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二(かんいち)爺ちゃん、異世界へ!(仮)  作者: ぷりぷり星人
フィヤマの日々
36/520

魔導コンロ

 ……

 

 その後、アールカエフに請われ、結構ガッツリ商品ガラクタの整理を手伝わされたカンイチ。そのままクマたちの散歩と食事を兼ねて東門へ向かう。

 

 「本物だな……」

 銀色の身分証と、カンイチの顔を往ったり来たりする視線。成人したばかりの年で”銀”というのも特例中の特例だ。

 過去数例。そのほとんどが、どこかの王族様の子弟が己の箔付けに”銀”のランクを”高価購入”されたとか。

 「隊長! ほら、ハンス総括の言っていた……」

 「あ? ああ。アレか。別にジジィ臭くないぞ? 気を付けてなぁ」

  自分に対する識別が”爺臭い小僧”という事に驚くカンイチ。今更だが。

 そんなやり取りをして門外に。クマたちを連れて。

 クマたちがカンイチの足に身をこすりつける。そう慰めるように…

 「大丈夫じゃ。クマ、ハナ。ワシ、爺じゃもの……」

 ”くぅん……”


 手綱をつけたまま畑に。確かに畑専用の出入口と言ってもいい東門。

 出てすぐ、カンイチの視界に真っ青な菜っ葉畑が広がる。区画ごとに区切り、時期をずらして栽培しているようだ。背の低い所、収穫している所。種をまいてる所と。

 青々と茂る菜っ葉を羨ましそうに眺めるカンイチ。

 ワシならもっと、畝を……。もっと深く耕して……。草、引いて……と、頭の中で畑を耕す。

 「…早く畑が欲しいのぉ……。小さくともええで」

 ”くぅ~ん……”

 「そ、そうじゃったな。行くかのぉ」

 

 視点を菜っ葉から畑の周辺に向ける。周りの土手のみならず、畑の中にも所々に兎の巣穴が空いている。この辺りも食害が酷かろうと当たりをつける。

 丁度、菜っ葉の収穫作業をしていた農民たちが居たので声を掛ける。

 

 「あのぉ。ここらの野兎とってもいいでしょうか。犬放つんで少々荒らしちゃいますけど」

 「お! 依頼で来てくれたのかい?」

 農作業をしていた、カンイチ憧れの農民の方々の表情もパァと明るくなる。

 「ううん? 冒険者さんかい? ちいせぇのに狼使いかい?」

 「いえ、依頼ではなく家の犬の餌にと」

 「……犬かい? あれ」

 「ほ~~ん。そいつは助かるが……」

 農家の視線の先。大人しくちょこんとお座りをしている二頭のハスキー、が、ボリュームが大きい

 「はて? また大きくなったかの?」

 野性味が増して迫力が増したかとも思ったが、どうも実際に大きくなっているようだ。

 

 ――この世界の物、食ってるせいかのぉ、食う量も増えたし。ま、元気でよかろう。

 と納得。

 「それで……。良いでしょうか?」

 「あ、ああ、こっちからいう事はねぇ! 助かるわ」

 

 許可を得てからクマ、ハナを放つ。

 最初、クマたちを恐れていた農民も怨敵の野兎共を次々と退治する様を見て安心したようだ。何せ、その場で貪り食うのでなく、仕留めては主の下に持って行くのだから。


 カンイチも畑の隅に許可を取って穴を掘り、黙々と兎をさばいていく。

 ここの野兎はふてぶてしく、余程近づかないと逃げない。人しか天敵がいないからか、人の速度に合わせてか少々メタボだ。言い変えるなら脂が良く乗っており、食べごろだ。

 そんなデブ兎、弾丸のように駆け抜けるクマたちにとっては、置いてある”ぬいぐるみ”のような物。次々と狩られていく。

 

 クマたちも野生を思い出しているのか、手を変え品を変え――狩り方を変えて次々と兎を狩っていく。追い込んだり、あえて逃げ道を作ったり、ぎりぎりまでにじり寄ったりと。

 あっという間にカンイチの足元には、こんもりと野兎の山が出来ていた。

 

 「ふぅ……。ずいぶんとまぁ、張り切ったもんじゃの。こんなに剥けんぞ……クマよ」

 とりあえず剥いたものを犬たちに食わせる。餌用と購入した木皿は今は水用にしている。バッグから出し、水筒の水を張る。

 一段落ついたのだろうと農民も集まってきた。

 「すげぇなぁ。あっというまにここいらの兎がいなくなっちまったぞ」

 「ああ。依頼じゃないって言ってたなぁ。そうだ! 代わりといっちゃなんだが、菜っ葉もってけ!」

 「おう! そうしろ、そうしろ!」

 結構な量の野菜を縄で括り、持ってくる農民たち。

 「ありがとうございます。捌くの疲れたから残りの兎、皆さんでどうぞ。憎き敵、食べちゃってください」

 剥いた残りの兎は麻袋に詰め。剝いていない兎を農民たちにお裾分け。

 「おお! そいつはありがたい!」

 「いただくよ!」

 「ここらのは頭が良くてなぁ。罠にもかからんのよ」

 「この! ワシ等の野菜喰ってよく脂がのってるじゃないか!」

 「おお! 憎たらしいの!」

 「焼いて食っちまおう!」

 「おお!」

 農民たちからも歓声が上がる。憎き相手、そして何より、久々の御馳走だ。

 

