どうやら僕は役立たずのようだな! (ダンジョンの入り口に立って……)
……
追加の褌とツナギ、地下足袋の試作を『三丁目服店』に依頼し外に。
女将さんとトキの確かな腕に惚れこんだカンイチ一行。この国での被服装備の生産拠点は決まったようだ。
そのままブラブラとしながらレストラン『リンギーネ』へと向かう。
「チラと、覗いていくか? カンイチ。こっちだ!」
「うん?」
ガハルトに先導されてやってきたのは第一隔壁に取り付けられた鉄門の前。そう、ダンジョンの入り口だ。
鉄門は開いており、上に持ち上がるゲートが設置され、歩哨が立つ。隔壁の外、両側に詰所があり昼夜問わず監視されている。
鉄門は日の出から日の入りまで開放されており、暗くなった夜間は閉じられる。
その間は死ぬほどの重傷を負って地上に辿り着いても夜であれば出られない。そのまま死に至る事になる。一応は、隔壁の中に小屋はあるが、日のあるうちであればともかく、そんなところに常駐する物好きな医師はいない。運良く、他のチームから”霊薬”とうを買えればいいが、日の出を待つしかない。
そして、内側からどんなに騒いでも鉄門が開くことはない。
その辺りの厳格な注意事項も大きく看板に書かれている。
「ん? 今日は人、空いてるな? イザーク?」
「そうですねぇ。商人っぽい連中がいないからでしょうか?」
それでも手に看板を持ち、己を売り込む冒険者がずらりと並んでいる。
習得している技能、得物はなにやら、日当いくらやら、産出品の取り分、冒険者のランクも書いてある。
カンイチの目に留まったのは金ランク。看板にはそう書かれているが、カンイチの見立てだと、掲げる人物はそこまで力は無さそうだ
「ふぅん……。まぁ、人は見かけじゃ判らんが……。それだけ腕が立つのじゃったら、一人で潜れば良かろうに?」
「おいおい」
「うん? ガハルト、運搬人? ってなんじゃ?」
冒険者達から離れたところに別の一団が。わきに背負子を置き、仲間内で話している。
手書きの看板には、運搬人。一日幾らと。
「ああ、字の如くさ。飯やら水。ドロップ品などを運んでくれる人員だ。ほれ、料金がお高いのはマジックバッグ持ちさ。ダンジョンなんてもんはどれだけ”物”を運べるかだからなぁ」
「ほう? マジックバッグ所持を公表して……。襲われないのかの?」
「どうだろうか。ま、殺せば罪人。そこのゲートから外には出られんがなぁ。出入りの際に判定石があるからなぁ」
「聞いた噂ですけど、ダンジョン賊ともパイプがあるから大丈夫とか? 彼らの食料運んだり? 襲われたときに交渉の窓口になったり?」
「おいおい、本当か? イザーク君? それにダンジョンぞくぅ? なんじゃぁ、それは?」
「ならず者が逃げ込んだり、中で罪を犯した者が徒党を組んだり? 大きなダンジョンにはそれなりに居るようですよ?」
「彼ら(運搬人、案内人)なりの渡世術だろうさ。生きていく場だからな」
とガハルト。その言葉にうなずくカンイチ。
「悪人でもそれなりの腕があれば生きてゆける……か」
「一応は年数回、討伐隊も出されると言いますけど?」
「ま、そいつらに遭ったら駆逐だな。賊だ。賊。でだ、あっちが案内人だな。ダンジョンの案内人。罠やら水場の情報も持っている便利屋だな。ベテランになるほどいい地図を持ってるとか? 先祖代々、従事してる家もあるな。ポーターと兼業してる者もいるぞ。随分とお高いがな」
「どう違うんじゃ?」
「簡単に言うと、案内人は意見を言い、ポーターは只付いて来るのみ? そんなもんだ」
「ほーーん。すごいな。わしらも雇うのかの?」
「は? 冗談だろう? そいつも含めて攻略だ。地図は親方かミスリールが作るだろう? 細かいことやらせりゃ、ドワーフ族の右に出る者はおるまいよ。物資やらドロップ品の運搬はお前さんに期待しているが?」
「危険な罠なんかもあるのじゃろ? 案内人は……」
「……躱せ!」
「……」
「……」
カンイチ、イザーク。共に言葉を失う……
「……ええのか? それで?」
「ダメでしょ……きっと……」
「はっはっは! 安心したまえ! 僕の精霊様が罠の一つや二つや三つ……? おぅん? 今、演説中だってば……。邪魔……は? はぁ? ダンジョン行きたくないって? ……。まじ? ここまで来て? ……。ふぅ。どうやら僕は役立たずのようだな! 上でリンドウとキキョウと待つことにしよう! 子守は任せたまえ!」
「は? はぁあ? 本気か? アールよ?」
「ええぇ! アール様ぁ?」
ここに来て、まさかのアールカエフの突然の戦線離脱宣言
「だってぇ、精霊様、ダンジョンに行かないって! ほら、精霊魔法使えないなんて只の無力な美少女だよ? 僕? ……なんか言え! カンイチぃ!」
「い、いや、魂消てのぉ。言葉を失っておったわい。精霊様はダンジョンに入らんてか?」
「うん。そうみたい。”風”が無いんだって。澱んだ空気のところは御免だと? ならば! 僕なんか邪魔者以外なかろうが! ご飯も倍食べるし?」
と、己の事ながら胸を張る、アールカエフ。
「こ、こりゃぁ、参ったのぉ……」
「おいおい、カンイチも離脱なんて言ってくれるなよ?」
真っ青な顔のガハルト!
