うん。またどこかで! (街中の喧騒)
……
「……昼飯には、ちと豪勢じゃったな……」
軽い気持ちで来たカンイチだったが、フジとアールカエフが支配人の食堂人魂に火をつけたらしい。
自慢の料理が続々と運ばれてきた。
そして、こちらの食い意地にも火が付いたか、その大量の料理全てを平らげて来た一行。骨すら、クマ達のオミヤにと。残されたのは洗ったように綺麗になった皿のみ。コックたちも口をあんぐり。大いに驚いたものだ。
所詮は人族基準。その気になればフジなぞは際限なく食うし、アールカエフだってカンイチの何倍も食う。リンドウ、キキョウにしろ獣人族故、身体は小さくても肉などはカンイチよりも食う。ティーターは肉を食べないので別料理。カンイチが一番小食という結果に。味はもちろんよかったからそれだけ腹に納めて来た。レストランの要望通り、卸も受けた。料金も今回は通常のランチの値段でいいとの申し入れがあったが、さすがに。律儀に多めにおいてきたカンイチ。
「ま、良いんじゃない? けふぅ。ここの香草焼きも全く風味が違って美味だったね! フジ殿!」
『うむ。香草焼き……。本当に面白きものよ。肉の風味を生かしたまま、草で新たな香りを足す。それがお互いの風味をより高め……』
今ではすっかり料理評論家のフジ。特に香草焼きの造詣は深い。
「……何モノじゃ。おヌシは。フジよ……。よくもまぁ、あんなに香りの強いものが食えるわい。そうじゃ、小さい丸の玉ねぎ食ってたが、具合が悪くなったら言うんじゃぞ?」
『だから、犬じゃないわ! 我はフェンリルだ! お爺! 何度言わせればわかる!』
ぐるると牙を剥いて抗議するフジ。
「ふん。そうかよ!」
カンイチもまた、心配しとるのに! と、食って掛かる。深山村で散々、村人に言われていたからだ。クマ達にネギ類は食わせちゃならんと。
「まぁまぁ、カンイチ、フジ殿。一週間は通えるのだろうし? 楽しもうよ!」
『そうだな。エルフ殿のいうとおりだ。余計な事は言うな! お爺!』
「ふん、腹が痛くなっても知らんぞ!」
……
「それにしても、本当に雑多とした街だねぇ」
「うむ。人もそうじゃが、この看板? の類ものぉ。……『メナダの剣』? 代表者? チーム名かの?」
カンイチが見ているのは『チームメンバー求人の看板』か。他にもダンジョン産出品の買取価格やら、装備品の販売価格等の看板も所狭しと並ぶ。
「ええ、『ナメダの剣』はこの町でも有名どころのクランですね。人員募集とか? ほら、何階まで潜ったとかの記載があるでしょう。こういった実績を謳ってるんですよ。数チーム編成して協力して攻略に当たったり? この辺りに詰所があるのでしょうね」
と、案内のティーターが説明。
「へぇ? これ全部クランの求人? すごいねぇ」
等間隔に出ている看板。見える範囲でも30はある
「ううん? イザーク君曰く、クランは少ないと言っておったが……結構、多いの」
「恐らくですが、イザーク殿の言うクランは”正式”なものの事でしょう。Sランククラスの者が設立する。この辺りにあるのはダンジョン攻略のための集団ですよ。冒険者ギルドの承認ではなく、商人の後ろ盾で活動していますね」
「……ということはイザーク君の言ってたクランと違うと。複雑じゃな。ここらのは商人が金出して援助するから珍しいものを取ってこいって訳かの?」
「はい。そういった認識でいいと思いますよ」
「まぁ、僕たちには関係無いし? 良いんじゃない?」
「そうさなぁ、関わることも無かろうさ」
「そうですね。なにせ、スィーレン様と、フジ様がいるのですから」
”どばごぉん!” ”からんばらん……”
「うん?」
そんな会話をしていると、ものすごい音と共に窓から男が飛び出してきた。自ら出て来た訳ではなく叩きのされて。その証拠に窓は完全に破壊され、転がっている男は泡を吹き白目を剥いている。
リンドウとキキョウを背に隠すアールカエフ。その前に壁のように立つカンイチ。
「はぁああ?! 契約と違うじゃねぇか! こっちは条件通りの働きはしたんだ! さっさと契約書通りに金出しやがれ!」
そして、若い女の怒鳴り声。
「ま、まて、サディカ! ま!」
「うるせぇ! 金払え!」
”ががぁん!” ”ずがぁん!”
もう一人、入口のドア板をぶち破り、頭だけ外に。彼方此方から血が噴き出して痛々しい。こちらも絶賛気絶中のようだ。
そしてもう一人窓から新たに人が。こちらは商人風の男。スポンサーの商人だろうか。
「おお……。凄い女傑がおるようじゃなぁ」
通行人も、何だ何だと集まってきた。
「ふん! 代わりにこのバッグと、剣やら皆、貰っていくからな! クソ野郎が!」
「ま、待って……サディカ」
「はん! 待つか! 契約くらい守れ、この屑野郎が! ぅうん? 見せもんじゃねぇぞ!」
まだ若い。しなやかな筋肉、引き締まった体。縊れた腰、揺れる大きな胸……
「カンイチぃ……?」
「な、何じゃ……? ア、アールよ?」
「動揺しすぎ? 好みかい?」
そして整った顔。頭の上には先のまるい三角形の耳、そしてゆらり、ゆらりと揺れる尻尾。ガハルトと同じような白黄色と黒のシマシマな尻尾。
「ふぅん。虎人のお嬢さんか? 強いねぇ~~」
ピクリと女戦士の耳が動く。その視線、アールそしてフジへと注がれる
「うん? これは……エルフ様?」
と、ティーターではなくアールカエフに頭を下げる虎人の女戦士。アールカエフはフードを目深に被っているにもかかわらず。
「うん。大変だねぇ。ダンジョン潜るのも?」
「まぁ、オレは一人の助っ人ですから。こんな事、よくある事ですよ。では、失礼します。エルフ様」
「うん。またどこかで!」
マジックバッグと思われる小さなポーチと、鞘に収まった剣、5振り。行きがけの駄賃と転がる男たちの財布を抜いて去る虎人の女戦士
「中々に豪快じゃのぉ」
「惚れたかい? ……カンイチ君?」
「うんむ? 嫉妬かの? 可愛いのぉアールよ。安心せい。わしはアール一筋じゃ!」
「だ、だろう!? もう、カンイチったら♡」
「……ヨカッタデスネー。スィーレン様」
「……なんだね! ティーター君! その目は!」
『茶番はもうよかろう。串焼き食いに行こうぞ、エルフ殿』
「フジ殿ぉ! 茶番じゃないし!」