 その様子を見てカンイチも満更じゃない。カンイチ自身も猪やら鹿にはほとほと手を焼いたものだ。

 そして野兎を狩ったクマたちも心なしか誇らしげだ。

 

 「一つ。皆さんで犬とか狼は飼われないんですか?」

 そんな農民たちを見て疑問を投げかける。自分らでどうにかできるのではと。

 「それなぁ……」

 「普通の犬じゃ大して役に立たんしのぉ。ほれ、猪も出るでぇ」

 「ああ、大きい犬だと町への申請も面倒だし、金もなぁ。それに、”動物使い”の技能さないとなぁ」

 「人さ嚙んだら、えれぇ事になるしなぁ」

 「だなぁ。死者が出ようものなら死刑にも。万が一お貴族様に吠え掛かったりしたら……」

 「領主様が兄さんみたいな狼使い、常時雇用してくれりゃいいんじゃがなぁ……」

 

 ――なるほど、話をまとめると、大きな犬、この世界では狼に近しいものになるようだの。それを操るには技能がいると。確かに他人に危害を加えたらその代価は計り知れないのぉ。かといって、ペットの犬では十全な働きは出来ないじゃろうの。何ともかゆい所に手の届かない状況じゃな。

 本当に背がムズムズするわい。これもすべては治める地主、領主の責じゃ。最初から木の柵やらの防御手段を講じ、常時補修をしていけばいいのじゃ。一遍にやろうとするから大金がかかるんじゃ。収穫量もぐっと上がるじゃろうに?

 と、独り言をブツブツ……

 

 「ま、良かったらまた来てくれよ。兄ちゃん!」

 「ええ。また寄らせていただきますよ」

 なんだかんだ言っても、クマたちの大量の食料が近場で獲れるのだ。丁度いい餌場だ。

 

 「まぁ、この際じゃし。大いに利用させてもらおうかの。のぉ?」

 ”ぅおん!”

 

 宿舎の女将さんに野兎を供出したところ、今日の野兎は明日の夕食のシチューになるそうだ。楽しみである。

 貰った野菜も軽く茹でてもらい好物の”おひたし”に。洒落た言い方だと温野菜のサラダになるのだろうか。どのみち、寄生虫の予防のために生で食べることは無い。大抵は軽く茹でて、柑橘を絞って食べるのがここら辺の流儀のようだ。

 料理も肉がメインなので、カンイチにしたら菜っ葉のおひたしはこれ以上ないご馳走だ。今度、菜っ葉の炒め物にしてもらおうと。台所がつかえれば……。ま、居候の分際でと遠慮するカンイチであった。

 ……

 

 夜…


 就寝前のお楽しみ、早速と飲酒をしようという訳だ。

 地球の最新の機械にはついて行けないが、このコンロは魔力の入れ方、スイッチのオンオフしかないからカンイチでも大丈夫。

 ”かちり!”

 と、スイッチオン! 金属製のポットに水を入れ経過を見守る。

 

 「しかし、本当にこれで湯が沸くのかのぉ、俄かには信じられんわい」

 火も出ず、燃料と言うべきものは己の指先から出た”魔力”という、全く馴染みのないものだ。そんなもので本当に? 疑問がぬぐえない。

 

 しばらく見てると……

 ”こ、こここ……”

 と、小刻みにポットが震え、一息にポットの蓋が飛びそうなくらいの蒸気が吹き上がる。よく見ると、ポットの底の方が赤く光っている

 

 「うぉおお? おお! いやに急じゃな! こ、こりゃ、ポットの底が溶けそうじゃ!」

 慌ててスイッチを切る。

 これでお湯割り用のお湯に不自由はしないだろう。

 「うむ。うん。確かにお湯……じゃな。こんなもんでのぉ。が、沸騰する手前が良いのじゃがのぉ……」

 陶器のコップに蒸留酒、お湯を注ぎ立ち上がる香りを楽しむ。

 「ふぅ。しかし面白いのぉ。この湯を沸かしたのはワシの魔力とかじゃったか? 燃料は。ずいぶんとまぁエコじゃのぉ。この世界は」

 この日は、そば焼酎に似た蒸留酒のお湯割りを楽しみ、ご満悦のカンイチであった。

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[一言] 「お! 依頼で来てくれたのかい?」「ううん? 冒険者? ちいせぇのに? 狼使いかい!」「いえ、依頼ではなく家の犬の餌に」 ウサギ狩の依頼を受けた人が困らないのかな。タダと言うのは、自分は良…
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