この先か! 行くぞ! (スケルトン・兵)
……
フジの耳が拾った闘いの音。
段々と大きく、カンイチ達にも聞き取れる音に。
『ぎゃーー!』
”かんきん!” ”ききん!”
『た、たす ぎぇ!』
『な、何でこんなところにスケルトン・ソルジャーがいるんだよ! クソぉ!』
どうにも知らずに会敵したチームがいるようだ。すでに怪我人もでている
「この先か! 行くぞ! 親方!」
「おうよ!」
ミスリールはさっそくとバリスタを引っ張り出し、矢の代わりに金属板に囲まれたこぶし大の鉄球をセットする。金属板は鉄球がずり落ちないように防止するためのようだ。
「じゃぁ、いくよぉーー!」
「おう!」
”かちん!”
”どばぁぶぅゅん!”
恐ろしい弓鳴り音と共に鉄球が前方の暗闇に吸い込まれれる!
「やるな! ミスリール! あと四体か! 後は俺達で承ろう!」
夜目が効かず、闇のその先が見えないカンイチだが、ガハルトの口調からミスリールの放った鉄球が一体のスケルトンを屠ったであろうことは予想できる。
ミスリール、カンイチ達を置いて駆けていく、ガハルトとドワーフ夫婦
「随分と張り切ってるのぉ……」
「そうね。師匠。皆、オレが仕留めても良いのだけれど……。横取りしたら恨まれるよね? オレ達も行こう!」
大きく頷くカンイチ。彼にできるのはそれくらいだ。
「アールはここで待っとれ」
「おう! いってらっしゃい! 気を付けてね!」
頷くイザーク、フジらもここで待機だ。
そして、走り出すカンイチとミスリール
……
”ごぁしゃぁ!”
丁度、カンイチの目でも見える近さに近づいた時、ダイインドゥのバトルハンマの一撃でスケルトン・兵の頭蓋が砕かれたところだ。真上に振りかぶったハンマの一撃! それは見事なものだ。
残った頭なし骨格。薄っすら光り、溶けるように消える残骸。
”ガラン!”その場に持っていた剣を残して。
「ふぃいぃ。お! 剣を落したの! 運がいいのぉ」
歓喜の声をあげるダイインドゥ
「大丈夫か! 親方! 怪我無いか?」
「おう? 余裕じゃ。余裕。スケルトンごときに後れはとらんわい。ほれ、ディアンも直終わろう。ガハルト殿は……まぁ、の……」
「かぁ! 結構固いな! コイツ! それ! それ! それ!」
両手に鍛冶用のハンマを握り、滅多打ちにするディアン。このスケルトン兵は金属製の盾を持っているようだ。スケルトンは防戦一方。ディアンの重い一撃は片手では受けきれないようだ。両手で楯を構え、頭部を守るのに必死だ。
「うん? 頭蓋骨が弱点かのぉ?」
「そうみたいだね師匠。空っぽだろうに? それとも、中になんか詰まってるのかな?」
別段知りたくもないと思うカンイチだった。動く骸骨というだけで既に想像を超えている。
「だぁああぁ! この!」
ディアンの気合の入った、右ハンマの一撃!
”ごごいん!”
盾を押し込まれ、露わになった頭蓋骨、その額に左ハンマが振り下ろされる。頭蓋骨の継ぎ目の通りに綺麗に砕け散る頭部。こちらの残骸も溶けるように消える。
”ガラリン”
スケルトンが持っていた楯が残る。
「うん? 盾も残るんじゃな。おう? あっちにも剣が転がってるのぉ?」
「ああ、オレが撃った奴が持っていたんじゃない? 弾も残ってるといいなぁ」
「そうかのぉ。しかし、よくもまぁ、鉄球を頭に当てたもんじゃわ」
夜目の効かないカンイチには信じられない事だ。
ここまで来ればスケルトンも見えるし、襲われていた連中も。
へたり込み、戦闘の邪魔にならないように大人しくしている。
「まぁ、的は大きいし? 思った以上に安定して飛んだし? 余裕、余裕。ん? ガハルトさん……遊んでんな」
少し奥、暗がりから金属の打ち合わせる音が。二体を一人で相手にしているガハルト。
スケルトンが振り下ろす剣をトンファーで滑らせ、頭を打てるのに態々、肋骨を突き折っている。
一体なんぞは、胸の骨全てが砕かれ、欠落しているほどだ。背骨のみで立っている姿がとても痛々しい
「ん? お? おお!? 生えてくるのか? 骨?」
ガハルトに突き砕かれた肋骨の基部が光り、徐々に骨が再生していく。
「そうみたいね」
「うんむ。スケルトン系は再生しよるで。じゃで、弱点の頭を潰さねばな」
「しっかし、ガハルト殿、器用にいなすな。結構重い斬撃だぞ?」
「うむ。打ち込まれる角度やら、受ける角度。力加減……本当に化物じゃな」
ダイインドゥも唸る。ガハルトの化物ぶり。
「ガハルト殿! 怪我人いるだろう! そろそろ切り上げよう!」
と、ディアンが声をかける
「おう! そうだな!」
”ぱかぁん!” ”ぱかん!”
と、二体の頭蓋をトンファーでこともなげに砕く
「……化物め」
と、漏らすカンイチ。
「ふぅ! スケルトン・兵! あまり強い相手じゃなかったな!」
と、トンファーをくるくる回しながら、ガハルト
「そうか? 結構重い斬撃だし、硬かったぞ?」
と、ディアンが応じる
ダイインドゥと、ミスリールはドロップ品の剣と盾を検分中だ。
「良い金属じゃのぉ。が、魔力等は感じぬの」
「うんうん。これって魔鉄? 親父?」
「途中……じゃろうな。が、鋳つぶせばいいものができよう」
そんな親子の会話を聞きながら、警戒するカンイチ。
「ああ! 宝箱出たぞ! 師匠!」
「うん? 宝箱?」
ミスリールの指さす方に行くと、通路の中央、不自然にミカン箱くらいの木箱が置いてある。
「これが宝箱? ……随分と貧乏くさいのぉ……」
初宝箱を前にしてのカンイチの感想。皆の顔に苦笑が。
「ははは。ちょっと待ってね。罠、罠っと……罠も無し、鍵も無しと。開けてみな? 師匠?」
「カンイチ、気を付けよ。箱に化けとる魔物もおるでの」
「は? 世知辛いのぉ。では……」
”ぎぃ”
宝箱の中には大振りのナイフが一本。無骨だが、うっすらと光を放つ
「ナイフ一本……かの? うん?」
宝箱からナイフを出すと、宝箱自体は消えてしまった。あちこち床を手でさすったりと宝箱を探すカンイチ。
「消えてもうた……。おかしなこともあるもんじゃ……」
と、呟き、ミスリールにナイフを手渡す。
「どれ。うんうん。おお!? ミスリル銀かな? 親父!」
「どれ。うむうむ。そのようじゃな。一階層、最初のお宝にしては極上じゃ! ミスリル銀、破邪の金属といってのぉ、動く死体やら、ゴースト系によぉ効くんじゃ」
「動く死体……じゃと?」
「ほら、スケルトン――骨だって動いてるんだし。死体だって動くだろ? 師匠?」
「……じゃの」
確かにと、納得せざるを得ないが、動く死体なんぞに会いたくないと思うカンイチだった。




