出会い
……
「う~む。少々スゥスゥするのぉ……」
今日のカンイチはノーパンだ。とても心もとない。洗濯板と洗剤を手に入れ、洗濯をしようと思っている。気に入った下着があれば購入も考えているが……さて。
早速、女将さんのメモにある雑貨屋に。
ここにも下着、パンツ自体は売っていたが……
「やっぱり、ひらひらが付いているのじゃなぁ」
カンイチにはどうしても”男性用”には見えない
「どうしたんだい? 坊や? パンツかい?」
「いえ、何でもありません。ここらへんだと洗濯ってどのように?」
「ん? 地方の方かね。この洗濯板と……この石鹸が主流だね。こっちの洗剤は、ちょっとお高いが、服が縮みつらくてよく落ちるよ!」
洗濯板、それとおすすめのちょっとお高い洗剤、洗濯ばさみ、部屋干し用のロープ。ついでに水差し、コップ。何を入れてもいいだろうと麻袋を複数枚購入。
「まいど~~」
「あ、そうだ。道具屋の……確か、アールさんのお店ってどのあたりですか?」
「うん? アール? ああ、魔道具屋さんね。そこの路地を入って突き当りを左。登り坂の途中にあるよ。行けばすぐにわかるさ!」
「ありがとうございます!」
購入した商品をリュックに。洗濯板は小脇に。路地に入ると人通りも無し。確認し”収納”に仕舞う。
「さぁてと、突き当りじゃったな」
”ぅぉふ!”
そうだよ。と言うようにハナが吠える。
「うん? 本当に言葉がわかってるのかの? お前たち……まさかのぉ」
突き当りを左に曲がると結構な傾斜の坂が姿を現す。よくも地滑りせんものだと感心気に見上げるカンイチ。階段のように道の両側に家がへばりついてる。
「ここか……のぉ」
中腹辺りによく言って製品。普通にガラクタに埋まったような店が。道の際迄ガラクタが押し寄せている。
「ふむ……。どこから入るのかの?」
家の前も、庭もガラクタの山で一杯。迷路のようだが、入口すらわからない。
「ふぅむ。困ったのぉ」
腕を組み、途方に暮れていると。
「……けて……たす……」
「うん?」
気のせい。とも思ったが、かすかにか細い人の声が聞こえる。しかも「助けて」と。辺りを見回すもあちらこちら、ガラクタの山がそそり立つ。
「……け……て…………」
”ぅぅおん!” ”ぅわぉふ!”
クマとハナが吠え、カンイチの握る綱を引く。その先にはガラクタの山から生える人間の足。
「なんとまぁ。ずいぶんと細い足じゃのぉ」
「ありが……と。っと……そんな事より……ぐぅぅ」
「冗談じゃ。どれ……」
がらり、がらり。
「お! おい! キミぃ~~……これ、商品……うぐっも! も、もっと丁寧にぃ!」
早い方が良かろうと、急いで退けたのだが……
「めんどうじゃぁの。死んじまうぞ? このまま見なかったことにしようかの」
「ま、まって! 冗談! じゃないけどぉ、ぼ、僕が、ぐむぅ……悪かった! 助けて!」
――まだまだ余裕がありそうじゃのぉ
と、思いながらもガラクタを順に除けるカンイチ。
「うむ。待っとれ」
”からり、からがら”
……。
……。
「ふぅいぃ。助かったよぉ。今回はマジで死ぬかと思ったわ」
発掘が終わり、掘り出したのは、奇麗な緑色の髪をした端正な顔……所謂美形の小柄の少年だった。緑色という髪の色も初めて見る。
「うん? キミはエルフ族を見るのは初めてかい? ま、あまり見ないかもねぇ」
カンイチの視線に気づいてか、エルフと名乗る美少年。
「えるふぅ? 人じゃないということかの。その髪も本物かの?」
「勿論。この尖がった耳も本物だよ。子供に見えるかもだけど、これでも結構長く生きてるんだよ! これだけガラクタが積もるくらいはね。それに、人は人さ。君のような人族とは違うけどね」
自慢げにガラクタを指し示す、緑髪のエルフ。
カンイチは内心、これが流行りのゴミ屋敷というものじゃな、と納得。
そして、ふと、クラッシュ・シンドロームの症例を思い出す。
「おい。まだ油断は出来んぞ。埋まって暫く体のあちこちを圧迫されてたじゃろ。血の塊が出来て心臓やら肺の血管詰まって死んじまうぞ?」
「そうなの? そのような症例がねぇ。ま、僕は大丈夫だよ? きっと。毎度の事だしぃ。慣れたもんさ!」
と、屈伸運動をするエルフ
「血栓に慣れも屁ったくれもないわい。死んじまうぞ」
「わかったよ。どれ……ぶつぶつぶつ……ぶつ……。うん。大丈夫。心配してくれてありがとね!」
何やらブツブツと言い出したと思ったら、うっすらと光るエルフの少年。
「無事なら良いが……なんじゃ? 今のは? 光っておったぞ」
「いやぁ~~はっはっは。ありがとう、ありがとう。魔法だよ? 魔法。診断魔法? 特に異常はなし! こんなんだけど、身体の丈夫さには定評があるのだよ! おっと、失礼、僕はこの店の主なんだ。お礼がしたいんだけど?」
「礼は良いから、以後、気を付けよ。発見されずにくたばって、こんな往来で腐れてたら、いい迷惑だわい」
「言うねぇ。キミぃ。そうだね、腐れるか。それは是非とも回避したいところだわ。はっはっは!」
「そうそう、魔道具屋のアールさん。わしは”魔導コンロ”を買いに来たのじゃが? ここで売っているのかのぉ」
「なんだ。お客さんかい? じゃ、おまけさせてもらうよ~~」
……




