おい! なにがあった!? (イレギュラー)
……
それから半時も経ったか。にわかに前方が騒がしくなる。引き上げてくる冒険者も
「うん? その”いれぎゅらー”とやらを排除出来たかの?」
「だと良いがな」
すぅと、鼻先を上げるフジ。
『人の血の臭い。死んだか?』
「お、おい? フジ?」
『これは内臓の臭いだな。生きてはいまい』
「おふぅ。ホント? フジ殿? 内臓デロりん?」
「アールよ……」
そして引きつった顔のイザーク。まだダンジョンに入ったばかりなのに早くも”死”と接する。
『どうせ、身の程知らずの馬鹿だろう』
……
暫くすると、奥の方からぞろぞろと引き揚げてくる冒険者たち
「おい! なにがあった!?」
「イレギュラーだ!」
「やられた!」
などの喧騒が近づいてきて、段々内容も聞き取れるように
「スケルトン・兵だ! 武器持ちの!」
「はぁ? マジか!」
「装備もねぇし、退くか?」
「だな。怪我でもしたら割に合わねぇ」
「退け! 退け! 道、開けてくれ!」
「邪魔だ!」
直ぐにフジの言う通り、前の方から仲間の肩を借りて数人の冒険者が。血まみれだ。
一人は既に死んでいるだろう。左肩から右腹までバッサリだ。それに、冒険者達に担がれた、二つの布で巻かれた人間大の物体もまた
「三つのチームが食われたぞ!」
「に、逃げろ!」
前の方からパニック状態の冒険者が押し寄せる。
「どけぇ!」
特に焦る様子もなく立つカンイチ達に、パニックになった男が殴りかかる。
”ぱかぁん”
その横面にトンファーが叩き込まれ、壁に激突し白目を剥く……
その様子を見て、逃げて来た冒険者たちの足もピタリと止まる。二本の奇っ怪な棒を振り回す、虎人の大男の前で
「静まれ! 逃げるのならば、ゆっくりと我らのわきを抜けてゆけい! さもなくば斬るぞ!」
トンファーを納め、スラリとバスター・ソードを引き抜くガハルト。
「ひ、お、押すなぁ! 押すなぁ! さ、刺さっちまう! 刺さっちまう!」
「ひ!」
「クソぉ!」
皆で飛び掛かろうにも狭いダンジョンの通路。しかも、ドワーフ族もいる。ドワーフ族の護りは堅固突き破るのは難しいだろう。ガハルトを相手にしながらだ。不可能に近い。
剣を突き付けるガハルトの腕に手を置くカンイチ
前門の虎人の大男、後門のスケルトン。それではあまりに不憫だと。
「おいおい。ガハルトよ。わしらも一旦、出よう。埒が明かんで」
「む、そうか? では、アール様」
「うん? もう攻略お終い? 随分と呆気なかったね?」
「ひ、ひぃ! お、押すな! き、斬られちまう!」
「は、早くいけぇ! 後ろ! 後ろ!」
「早くぅ! はやくぅぅ!」
「黙れぃ! ゆっくりと続けい! ささ、アール様」
「んじゃ、逃げようか!」
アールカエフを先頭にしずしずと撤退を始める集団。カンイチ達の後ろ、少し距離を置いて冒険者達が続く。青い顔をして。そのまま混乱なくダンジョンの外にでる。
結果的にガハルトの脅しは正解だったと言える。ドミノ倒しとなり、圧死したであろう命が救われた。
冒険者達も理解してる、かもしれない。
それに、ガハルトに詰め寄る者はいない。折角、助かった命だ。誰もがまだ、死にたくはない。
脱出した直後に衛兵が新たに掲示板に記入していく
・一階にスケルトン・兵。5体。武器持ち。注意されたし
と。
「は? スケルトン・兵? しかも一階に? マジかよ?」
「こりゃぁ、仕事に成んねぇなぁ。で、何体だ?」
「5体だとよ」
「おいおい。お前ら! スケルトンくらいどうにかなるだろうよ?」
