これもイザークのためぞ! (獲物の行方)
……
8日目 地下15階
『ふぅむ。中々良い動きだな』
ゴーレムの大きな右腕が肩口から――喰いちぎられる。
そう、ゴーレムの相手をしているのは、ハナとシロ。二頭が代わる代わる、絶え間なく攻撃を加えていく
そして、両手を床に突き項垂れるガハルト。それを気の毒そうに見つめるクマ。コイン・トスの勝者はフジ
食いちぎられた部位もまた、吸われるようにハナの口へと消えていく。
『ふむ。重鈍。そろそろよかろう?』
フジをちらりと見て再び、ゴーレムに突っ込んでいくハナと、シロ
「ふぅむ。……自己修復が始まらん。喰われたせいかの? だとしたら面白いの」
と、唸るダイインドゥ
「親方、それは?」
「ほれ、一見、土で出来ていよう? 腕位ならすぐにでも生えて来るもんじゃがな。一向に修復が始まらん」
”ぐるるるるぅぅぅ……”
それぞれが足の脛に食らいつき、ゴーレムの重量などお構いなしにすくい倒す!
”どさ”
さらに首をぶんぶん振り、足をもぎ取る。消える足。そして貪るようにゴーレムに食らいつく、ハナとシロ。右腕も食いちぎられる
「本来であれば急所、コアを突くのじゃが……まさに、喰らっておるのぉ」
”がふがふ”と、貪り食う、ハナ、シロ。二頭の内いずれかの牙が急所に届いたのか溶けるように消えるゴーレム
「いやはや。なんとも。本当に喰ろうているのじゃな」
驚きを禁じ得ないダイインドゥ
「そうみたいね。これって当たり前の事なのかな? クマ達が特別? 大神様の加護? いや、ここはフジ殿の加護か?」
『己の意気であろう? 格を上げるという。向上心の賜物であろうよ!』
「そういったもの? まさかの気合? 精神論?」
『うむ! 仔を生すためになぁ!』
「本当かよ。フジよ。まぁ、本能と言えば本能じゃがの。ほれ、何時までもいじけていないで、行くぞ。ガハルトよ。次があろうよ」
「……おう……」
……
ゴーレム戦を終えて
「しかし、ゴーレムかのぉ。土で出来ておるのじゃろ? あれに種まけば野菜とれるかの?」
「カンイチさん……」
「なるほど。『動く鉱床」ならず、『動く畑』だね。カンイチらしいっちゃ、らしいけど?」
「うむ? いや、面白いかもしれんぞ。兎に齧られることもあるまいに? アール殿」
「ん? なるほど? 魔法で動くのだから魔力も豊富? 生育も良いかも? ……面白いねぇ! 日当たりも自由自在だな! ははは! 面白い! 真面目に研究してみるか……ゴーレム農業?」
「しかし、親方よ。食って消える……再生も始まらんということは、ミスリルやら金のゴーレムでも同じか?」
「ふむ。確かにのぉ。ガハルト殿の心配ももっともじゃな。ドロップが落ちない可能性もある……の。その辺りの検証も必要になってこよう?」
『土と金属の違い……そういったものらは、魔素が濃いのであろうか? 楽しみであるな』
”わおん!”
「ま、出来たら、金やミスリルなんぞはこっちに回してくれるとええがの。良い武具になるでな」
『ふむ……』
「お願いします、フジ様!」
必死に乞うガハルト
『その時になったらな。なぁに、貴様がコインの裏表を当てれば問題なかろう?」
「つ、つぎは負けませぬぞ!」
……
9日目 地下16階
「うん? あれは?」
前方にゴブリンによく似た二本足で立つ魔物が現れた
「ああ、青ゴブリンだな。うん? ありゃ、指導種か?」
その後ろに成人男性くらいの大きさの、これまた、青い皮膚をした人型の魔物。やせぎすのゴブリンに比べ、ふっくらとしている。大きな鼻、口。小さい目。やたらと狭い額。頭頂も膨らみが無い。脳の容積も少ないだろう。よって頭はあまり良さそうには見えない。
「うむ。ホブゴブリンじゃな。陰湿で残忍な魔物と聞く」
「陰湿で残忍? 地上にも居るのだよなぁ、親方?」
と、カンイチ。
「うむ。もちろんじゃ。人を攫う魔物じゃの。厄介なことに、他種族でも孕ませるで」
「……」
何とも言えない顔になる。あんな醜いものと? 人を孕ませる? その生まれてくるモノは?
