文化じゃ! 大和魂じゃ! (褌をもとめて……)
……
「ぬぅぅ……ぅ。なんで純白が無いのじゃ……? この世界はおかしいわい!」
並べられる色とりどりな褌の前で腕を組み、不満を漏らすカンイチ。アカマチから紹介してもらった服屋に来てみたがいいが、純白の褌が見当たらない。生地の手触りも綿ではないようなサラリとした感覚。
「うん? 別にこれでも良いじゃん? 何色でも? うん? リンドウ、どの色が良い?」
「俺? 青!」
「な! 青フンだとぉ!」
「……カンイチィ。……大人気ないぞ!」
「ううぅむ……」
これだけ色と柄物で溢れているのだ。何色を選ぼうが勝手。むしろ、カンイチの方が否定されているのだ。白地が無いのだから。大人げないぞといわれても納得のいかないカンイチ。
「いかでしょう! これが今! 流行りの『フンドシ』でございまぁす! 我が工房で熟練工の手によってこさえましたる逸品! 布の質もこの辺りは特上! 品ぞろえも豊富! エルフ様でもご満足いただける品質かと!」
店の奥から、ちょび髭を生やし、お洒落な服を着たオーナーが現れる。エルフ? もちろん、お目付け役のティーターだ。アールカエフは目深にフードを被っている。
「染にしても、一級の工房に出しておりますので色落ちもありませんよ!」
「ふぅん。色はええで、純白、地も綿布のものはないのかの?」
「はぁ? そのようなもの、当店では……」
「そのようなものぉじゃとぉ? ……もうええわい!」
カンイチの中で何かが切れた……。くるりと踵を返し店の出口へと。
「おいおい、カンイチ君? 何もそこまで怒ることも無いだろ? まぁ、下着だからこだわりたいのも分かるけどねぇ」
「いや、文化じゃ! 大和魂じゃ!」
「そうなの? なにさ『やまとだましい』って?」
「お客様! この町ではうち以外には……」
「なら、作ってもらうまでじゃ! 邪魔をしたな!」
こそりと漏らした店主の言葉、『貧乏人……』その言葉、魔改造されたカンイチ耳にもしっかりと届いた。
「随分と失礼な店主ですね」
その言葉はエルフの耳、ティーターにも聞こえていた。
が、それ以上に白フンが蔑ろにされていることが許せない。譲っても赤フンだろうと。褌だけに憤慨するカンイチ。
『うん? もう終わったのか? お爺?』
「まだじゃ! が、新しい褌は欲しいのぉ。新しい仕立て屋を捜そう!」
怒って出て来たがいいが、ユーノさんに作ってもらった褌は大分くたびれて来た。是非にもダンジョンに潜るまでには新しいものを入手したい
「しょうがないね~~。フジ殿もう少し付き合ってね!」
『うむ? まだ昼には時間がある。構わん』
「そう? 僕はお腹減ったけど?」
「新しい仕立て屋ですか? それでしたら、ギルドで紹介してもらいます? 闇雲に店を尋ねても。腕のいいところを紹介してもらいましょう」
「そりゃぁ、いい考えじゃ! ティータさん!」
……
ティーターに案内され『商人ギルド』へ。
組合員ではないが、組合員の客になるため店の斡旋は喜んでしてくれる。真っ先に紹介されたのが先ほどの店舗であったが……。例の店は紹介順位を上げてもらうため会費も賄賂も多く出しているのだろう。
ギルドの話によるとこの町では先ほどの店しか特許を使った正式な褌の製造販売を行ってる店舗はは無いらしい。
帝国に行けばサヴァ国直輸入の本家『ユーノ服店』で作られた”高級品”が入手可能と。
併せて物が物だけに、粗悪品の特許未使用(海賊版)の褌が裏道で売られているので注意するようにと。この辺りはギルドならではの言動だろう。特許使用料の一部が入るのだから。
その特許の半分を持つカンイチはどうでもいい風だが。作りも簡単だし。そもそもがカンイチが考案した物でも無い。ユーノさんがいなけりゃフリーだっただろう。
とはいえ、しっかりした褌は欲しい。腕のいい仕立て屋を紹介してもらう。ギルドから紹介された候補は二軒。いずれも職人気質な店という。礼を言って外に。
一軒目は褌に興味があまりないようで、あっさりと断られてしまった。仕方ないので二軒目へ向かう。途中途中、美味そうな食い物の屋台があれば足が止まる。この辺りは仕方がない。
「ふむ。此処のようじゃな」
店の名前は『三丁目仕立て屋』。この辺りが3丁目、三の辻なのだろうか? 服屋というより、正統な仕立て屋といったところか。外から覗く店舗内には服よりも布地が目立つ。
看板にも『仕立て』、『仕立て直し』、『サイズ変更』、『修理』などの言葉が
「いらっしゃいませ」
対応してくれたのは中年のふくよかな女性。カンイチもほっと胸を撫でおろす。フィヤマでお世話になったユーノ服店、店主のユーノ女史のような若い別嬪さんでは注文するのは少々恥ずかしい
「ここはオーダーを受けてくれるのかの?」
「ええ、ええ。布の服から革を持ち込んでくれりゃ、革の外套くらいまでは作りますよぉ」
「それよりも、褌のオーダーを頼みたいのじゃが?」
「フンドシ? ああ、あれかい? 『ツナー中央服店』で、売ってるやつだねぇ。すまんが、ウチは特許買ってないんでねぇ。作れないんだよぉ」
「特許? そいつを買うつもりは?」
「う~~ん。もう少し浸透してから……とも思ってるんだけどねぇ。あんな布の下着ってのもねぇ」
最初に寄った店、『ツナー中央服店』が大々的に売りに出しているので二の足を踏んでるようだ。
「あれはたしかに良い物じゃ。が! 真なるものが伝わっていない! そう! 大和魂がの!」
と、拳を握るカンイチ。
「やまとたましい? ……なんだね? そりゃぁ?」
「本来は綿! 己の心根のような純白! 水玉なんか褌じゃぁないわい!」
と、少々偏った褌論をかますカンイチ。服屋の女将さんも目をぱちくり。精神論なので共感を得るのは難しいだろう。しかも、外国はおろか星すら違うのだから。地球の、日本の理想を語ったところで通じる由もなし。それに最近はその大和の国でも色とりどりの褌を売っている。
「ま、あまり、気にしないでよ? カンイチのこだわり? 意味不明でしょ?」
と、鼻息荒いカンイチを放置し、困り顔の女将さんに助け舟を出すアールカエフ。
「そうねぇ。うん? カンイチ……はて? 何処かで……?」
「いいじゃない! やろうよ! 母さん!」
店の奥から若い女性が現れれる! 綺麗な金髪のお嬢さん。もちろん巨乳だ。じろりとアールカエフに睨まれるカンイチ。殺気と共に。カンイチ、ピンチ!
「カンイチさんて特許の人でしょ! ユーノさんと連名の! 珍しいお名前ですし? すごぉい!」
おっと! これ以上近づいてくれるなよ! と女性とカンイチの間に割り込むアールカエフ。ディフェンスは万全だ。
「あれ試しに買ってみたけどぉ。イマイチ有用性が分からないのよねぇ。考案者さんの指導なら本当の物が作れるのじゃないかしら?」
「カンイチ……さん? ああ! 思いだしたわ。確かに特許使用書にあったわね! そうねぇ。作ってみるかぁ。特許もそれから考えればいいわねぇ」
「で、それはどんなのですか? カンイチさん? 今、身につけています?」
と、迫るご婦人方。
仕方なしと、ズボンを下ろそうと手を掛ける…… (つづく)




