ……恐ろしく怖いジジィでな。馬鹿兄貴なんか、最近まで小便漏らすくらいにな」
「そ、それ、凄いですね……ウチの爺さんは孫には優しかったなぁ。恐ろしく畑を耕すのが速かったっけ」
「ほう。イザークは農家の出か?」
「ええ」
……
「この、”ふんどし”とやらは、中々のものだな! イザーク!」
「ええ。一回使うとね。丁度よかった。新品仕入れた後で」
「じゃな。王子様にヨレヨレの褌、締めさせるわけにはいかんでなぁ」
「運が良かったか? はっはっは! が、こう、ギュッと気が引き締まるな! カンイチさん!」
「判るか! オーサガ君! さすがじゃな!」
「ええ? 本当です? オーサガさん? カンイチさんみたいだな……」
わいのわいのと学生のように盛り上がるカンイチ達と王子。
そんな様子を離れて見守るガハルト達。
「……いいのか? あれ。シバス殿?」
「ええ。オーサガ様のあんな顔、一回も見たことありません。しかし……何モノです? カンイチ殿は? イザーク殿は極普通とわかりますが……」
「少々、爺臭い、人族の青年だが? イザークには言うなよ? むくれる。くっくっく」
「そうでしょうか?」
「ま、しばらく一緒だ。見るといいさ」
「はい」
そして食事時に
『ほう? 新入りか?』
「フジ……」
目玉が落ちそうなくらい見開く王子様と、お付きの騎士。
そう、フェンリルのフジだ。群れのボスに挨拶無しはなかろうと。
「喋った? ……いや、念話か? ま、魔獣殿?」
『良かろうが、しばらく一緒だろう? 我はフジという。よろしく頼むぞ』
「は、はい。魔獣 『フジだ』 フジ殿、私はオーサガ、この者はシバスしばらく世話になります」
『うむ。裏切るなよ。我らも信には信を以て。不義には不義を以て応える』
「はっ! 肝に銘じます」
『うむ』
「うむ。じゃぁなかろうに、フジ」
『最初が肝心なのだ! お爺ぃ! 食ったら、狩りに出る! 付き合え! イザーク!』
「了解です。フジ様。俺にも少し回してください」
『うむ! その心意気やよし! 存分に鍛えてやる!』
「イザーク君も程々にのぉ」
……




