お腹減った…… (順番待ち……)
……
5日目 地下10階 ボス部屋・関所階層
階段を降りると、100㎡はあろう大きな部屋。そして、突き当りには祭壇のような壁。ゴブリンのような容姿の巨大な立像が向かい合っている。その装飾の中央に両開きの鉄の門扉があり、この扉が試練への入り口なのだろう。
その扉の前には人の数で40人程が既に並んでいた。
ガハルトの予測通り、順番待ちのようだ。その最後尾に並ぶ、カンイチ一行。
祭壇に灯る炎が並ぶ冒険者の顔を照らす。若い者は緊張し、ベテラン組は余裕すら見せる。
「ここは試練の間……武を示さねば先には行けぬ……かぁ! すごいな! すごい! 俺! ここにこれるなんて!」
っと、祭壇を見上げ興奮を隠せないイザーク。
「試練……かのぉ。人喰ってなんぼのダンジョン殿じゃろうに? 必要かの?」
と、冷ややかに答えるカンイチ。
「……たしかに。バンバン弱いのも入れた方が良いですものね……」
と、肩を落とすイザーク。
「ふん! そんな事。ボスは強い! よって良いものを落とす。宝箱がある場合もある! いい稼ぎポイントの何ものでもないだろうが!」
とは、ガハルトの意見。
「稼ぎポイント……」
イザーク君の中で『神聖なる試練』が、『稼ぎポイント』という俗なものへと変わった瞬間だった。
「なるほどの。その方がしっくりくるの。で、ガハルトはここに入ったことがあるのじゃろ? どんな塩梅じゃった?」
「確か……。数体のゴブリン……だったか? 指揮個体の青いのがいてな。ウザかったのを覚えている」
「ほ~~ん。で、扉が閉まっておるが、逃げられるのか?」
「聴いたところだと内側からなら開けて出られるとな。まだ10階、相手はゴブリンだ。どうという事もあるまいよ」
「ほ~~ん。で、帰りも試練とやらを受けるのかの?」
「いや、この階層はもうひとつ別のルートがあってな。お帰りはそちらだ。構造で逆行等のズルはできない仕組みになっている」
「ほう。一方通行か。面白いのぉ。親方の地図も?」
「うむ。そうなってるのぉ。謎が解けたわい。どうやったらそっちを通れるか考えていた処じゃ。この矢印はそういう事か。帰り通るのなら良いの」
『ふ~~ん。ゴブリン? 例の人型か? お爺、我らが当たる。いいな?』
「じゃと。ガハルト?」
「ええ、構いませんよ。確か抜ければゴブリンがしばらく続くかと」
『よし。では参るか』
と、歩き出すフジ。その首に腕を回し、カンイチが抑える
「おっと、順番じゃ、フジ。暫くかかろう。お主もゆっくり休むといい」
『ふむ? ……面倒な事よ。お爺、干し肉だ。例の熊のが良い』
……
「はぁ。まぁぁだぁ。カンイチぃ。飽きたぁ」
『お爺、未だか?』
と、アールカエフとフジから不満の声が上がる。が、こればかりは致仕方なし。
「順番じゃ。どうやら、一回当たりの戦闘に一時間位かかるようじゃなぁ……。次のボスとやらが湧くまでそれくらいの時間がかかるのじゃろうか?」
「まぁ、列も短い方だし……もうじきですよ。アール様、フジ様」
「何なら並んでいる連中を蹴散らして……冗談だよ? カンイチ?」
『我の殺気で追い散ら……戯言だ。お爺』
「おい」
……
「腹減ったなぁ……」
「ああ。イザーク、悪目立ちするから干し肉で我慢な。アール様……すいません」
「……”すぴぃ~~”」
「ん? 寝とるの。交代で仮眠を取るかの」
アールカエフはクマに抱き着いたまま夢の中。
『お爺。手が空いてるのならブラッシングだ』
「うむ。ええぞ。来い、フジ」
……
少しずつであるが順に列は短くなって行く。その度に前にずれていくのだが、寝たまま器用にクマに引っ付いてるアールカエフ。静々とクマに運搬されていく。
「だいぶ進んだの……。今のところ、試練失敗みたいのはいないのぉ」
カンイチ一行が並び始めてから、内側から開け、敗走してくるチームは今のところなし。イレギュラー湧きのスケルトンの時のように血まみれで運ばれてくるものも。
「どうかな。上手く扉を開けて逃げられなかったら死んじまってダンジョンに食われちまうからなぁ。開けたときに”動く死体”が居ないことを願おうか。ここに並んでる連中なら大丈夫とは思うがなぁ」
「なるほどのぉ」
と、前に並んでいるチームに目を向けるカンイチ。カンイチ一行が試練の間に入った時に”動く死体”になっているとすれば彼らだ。
「……カンイチさん。失礼ですって」
「……それもそうじゃな」
と、小声で話すカンイチとイザーク。
「俺達もそうならないようになぁ。くっくっく」
……
「お腹減った……」
と、アールカエフがむくりとおきる。抱き枕だったクマも身体を伸ばす。
「うん? よぉ寝とったの。アール。涎」
タオルで拭ってやる。
「おぅ。ありがと。カンイチ。うん? おおぉ! 次の次? だいぶ進んだねぇ……」
「悪目立ちするで、今は干し肉だけの」
「うん? 頂くよ……はぁふぅうぅぃぃ。水、水と……」
……
”ぎいぃぃ”
前のチームが試練の間に入ってから一時間たっただろうか、試練の門が軋んだ音をたて、次の挑戦者を招き入れるように開く。いよいよカンイチたちの番だ
「よし! 開いたな! お待たせしました! アール様! フジ様!」
「おう! やっとかい?! 待ち疲れたよぉ……はふぅいぃ~~」
『ふん! 勿体つけおって!』
クマ達も大きく伸びをし、戦闘準備に入る。
「やっとこワシらの番だの」
「ふぅ。待ち用の椅子が欲しいねぇアンタ。腰が痛い……」
「やっと先に進める! 気合い入れろよ! 母ちゃん!」
「は? フジ様が行くんだろうが。問題ないだろ?」
と、ドワーフ一家。
「よ、よし!」
「あんまり力むなよイザーク君」
「さ! 参りましょうぞ!」
……




