アールカエフ
……
「どれどれ、っと、”魔導コンロ”ねぇ。……今は小さいのしかないなぁ。一口の……ポットの湯を沸かすくらいのしか。それでいい?」
ガラクタから発掘した店主と商談を始める。
「うん? 丁度いい。ポットで湯を沸かすのに使うのじゃからな。いくらじゃ?」
不思議そうな顔でカンイチの顔を見る店主。
「キミ、随分と若く見えるけど、お爺さん? エルフにゃ見えないけど……人族だよね? それと、ここ、変な店だけど、魔道具。そこそこするよ? お金あるの?」
「あ……。私は、カンイチと言います。これでも”銀”ランク? の冒険者……です」
今更ながらに若者言葉に矯正。本当に今更だが。
「ふ~ん。キミがねぇ。本当に中身は年寄?」
柔らかく笑い、妙に納得顔の店主。何かを感じ取ったのだろうか。
「そうかもしれませんね」
――妙な雰囲気の御仁じゃなぁ。他種族じゃといっていたの。えるふ? じゃったか。ま、嫌な気はせんがの。
と、人間以外の”人”との遭遇を楽しむカンイチ。しかも、髪が緑とは。
「ふふふ。僕の名前は、スーィレン=アールカエィフィルークトゥス――ま、エルフってとっても長いのよ。名前が。先祖の名前も入るしぃ。僕のことはアールカエフ、いや、アールとでも呼んでくれ」
何やら店? 建物の中から四角い物体を持ってきた主人。
「じゃぁ、魔力はどうする? 週に一回は込めないとダメなんだよ」
「魔力――と聞くが燃料みたいなものかの?」
「うん。そういう認識でいいよ? 魔法使いやら、魔力の多い人に頼んで入れてもらうんだよ?」
「小耳に聞いたのじゃが、自分で込めることは?」
確か、受付嬢らの情報によると”魔力”自体がとても高価と聞く。それが自分でできるのならばと。
「キミは魔法使いかい? そうは見えないけどぉ? ふぅむ。ま、いいや。実験してみよう! この先っぽ。それが”魔石”だよ。そこに触れてみ」
”魔導コンロ”と言われる四角い箱を取り出し、横部を開ける。そこから、銀の棒を引き出す。先端にガーネットに似た、小豆大の赤い宝石がはめ込まれてた。
「ここに触れればいいのかのぉ? ”魔力充電!”……なんてな」
赤い石に人差し指で触れるも、何にも変化がなかった
「ははは。お茶目だねぇ、キミぃ……ん?」
ばつが悪そうに指を放すカンイチ。その時、
「お? おおお! おぅ?」
カンイチの指先から、静電気が走るように小さな雷がガーネットに吸い込まれていく。
「おお?! すごいねぇ! うんうん。質、量ともに問題なしだ! 十分魔法使いの資質があるよ! キミぃ!」
「い、いえ。で、何時までやれば?」
「ほら、石が輝いてきたろ、そうしたら上がりだ。で、」
宝石のついていた棒を元の場所に戻し、蓋を閉める。
「こっちが上ね。で、これがスイッチ。入り、切り。やってみ?」
”かちり!”
「火は出ないのかの」
「ああ。でも、熱くなるから火傷注意ね! 金属製のポットが良いね。陶器のだと熱の伝わりが悪いからね」
「了解した。で、お幾らですか?」
「そうだなぁ~~。金貨、5枚 (高い!) と、言いたいところだが、魔石代でいいよ。金貨2枚ね。助けてもらったし。それにぃ、なんかキミとは、長い付き合いになりそうだし?」
「はぁ? そうですか?」
「うんうん。こういう勘は良く当たるんだよ。僕は。また埋まってるかもしれないから、偶に見に来てくれると嬉しいなぁ。カンイチ君」
「はぁ。しかし、魔石って高いんですねぇ」
「まぁねぇ。魔物狩るの大変だろう? それに、ギルドのお姉ちゃんとかお偉いさんの給料だって経費として、どかっ! と乗っかってるんだ。うん? ……そうだ! カンイチ君は”銀”だろ? ギルドに卸さないで、”魔石”僕の家に直接持ってきなよ」
「いいのか? そんなことしたら……」
「あ、言葉が少なかった。キミの為の魔道具を作る原料にね。もちろん横流しはしない。そりゃ、研究を兼ねるから、使うし、割れたり、消えたりするよ? ”魔石”自体、消耗品だしぃ?」
「ワシ……私の為の? それじゃ、アールさんには旨味が無いんじゃ?」
「成功報酬でいいよ。素材の提供なんかもしてくれると助かる。何よりも自由に研究ができる! 君の腕次第だが、ちまちま、せこせこ”魔石”使わなくて済む! そして魔力の補給も期待できる! ね!」
「はぁ」
良いように話が進む。
――ふむ、魔道具か……。このポットのように生活が豊かになるやもしれぬの。基本、電化製品は無いのじゃし。
「うんうん。モノになれば、”特許”申請してお金も入って来るし? こんなの欲しい! というのがあれば相談に乗るよ?」
「扇風機……風起こし器とかって作れるかの?」
「ほう? どんなものだい」
紙によくある、扇風機。もちろん、カバー無しの。
「なるほど……スクリューの推進力で風をか。ありそうでなかったなぁ。うん」
――スクリューあるんだのぉ。ということは船外機のついた船があるんじゃな。その割には魚はちいとも売っていないのぉ
と。思考が横路に逸れるカンイチ。日本人、やはり魚が食いたい。
「ふむふむ。小型化し、……ブレードは鉄はダメだな。重くて燃費も悪いし、危険だわ。指が飛ぶな。木なり紙……うん! ドラゴンフライの羽なんかも良いな! 軽くしなやかだ。ふむふむ……」
「アールさんや?」
「うん! 造ろう! カンイチ君! 材料の手配は頼むよ! それとアールでいいよ。アールで!」
「では、アール、それって依頼かの?」
「は? 水臭いなぁ。カンイチ! 共同事業と言ってほしいなぁ。あ! 僕も名前で呼ばせてもらうよ?」
「はぁ。そりゃぁ構わんがの」
その後、魔石が獲れる魔物の種類やら、羽根の材料になりそうな大きなトンボの生息地、後は蛙だか、蜥蜴だかの生息地マップを渡される。どうにも共同事業者となったようだ。カンイチは素材採取係として。
「僕はねぇ、魔道具で生活を豊かにすることが夢なんだよ。うん? 誰のって? もちろん僕のに決まってるじゃん。ついでにカンイチのも?」
――ずいぶんとまぁ、欲求に素直な方じゃの。が、人の為やらと言う輩に比べればずっと信用できるわい。耳に良いことしか言わないのは政治家と、詐欺師位なモノじゃからのぉ。
こっちの世界ではまだ友人も少ないカンイチ。己の利益にもなりそうだし、了承の意を告げる。
アールカエフとは長い付き合いになりそうだ。と。
「うんうん。君なら了承してくれると思ったよ! カンイチ! 新たな魔道具と富の為にがんばろーー!」
「うん。アール、明後日くらいから活動を開始するから。それ以降だが?」
両手を握られ、ブンブン上下に振られる。同盟締結だ。
「うんうん! 期待してるよぉ! カンイチ! よぉし! 少し片づけるか! なんだい? カンイチ! 手伝いたいのかい! 歓迎しよう!」
ま、暇だし良いかと、手伝うことにしたカンイチであった。