「なら、お前が行け! 武器持ちだぞ! ウキナーん処が壊滅だそうだ」
「はぁ? なら、軍案件だろ! 軍!」
看板の前で冒険者達が集まり大騒ぎ。中には、今日は諦め、帰路につくものも。
「ガハルトよ。その”すけるとん”? とやらが、表に出てくるって事は?」
「そりゃ、出てくりゃ大問題だわな。ダンジョンが”溢れる”って事だろうよ? さて? どうする? カンイチ?」
「……どうとは?」
そんな事は分かっている。目の前には目を輝かせたガハルト。肩の辺りもぷくり、ぴくりと盛り上がる。
「ふぅ。親方は?」
「ふむ? ワシらか? 相手はスケルトンじゃろ? ――大好物じゃ!」
「おうよ! カンイチ! 任せろ!」
と、夫婦が応じる。彼らもやる気満々だ。
「うん? 大好物? ”すけるとん”とやらは、食えるのかの?」
と、首を傾げるカンイチ
「……違いますよ。カンイチさん。人型の骨の魔物の総称ですよ。人やら、トゥローの骨の魔物。ですから、打撃系の武具が有効とされていますね」
「なるほどのぉ。合点がいったわい。で。親方か……」
ダイインドゥの得物はバトルハンマ。
ディアン、ミスリールも手にはハンマ。鍛冶屋だ、扱いも上手だろう
そしてガハルトは金属製のトンファーにすでに換装済みだ。
「ふむ。なら行ってみようかのぉ」
「おお! そう来なくてはな! 下から上がってくる者もいよう! 早く駆逐してやらねばな! 犠牲者が増えるだろう!」
と、至極真面目な理由を述べるガハルト。訝し気に睨むカンイチ。
「……で、ガハルト。本心は?」
「面白そうだからに決まってるだろうが! 武器持ちだぞ! 武器持ち! しかも、皆、逃げて邪魔者もいない! 倒せばズンドコ進めるぞ! カンイチよ!」
「……だろうの。では、行くか」
……
人をかき分け、再び入り口に。歩哨の数が五人に増えている。
「ただ今から入場制限を……」
大きな看板を持った職員が入口を封鎖しようとしたが、そこて言葉を切る。目の前にはニヤリと笑うガハルト
「俺たちで一当てしてみようと思う! 通してくれ! もちろんこちらの都合! 死んでも貴殿らに恨みはない!」
「し、しかし……」
「下から上ってくる者がやられても知らぬぞ?」
筋骨隆々のガハルトから、ハンマを握りしめたドワーフ一家に視線が移る。
大きく頷いて見せるダイインドゥ。
スケルトン対策は万全と。
それに、下から何も知らずに上がってくる連中が犠牲に。タイミングよく、上位の冒険者が上がってくればいいが
「そ、そうですね……む、無理はなさらぬように。武器持ちです!」
アカジン隊長、軍の案件だが、ガハルト達を送り出す。
「応! 任せろ! 行くぞ!」
……
「で、武器もちって? 武器を持ってるって事かの? それは普通じゃないのかの?」
「下の方に行けば普通に居るそうですよ。そういった装備品がドロップするとか?」
「ほ~~ん。剣なぞの景品なら別に要らんのぉ」
「景品って……」
と、カンイチと、イザークの会話。
「まぁ、今回はどうだか知らんが、イレギュラーは良い物を持ってるとも言われていてな。強けりゃ魔剣の類かも知らん」
「”魔剣”……あの、アールにやった奴か? そいつを持ってるのか? 危なかろうが!」
「”魔剣”といってもいろんな種類がある。ま、会ってからのお楽しみ……ってな!」
「……大抵、誰もが欲しがる一級品ですけどぉ……。カンイチさんのいう通り危険なものも……」
「死ぬなよ……」
「死なん!」
『ん。こっちだな』
「うん? 場所移動したか? ありがとうございます! フジ様!」