「ああ、女は苗床、男は食料だな。顔の皮を剥いで鞣して集めるとも言うな。ある意味、オークより始末が悪い。弱っちいくせにな。強いものには媚び、弱いものには威張りくさる、屑貴族のような奴だな」
と、ディアン。
「どうする? 師匠? 撃ち殺す?」
『ここは我らが当たろう! いくぞ!』
”ぅおん!”
「あ、フジ! ……後で、ちゃんと言い聞かせるで……の。ガハルト。順番にしてもらおうのぉ」
「……ああ」
さすがに、意気消沈しているガハルトを見ると声をかけずにはいられないカンイチだった。
その後、戦闘については一応は交代という事でおちつく。偶にミスリールがアーバレストの試射の為に参加する。他の連中はその戦闘を見物しながら進む。ガハルトにせよ、クマ達にせよ、まして遠距離攻撃のミスリール。まったく危なげなく屠っていく。他のチームはいかに戦闘を避け、怪我をせぬようにと気を遣うのだが
ドロップについては、ゴブリンがなぜかヤクソウ一束。ホブゴブリンは睾丸。睾丸については放置、道に打ち捨てていくこととした。
休憩中もフジがクマ達とイザークを伴い狩に出る。イザークは他の冒険者に対する建前『狼使い』として。そう案山子である。
ガハルトを連れて行って一緒に狩をすればよかろうと思うカンイチだったが、後に、狩に行くのに背にイザークを乗せて遠征をしてることが判明する。
イザークの証言によると恐ろしい速さで疾走し、しかも、走りながら、すれ違いざまに屠るという。
道理で魔物との遭遇率が低い訳だと皆納得。ガハルトだけが納得いかない顔をしていたが。
そして、第二のボス部屋、20階へと至る
11日目 地下20階 ボス部屋
「いよいよ、ボス部屋じゃな! さすがに、ここまで来ると行列は無いのぉ!」
「ああ、腕があっても、そこそこ大きなマジックバッグが無いとここまで来れないからな。ということは、ここから賊の姿もちょこちょこ見ることになるだろう」
「なるほどの。戦利品にマジックバッグ確定! という訳じゃな?」
「そういうこった。くっくっく……。楽しみだな!」
「……そうです?」
「うん? イザークよ! こっちもマジックバッグ大量に得るチャンスだぞ!」
「まぁ、そうですけどぉ? ここに巣くってるということはそれなりに強いんじゃないですか?」
「どうかな? 強ければ真っ当に生きてるだろう? 群れなきゃ何もできない屑共だろう!」
「ああ! ガハルト殿の言う通りだ! 皆、ぶった切ってお宝頂こう!」
「おう! ディアン殿!」
「まぁ、警戒は怠らずに行くとしよう。のぉ、イザーク君?」
「そうですね、カンイチさん。でも、20階……かぁ。やっぱりすごいな……皆さん」
「うん……そういえば、イザーク君にも回さにゃいかんかったな。すまん」
「い、いえ? 別に?」
『うむ。失念していたわ。ここにも鍛えねばならぬ者が居たことを』
のそりと現れたフジ。カンイチの後ろで聞き耳を立てていたらしい
「え?」
『我も群の頭としてはまだまだだな。よし! 次のボスはイザーク、貴様がかたずけろ!』
「は、はいぃ!? フジ様?!」
『見ているだけではつまらなかっただろう。気が付かなくてすまなかったな。我も反省しておる。許せ! イザーク!』
「は、はひぃ?」
「おいおい、フジよ……」
『なぁに、調整は此方で請けよう! 存分に腕を磨くと良い!』
救いを求める目をカンイチに向けるイザーク
「なぁ、フジよ?」
『問題ない! お爺! これもイザークのためぞ!』
「ぬ!」
そっと、イザーク君の背を押すカンイチ
「カ、カンイチさん?」
”がこぉん……”
ボス部屋の両開きの門が開く