ここまで来て、まさかの事態勃発か!
「アールよ、回復魔法やらは別じゃろ?」
「ま、そうだけどぉ? 暴れられないとつまらないじゃん? うん。上にいるわ。少し時間ちょうだいよ? バリバリ君、沢山こさえるからさ」
「な、なんとまぁ……」
「カ、カンイチ……?」
「困ったの。ま、わしは潜るで……とりあえずの。お宝獲ってこないとのぉ……が、長くはイヤじゃな。アールが心配じゃ」
「ふぅ……」
がくりと肩を落とすガハルト。
「……確かにな。ファロフィアナ殿の動向も伺い知れん。ここの軍、アカジン殿も精強。アール様一人にはさせられん……な」
今までのファロフィアナの言動。動くとすれば……。
アカジンらは卑怯な手を使わない……とは思うが、所詮、帝国の軍隊だ。皇帝の裁可が下されれば従わざるを得ぬだろう。
アールカエフとて、同じハイエルフであるファロフィアナ、帝国軍精兵、ティーターたちのようなエルフの増援もあるかもしれない。暗殺組織だって抱えているだろう。一人で対処するには荷が重いだろう。
と心配をするガハルト
「ガハルト……すまんな」
「いや、アール様は我々にとっても大事なお方だ」
「ファロフィアナ様に限って……」
と、そこで言葉が切れるダリオン。ファロフィアナならやりかねんと……
「嬉しいよ。ガハルト君。でも軍隊? ファロフィアナ君? そんなのに後れは取らないよ? 僕は?」
と、胸を張る。
「……闘わんでもいいで。一緒に往こう。アールよ。ダンジョンに。お荷物じゃぁ無い。沢山食ってええで。お前がおらんとわしのやる気も萎むし、心配でダンジョンどころじゃぁないでのぉ……一緒にいておくれ」
と、そこにカンイチが告白
「あは♡ 嬉しいこと言ってくれるねぇ。うん? 【風きりのナイフ】ならなんとか行ける? そう? ふむ。なら、行っちゃおうかな?」
「おう。わしの心の安寧じゃで」
「そう? じゃぁ、行っちゃおうかな! 応援要員? バッグ娘? 荷物運搬させていただきます!」
「ぅおおおお! アール様! ありがとうございます! 必ずや御守りしますぞぉ!」
「吠えるな。ガハルト! 皆、こっちを見ておるぞ!」
「うん? 僕はカンイチに守られたいのだが? ガハルト君?」
そこにフジが欠伸しながらのそり。
『はぁふぅぅ。で、話は終わったか? どのみち、我がおる。エルフ殿には指一本触れさせはせん。そろそろ『リンギーネ』へゆこうか』
「そういえば、居たの。……フジ」
「あ……なんか、盛り上がってて……すっかり?」
と、イザーク。
「……」
ガハルトも目が点。
「う~~ん。フジ殿? なんという安定の? 安心感……」
「アールよ……。何じゃ、今までの話は……」
皆、脱力。
このフジがいるだけで、どう転んでも、なんとかなりそうな絶対的な安心感。
男前な魔獣に全て美味しいところを持っていかれたしまったカンイチだった。告白までしたにもかかわらずに。合掌。




