理は我にあり! (ゴーレム遭遇)
……
8日目 地下15階
「ふむ。だいぶ周りの人も減って来たのぉ」
格段に人の数が減って来た。少し前は前方を征くパーティの背が見えるくらいだったが。
「ああ、そろそろ、ここらには”収納”やら、マジックバッグ持ちじゃないとこれぬ階層だろうよ。何せ、水がなぁ」
と、前の薄暗い通路に目を光らせるガハルト。が、クマ、ハナらが反応していない。安全なのだろう。
「そうですよね。必ず必要ですし、重いし。ウチはカンイチさんとアール様が恐ろしい量持ってるようですけどぉ」
「……ああ。ダンジョン内で風呂に入るなんて、俺ら冒険者の事を馬鹿にしてるものな」
「ええ……」
そう、先の野営時に風呂を沸かして入ったカンイチ。このダンジョン内、どれだけ水が貴重な事か。
”収納”持ち、しかも神の御加護の”収納”だ。いくらでも運搬は可能だ。
「そんなこと無いわい! そういうイザーク君だってわしの後に入ったじゃろうが!」
「そ、そりゃぁ、沸かしたら? 汗流したいですし?」
『うむ。風呂は良い。時、処、選ばずな……』
「うむ! だろう! フジよ!」
この辺りの相性は抜群のカンイチとフジ。モフモフとフジの首を撫でる
「フジ殿の風呂好きもカンイチのせいだな! っと、この辺り、随分と草が目立つね?」
「ええ、アール様。一応、姿はラクジツソウという毒草なんですが……要ります?」
「うん? これがラクジツソウ? はて? 色が違うけど?」
「ええ、たぶん? 売ってるの赤ですけど……恐らくこいつも……」
イザークが草にナイフを入れて収穫すると、数本まとまった、切りそろえられた状態の物になる。所謂、ドロップ品。葉の色もアールカエフの言う通り鮮やかな赤に。
「ややや!? こりゃ、驚いた! さすが! イザーク君! ポーションの材料になるから少しとって行こう!」
「へぇ? そうなんですか? ギルドじゃ、煮だして煮詰めて、矢毒にすると聞きましたが」
「ふふふ。毒も使いようさ。少量なら薬にもなる。ま、僕くらいじゃないとうまく扱えず、コロッと逝っちゃうだろうけど?」
「バリバリ君にも入っています?」
「うん? ちょこっとね! さぁ! 収穫だ! イザーク君!」
「了解!」
「うん? イザーク君。あの天井に生えてるのはなんじゃ?」
と、今度はカンイチ。天井から暖簾のようにワサワサと草が生えている
「え? 天井? ほ、本当だ。確か、ムラサキショウブですね。ほら、蒸し風呂屋に置いてある、清涼感のある香りの。地上でもアカリノ、フィヤマ辺りじゃ珍しくない草ですよ。ましてはダンジョン。持てる荷物の量にも制限有りますし、誰も取らないのでしょう」
「確かになぁ。嵩張るわな草は。それよりも金目の物……だな」
「うんむ! フジよ! 次はショウブ湯じゃ!」
『うん? しょうぶゆ? なんだそれは? お爺?』
「あの草を風呂に入れればまた違った趣向が味わえるぞ!』
『ん? 風呂に……か? ふむ。どれ!』
「また風呂かい? カンイチ……わ、わわわ!」
”どさささささささ……”
「おぶぅぅい!」
フジが天井に向けて”飛爪”を放ったのだろう。ドロップ品。束にまとめられたムラサキショウブが、アールカエフとイザークに降り積もる
「だ、大丈夫か? アール?」
「お、おう。乾燥してるから平気。それに埋まるのは慣れっこ……。おふぅ……。いい匂いだねぇ、これ!」
「どれ……うむ! 次の風呂が楽しみじゃな!」
『うむ! 早速今晩、入るとするか!』
「そ、そんな事より、た、助けてぇ……」
そのムラサキショウブの束に埋もれているイザーク。手だけが出ている
「お、おう? すまん、イザーク君」
