もう、僕、眠いのだけども? (ダンジョン・ボケ)
……
2日目 地下5階 日付をまたいで進行中。やっと、休憩所に適した小部屋がある5階に到着。
「ふぅ……」
”どさり”と腰を下ろすカンイチ。
「お! さすがのカンイチも疲れたか? くくく」
「肉体的というよりものぉ」
疲労困憊とまではいかずとも、渋い顔で周囲を見回すカンイチ。
「うむうむ。ここならルートから外れとるし、そうそう人も来ぬじゃろ。ゆっくりと休むといいだろうよ」
と、ダイインドゥ。目的の角の突き当りの部屋へと到着。流石にすべての宿泊馬車は出せないので女性陣用に一台だけ出す。男は床に雑魚寝だ。
「結構疲れましたね。アール様?」
「うん? そう? 初日故の気が張ってる状態でかい? 明日あたりきっと筋肉痛だぞ? バリバリ君呑んでおくかね?」
「い、いえ、逆に動けなくなっちゃうよう……な?」
「失敬だぞ? まぁ、いいや。そんなことよか僕はお腹が減ったよ。イザーク君! ご飯よろ!」
「割かし元気じゃの。アールよ」
「うん? 風が無いのも精神的に多少なりとも堪えるかもと思ったけど、なんとか? これなら耐えられそうだし? 大丈夫じゃない? と、いうことで、では諸君! ご飯が出来たら起してね!」
と、早々に馬車に潜り込むアールカエフ
「結局寝るんですね、アール様……ご飯の準備しよ」
「……すまんの。イザーク君」
「オレがやるよ。イザークも慣れないから疲れたろ? 十分休むといい」
「だね。ここはオレらに任しておけ!」
「あ、ありがとうございます。ディアンさん、ミスリールさん」
『ふむ。それでは、我らは狩に出かけるとしようか』
”ぅおん!”
「は? ゆっくりと休めばよかろうに、フジよ」
『少しも疲れておらぬわ。クマ達も回復済みだ』
”うおん!”
フジの言葉に応えるクマ。ハナ等も準備は整っているようだ。『いけ!』 の合図を待っているときのように。
「そうかよ……」
溜息付きながら渋々腰を上げるカンイチ。ダンジョン内と言えど、フジ達だけで行かせるわけにはいかないと。
ともなれば、一緒に行かねばと。万が一、魔物と間違えられて。いや、その前に『動く死体』が増えてしまうと。
「あ、師匠、ゆっくりしててよ! オレが行くよ!」
そんなカンイチを不憫に思ってか、料理に取り掛かっていたミスリールが声をかける。
「うん? ミスリール? お前さんも休むとええじゃろ?」
「オレたちドワーフはこういう狭いところやら暗いところには慣れっこだし? 全然疲れていないからね。問題無しだよ」
「おう。カンイチ。ここはミスリールに任せよ。ワシらは坑道は家みたいなもんじゃで。お前さんの方が不慣れじゃろ? まだ初日だしの。ゆっくり休むとええ」
「……なら、甘えさせてもらおうかの。よろしく頼む。ミスリール。フジもあまり無理は言うでないぞ。そうそう人噛んじゃ駄目じゃぞ。下に行くのも……」
『人など噛まんわ! 相変わらず細かいな。お爺は。安心し、そこで体を休めているといい。では参ろうか! ミスリールよ!』
「はいよぉ! じゃ、行ってくるね!」
駆けだすフジに続き、ミスリールも野営地を出ていく。
「飯までには帰って来いよ~~! ふぅ、やれやれじゃわい……」
「フジ様もいるから問題は無かろうさ」
……
暫くして
”ひたひたひたひた……”
「うん? 戻ったかの……ぅお!」
フジ達が戻って来たのかと、入口の方に目をやると
”がぅがう!”
胴の長い四つ足の茶色の獣が3匹! カンイチ達のすぐ近くに
「む! オオイヌか! そいつはダンジョンの魔物だ!」
「お、おうさ!」
目前に迫ったオオイヌを蹴り飛ばすカンイチ!
”ぎゃん!”
体積の割に軽く、蹴りで吹き飛び、そのまま溶けるように消える
「うぅん? 随分と弱い……の? こいつは」
「まぁ、まだ5階だしなぁ。少々気が抜けてたな。クマ達が出てるのだ。番立てねばなるまいな」
残りの2匹も既にガハルトに蹴り飛ばされたようだ。
「オオイヌかの。犬というより、動物園で見たヤブイヌに似てるの。これがドロップ? かの?」
カンイチの掌には一本の黒い爪のようなモノ……
「ヤブイヌ? オオイヌと呼ばれてるが。ま、イヌには変わらんだろうよ?」
「まぁの……」
……
ダンジョン魔物の襲撃もオオイヌのみ。フジ達も無事に、他所とのいざこざも無く戻り、食事。この場で一泊となる。
ダンジョンの環境に慣れないカンイチ、アールカエフ、イザークの為に少々長めに休憩とする。ずっと薄暗いダンジョン内。時差ボケならぬ、ダンジョン・ボケ。少しずつ慣らしていかなければならないのだが。
……
「うぅむぅ? 少々だるいが攻略を開始しようかの」
首やら、腰を回すカンイチ。何となく、節々が重い。筋肉痛はないが。イザークも同じようだ。
「ああ、無理すんなよ、カンイチ。体に異変があったらすぐに言えよ。イザークもな!」
「おう」
「はい、ガハルトさん」
「異変? そうねぇ。ガハルト君……もう、僕、眠いのだけども?」
こちらは、目をしぼしぼさせているアールカエフ。本当に眠そうだ。
「アールよ……散々寝ただろうに? しかも起きたばかりじゃろうに」
と、少々呆れてカンイチが声をかけるも、
「はぁあぁふぅうぃ……。ふぅ。エルフはお日様が昇って明るくなったら起きて、お日様が沈んで暗くなったら寝るもんだぞ? ここってば、ずっと暗いじゃん?」
と、大欠伸をしながら応えるアールカエフ
「ほうん?」
「そういう面もあるかもわからんの。エルフ殿は。木々と共に生きる種族だでなぁ」
「ああ、オレらドワーフは土の下、洞窟で暮らしてたから問題ないけどなぁ」
と、ドワーフ夫婦。
「ほぅ。エルフの種族特性とやらかの? ん? 肉食エルフも一緒かの?」
「はふぅぃ。ま、そんな感じ? そのうち慣れるでしょ? たぶん? 暗い森に棲む氏族もいるしぃ?」
「ふ~ん」
「カンイチぃ。僕を負ぶってくれてもいいんだよ?」
「……歩け」
『では、今日も張り切って行くか! お爺よ!』
「お前さんは元気だの……フジよ」
……
カンイチ達のダンジョンに対する順応を早めるために、休憩を多くとりながら進む。その際、襲い来るモンスターの悉くをクマ達が駆逐
そして7階へ。このフロアにはアルマジロの鎧をツチブタに着せたような、ヨロイイノシシが混ざる。動きは遅いが、その堅牢な鎧で攻撃を弾く。と、いうが、クマ達のタックルで転がされ、ひっくり返ったところ、首を噛まれて終了。その堅牢な鎧も只の枷にしかならないようだ
順調に進み、とうとう、5日目にしてボス部屋の10階へと到達した。