他にもポーションに使う、その名もヤクソウ。まんま、薬草だ。そのまま齧っても腹痛の薬になる。冒険者ギルドでも中堅クラスの常設依頼で年中品薄だ。このダンジョンでも浅い階層であれば専門に採取している者もいるだろう。が、どうしても、総荷物量というのが限られている。こういったものは誰も採らずにそのままになっている。このチームには大容量、無制限の”収納”持ちがいるから関係ない。そういった植物もいずれ役に立とうと、片っ端に採取しながら進む。なにせ、ダンジョンのドロップ。商品のように加工も完璧だ。
「ん? とまれ! ……前の方が騒がしいな……」
と、手で停止のサインを出すガハルト。その、耳がぴくぴくと音を拾う。
「ほぅ? ほれ、ダンジョン賊というのが出たかの?」
「ふむ。行ってみるか!」
進もうとしたまさにその時、前方から3人の冒険者が走って来る。武器を構えるカンイチ達。
「ま、まて! まってくれ! 前にゴーレムだ!」
「イレギュラー湧きの! あんたらも逃げろぉ!」
武器を仕舞い両手を上げ叫ぶ冒険者達。チームだろう。チラチラと後ろを見ながら。
「イレギュラーのゴーレムだと!? で、逃げ遅れたものは?」
と、ガハルトが訊ねる。
「無し、いない! 俺達、3人チームだ!」
後方を振り返りながら応じる3人の冒険者たち。未だその姿はない。
「わかった! 行くといい! 俺が一当てしてみる!」
「そ、そうか? 気を付けろよ!」
カンイチ達のわきを逃げ去る三人の冒険者。
「さて、ごーれむ? なんじゃそれは?」
「ほっほ。そうさなぁ。土やら、石、金属でできてる動く人形じゃな。金属の物は『動く鉱脈』とも言われているのぉ」
「ほう? 地上にもいるのかの?」
「地上のは所謂、警備人形として存在しているの。昔のどこぞの王が富の象徴として金塊で大きな人形をこさえたとか? 今でも王の墓所を守っているといわれておるのぉ? 伝説じゃがな」
「よぉし!」
と、トンファーを構えるガハルト。今にも駆けだしそうだ
『まて。我らが行くが?』
と、フジが待ったをかける。
「な!?」
さすがのガハルトもトンファーを構えながら固まる。
前方の暗がりから重い足音が聞こえてくる。金属のような硬いものではないようだ
「そんな事より、き、来ましたよ! フジ様! ガハルトさん!」
前方の曲がり角から、ぬぅと顔を覗かせるゴーレム。顔といっても何も無いが。のっぺらぼう。
身長は通路、天井高ぎりぎりの3mくらい、横幅は2mと言ったところだ。通路では横をすり抜けるのは不可能だろう。
「うんむ? 大きいのぉ。ありゃぁ土くれかの? 並ゴーレムのようじゃな。通路で戦うは悪手か。カンイチよ、少し下がろうかの」
ダイインドゥの助言で撤退を開始する一行。撤退と言えど、逃げる気のないカンイチ達。ゴーレムを15㎡ほどの部屋に引き込む。
『土ぃ? それでは金にならんな? なぁ、お爺? なら我らの得物よな』
「ぐぅう!」
「しょうがない奴らじゃな……銀貨の表裏……どっちじゃ? こっちが表な」
細かい話だが、この世界、一番大きい硬貨が銀貨。金貨は勿体ないのでコイントスには適さない。そこら辺はしっかりしているカンイチだった。
『ふん。大神様もご覧になっておられる! 理は我にあり! 先に選ばせてやろう! ガハルトよ!』
「後悔しますぞ! フジ様ぁ! 俺に裏は無し! 表だぁ! カンイチぃ!」
『では我は裏だ! 大神様! ご照覧あれ!』
「おいおい……ま、恨みっこなしじゃぞ。”ティーーン!”」
カンイチが指ではじいた銀貨がくるくると宙で回る……。二頭の獣の視線を集めて。結果は……
……




